第115話 最後の偽物になつく美少女エルフ

 ユウタは首に下げたお守りを手に取り、それを見ながらこう言った。


「僕とフィナは運命共同体です。彼女が危険に晒されたら僕が身を挺して守り、僕が危険に晒されたらフィナが身を挺して守る。これまでも何度かそんな場面がありました。だから、偽フィナを見破ることが出来た」

「そうなんですか……」


 お守りには『ユウタ頑張れ』と刺繍されている。


「僕はフィナの言葉を信じているんです。彼女はこう言ってくれました」



『ユウタが死ぬ時が、フィナの死ぬ時だよ』



 その言葉が私の耳朶を打つ。

 ユウタとフィナは強い絆で結ばれているんだ……。

 そんな二人の聖域に、ユウタと出会って間もない私が入れる訳が無い。

 ひとまず窮地は脱したが、私の胸は苦しくなった。


「さぁ、本物のフィナを探しましょう」

「はい」


 偽物の私もどこかにいるはずだ。



「ユウター!」


 開け放たれたボス部屋から声が聞こえる。

 紛れも無い、フィナの黄色い甲高い声。

 目を凝らすと、部屋の奥にある祭壇に人影が。

 その人影は元気よくピョンピョン飛び跳ねながら、こちらに手を振っている。


「フィナだ!」


 僕は叫んでいた。

 敵地だというのに、あの能天気振り。

 間違いない。

 本物だ。

 僕は思わず飛び出していた。


「待って!」


 手首を掴まれた僕は、グイッと後ろに引き戻された。


「ユウタさん! 嬉しいのは分かります。だけど……不用意な行動は慎んでください!」


 ガイアが顔を真っ赤にして、僕を𠮟りつける。

 こんなに怒っている彼女を見たのは初めてだ。


「ここはボス部屋です。何が起こるか分からないんですよ! もしかしたらまだ罠が仕掛けられているのかもしれないし、ちょっとは警戒して下さい」

「……すいません」

「もう。ユウタさんは救世主なんです。フィナさん一人だけのものじゃないんですから……自覚を持ってくださいね」

「はい」


 ガイアの紅潮した頬、潤んだ瞳。

 彼女は本気で僕のことを心配してくれている様だ。


「ユウター!」


 フィナが祭壇から飛び降り、フワリと身軽に地面に着地。

 よほど嬉しいのか尖った耳をピンとさせ、息を弾ませてこちらに駆け寄ってくる。

 彼女の様子を見ていると、この部屋にはもう罠は無さそうだ。


「あれ!? ガイアもいる? 何で?」


 僕らの数歩手前でフィナは立ち止まり、僕とガイアを交互に見ながら首を傾げている。


「ガイア、分身したの!? 分身の術が使えるの? すごーい!」


 フィナが目を丸くしながら、ガイアを褒める。

 フィナの横には、いつの間にかガイアが立っていた。

 僕の隣にいるガイアと、フィナの隣にいるガイアが同時に声を上げる。


「ユウタさん。フィナさんの側にいるのは私の偽物です」

「ユウタさん。あなたの側にいる方こそ偽物です」


 僕は同時に声を掛けられて混乱した。


つづく

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