第133話 このゲームを始めてから、退屈な人生が大きく変わりました

 この世界において、ギルドを越えてパーティを組む場合、以下の方法を取る。


「マリアン、支援者としてロゼのパーティに参加して下さい」


 姫はそう提案した。

 ロゼのギルドメンバーでパーティを編成し、そこに支援者としてソロのマリアンを付ける。

 変則的だが、こうすることで疑似的にパーティの6人目として戦える。


「モンスターから得られる金が6等分になるのは、ちょっと嫌だな」


 ロゼは眉根を寄せた。

 商人だけあって金のことにうるさい。


「では早速、明日、ラストダンジョンに向かうように」


 だが、有無を言わさぬ姫の一言でロゼは不服そうだが頷いた。



「ガイアー、秘密の話って何だろうねー?」


 フィナがケーキをほおばりながら問い掛ける。

 もうこれで15個目だ。

 テーブルの上がケーキの皿でいっぱいになっている。

 私とフィナは、姫の城の応接室で向かい合っていた。


「私にも分かりません」


 珈琲を一口飲んだ。

 もしかしたら、世界更新アップデートのことかもしれない。

 前からそんな予感がしていたが。

 この世界を早くクリアしろという神からの啓示。

 

「ユウタ……」


 私は守護者として同じ場所に立てることを誇りに思う。


「ガイア、口に生クリームついてるよ」



 会議を終え、姫の城を出る。

 町民に扮した護衛が、私に攻撃を加えようとする者に目を光らせる。


「ロゼ、一緒に帰ろう」


 マリアンに呼び止められた。

 私は護衛に目配せし、下がらせた。

 私はマリアンの頭から爪先を見た。


「随分と赤く光っているが、その身にまとう鎧はもしかして……」

「これは『火竜の鎧』だ。この前の世界更新アップデートで追加された高難度クエストで手に入れたものだ。攻撃する者に炎のダメージを与える優れものさ」


 マリアンは武器、防具マニアだ。

 この世界にあるほとんどの戦闘アイテムを所有していると言っても過言ではない。

 その中の幾つかは、彼女から素材を受け取り私のギルドで生産した物もある。


「ロゼ、お前のギルドでこの前つくってくれた鎧だぞ」

「そうだったな」

「すごい役になってるぞ」

「ありがとう」


 大きな生産施設を有する私のギルドでは、日々、沢山の武器、防具、アイテムが生産されている。

 マリアンはレアな素材を手に入れる度に、私のギルドにそれを持って来る。

 彼女は欲しい武器のイメージを楽しそうに語る。

 私は彼女から渡されたレアな素材で、その武器を生産しようと試行錯誤する。

 大抵は上手くいかない。

 だが、マリアンは生産に成功しても失敗しても金を払ってくれる。


「なあ、ロゼ」

「何だ?」


 マリアンは特殊な空間魔法を施したカバンから、緑に輝く鉱石を取り出した。


「この前、倒したエメラルドドラゴンがドロップした『深緑の幻獣石』。これで、あの武器を作れそうか?」

「すごいな。やっと手に入ったのか」


 この世界には、沢山の素材があり、それを元にして沢山のアイテムを作ることが出来る。

 神による世界更新アップデートが行われる度に、そのバリエーションは増えて行く。

 私は世界更新アップデートが待ち遠しい。

 欲しい物を作るための生産方法をあれこれ試すのは楽しく、苦労して作った物が高値で売れるのは嬉しい。

 そして、それを使って強いモンスターを倒し、冒険する者がいる。

 それは私にとっての存在証明であり、承認欲求を叶えてくれるものだった。


「作れるといいな」

「うん」


 私は頷く。

 だが……


「しかし、次の世界更新アップデートが最後とはな」


つづく

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