第113話 私を信じて。そして、手を取って。

 鉄の扉を前にして、私とユウタは合流出来た。


「ガイアさん! 無事でしたか!」

「はい!」


 私は彼の笑顔を見て、ホッとすると同時に顔中に自然と笑みが浮かぶ。


「やっと本物のユウタさんに出会えた」


 彼に駆け寄る。

 さっきの偽物は、ステータスや容姿に関してはユウタさんと全く同じだった。

 だけど、やっぱりなにか違うと思った。

 その時はそれが何かハッキリとしなかった。

 そして、今、本物を前にしてこれこそが彼なんだと思った。

 このたたずまい。

 この息遣い。

 そして、瞳に宿した救世主の光。

 思わず、彼に飛びつきそうになる。


「ああ……」


 いけない、いけない!

 寸でのところで、自身の気持ちをを抑えた。

 顔が真っ赤なのがバレなければいいけど……


「本物ってどういうことですか?」


 ユウタが不思議そうな顔をして問い掛ける。


「はい。ここに来るまでに私は、あなたそっくりの……」

「ねぇ! 早く行こうよ! この扉の向こうに二階へ上がる階段がきっとあるんだよ」


 フィナが私の言葉を遮る様に言った。

 私はフィナと目が合った。

 すぐに彼女は目を逸らした。


「そうだな。早くギルドホールに戻らないと」


 ユウタが扉に手を掛ける。


「待って! ユウタさん、聞いてください」


 私の呼び掛けに彼は振り返った。


「私は先程まで、偽物のユウタさんと一緒にいました」

「偽物……? そういえばガイアさん、さっきから本物とか、今は偽物とか、何のことです?」

「よく聞いてください。ここに巣食うモンスターは、探索者ソックリに偽装するスキルを持っています。仲間に化けることで不意を突いて、探索者を殺すことを基本戦略としています。私は、ユウタさんに化けたモンスターと戦い倒しました。倒すと同時にスキルが解け、モンスターは元の姿に戻りました」


 私はフィナが怪しいと思っている。

 ユウタの背中に付いた傷跡と、フィナが腰から下げているナイフの刃先が一致している。

 偽フィナはユウタを一度、背後から攻撃したのだ。

 だが、ユウタはそれでも彼女を疑っていない。

 というか、疑うだけの情報を持っていないのだろう。


「ガイア! 訳の分からない事言わないで」

「ユウタさん、あなたの側にいるフィナは偽物です。この扉の向こう側はボスモンスターの部屋です。偽フィナはあなたをそこに誘導しようとしているんです」


 ユウタはせわしなく私と偽フィナを見ている。

 可愛そうなくらい混乱していた。


「ユウタ、だとしたら、ガイアが偽物かもしれないよ。偽ガイアは私達をそそのかそうとしてるんだよ」


 そう来たか。

 偽ユウタよりは頭が回る様だ。


「ちょっといいですか?」


 ユウタがおずおずと問い掛ける。


「ガイアさんはどうやってここまで辿り着いたんですか?」


 ユウタの瞳には、私が歪んで映り込んでいた。


つづく

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