第108話 ゲームに閉じ込められた世代の孫娘たち

「大祖先様!」


 振り返ったロドリゴが声を上げる。

 そこには、羽織袴に皮の胸当てを着けた大祖先こと、レゴラスが立っていた。

 彼の背には矢が入った筒が背負われていた。

 手甲を着けた右手には矢、左手に弓を持っている。

 彼は私の方を向いてこう言った。


「リンネ、挨拶が遅れたが、ギルドマスターとしてよろしく頼むぞな」

「うむ」


 レゴラスは年を取っているせいか、足取りはゆっくりだ。


「大祖先様、寝ておられなくて大丈夫なのですか?」


 レゴラスのステータスを見る。

 『病』状態だ。


「心配するな。ずっと寝ていてはかえって身体に悪い。それに、お前達がピンチなのに、のうのうとギルド創設者のわしが寝ているわけにはいかんわい」


 この世界にいる人間は等しく年を取る。

 寿命はそれぞれ異なるが、ステータスに記載されている年齢は積み重なり、個人差によっては病気になったり、疲れが取れにくくなったり、筋力が衰えたりする。

 加齢による病は魔法や薬ではすぐに治せない。

 大祖先の年齢は113歳だった。


「騒がしいと思ったら、ジジイ、お前か。まだ生きてたのか?」


 マリアンが目を覚ました。


「失礼な。この小娘が。……お前が幼い頃、ゴブリンに追い掛けられて泣き叫んで、わしに泣きついて来たくせしおって。あの時のお前は可愛かった。それが、今ではお転婆を通り越して、こんなアバズレになるとは……」

「うるせえ。私の身内と知り合いだからって馴れ馴れしく言い寄ってくんな!」


 マリアンとレゴラスは顔見知りなのだろうか。


「まったく、悠真と同じように育ったなお前は」


 二人だけにしか伝わらない会話を、私はじっと聞いていた。

 レゴラスが耳を傾ける私の態度を気付いてか、私の方を振り向いてこう言った。


「リンネ、説明しておこう。マリアンはな、わしの地球ちきゅうでの親友である工藤悠真の孫にあたるのじゃ」


 マリアンがチッと舌打ちした。


「奴とは魔界プロジェクトのベータテスト版からプレイを共にし、一緒にゲームに閉じ込められた」


 レゴラスことミヤナガ・タダオミは、地球ちきゅうでゲームをプレイしていた。

 そして、何らかの理由で肉体を地球ちきゅうに置いたまま、意識だけをゲームに取り込まれた。

 以来、ゲームの中から抜け出せないでいる。

 ユウマという男も、レゴラスと同じような状態だったのだろう。


「お前の親友はまだ生きている?」


 私は問い掛けた。


「ゲームに閉じ込められた最初の世代はわし以外、すべて死に絶えた」


 つまりこの世界において、地球ちきゅうと直接的な接点を持つのは、レゴラスだけということになる。

 あとは、最初の世代から生まれた電子データだ。


「マリアン。お前は悠真そっくりに育ったな。奴は廃人ゲーマーだったから、このゲームの世界に閉じ込められたのを歓迎しておった。それはどうやら奴の息子にも伝わっていたし、孫娘のお前にもしかと受け継がれている様じゃ」


 昔を懐かしむ様に、レゴラスは顎髭を撫でながらそう言った。

 マリアンはそっぽを向いている。

 そして、レゴラスは両手を広げこう言った。


「じゃがの、ゲームはクリアするためにあるもの。いつかは終わらせなければならぬのじゃ!」


 マリアンは眉根を寄せ、キッとレゴラスを睨んだ。


「おい、ジジイ! どういうつもりか知らねえが、人の生き方を指図するんじゃねぇ! 私はここでの生活に満足してるんだ! クリアなんぞ知ったことか!」

 

つづく

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