第105話 バカは高いところが好き
「ひゃー! 風が気持ちいね!」
フィナは緑色のポニーテールを風になびかせながら、グリフォンの背の上ではしゃいだ。
「おいおい! フィナ。あんまりギャンベリの上で飛び跳ねんじゃねぇぞ! こいつはデリケートなんだからな!」
手綱を握る
ギャンベリとはこのグリフォンの名前の様だ。
「ゴリッチュ、もっと飛ばしてよ!」
フィナは彼の言葉を無視して、遥か先を指差す。
「これが限界だよ!」
ゴリッチュは前を向いたまま答えた。
フィナの相手はごめんだ、と言わんばかりに。
僕とガイア、そしてフィナはグリフォンの背に揺られながら、
「ガイアさん、あっ……すいません」
僕は彼女に話し掛けようとして、やめた。
彼女が誰かと通信中だったからだ。
通信を終えた彼女はこう言った。
「ユウタさん、あとどれくらいかかりそうですか?」
「えっと……ゴリッチュ、街まであとどれくらい掛かるんだい?」
僕はゴリッチュに問い掛けた。
「……そうだなぁ……辺境から街までは飛行生物の力を借りたとしても、ゆうに5時間掛かる」
オークである彼は、口から牙をのぞかせながらそう言った。
「……だそうです」
「じゃ、ユウタさん、転移玉を使いましょう」
ガイアは意を決した様に僕にそう言った。
何故、そんなに急ぐ必要があるのか?
DEATHの急襲を凌ぎ切ったのでは?
首を傾げる僕にガイアはこう答えた。
「ギルドマスターのマリアンが攻めて来ました」
「え!?」
先程まで僕達と戦っていたマリアンが、どうしてそんなにも早く街に戻れたのか。
「恐らく、マリアンは転移玉を使ったのでしょう。だから、我々も転移玉を使い
ガイアは自身のカバンから緋色に輝く玉を取り出した。
つるりとしたその玉の表面には、僕とガイアの顔が映り込んでいる。
「転移玉かぁ……噂には聞いてたけど実物を見るのは初めてです。これを使えばどこにでも行けるんですよね」
転移玉はこの世界における3大入手困難アイテムの一つだ。
高難度クエストでの報酬として、ごくまれに手に入れることが出来る。
または、超レアな素材を組み合わせることによりごくまれに生成出来る。
一度使用すれば砕け散る。
まさに幻想級のアイテムだ。
「どこでも行けるってことは、どこに行くか分からないってことでもあるんです」
「え?」
「例えば私がここから街に行きたいと玉に念じても、街に行けるとは限らないのです」
転移玉を使ったことのあるガイアは、この玉の使用上の注意を語った。
どうやら、そう都合の良いアイテムではないらしい。
ほとんどの場合は、行きたい場所に行くことが出来る。
だが、低確率で当てが外れることがある。
例えば、行きたい場所から少し遠い場所に転移したり、まったく見当違いのモンスターの巣の中に転移する場合もある。
「バグなのかそういう仕様なのかは分かりません。それでも強力な敵から逃げる時には重宝します。何より希少価値が高いので市場で高値で取引されています。ギルドの運営資金を手に入れたい時に役に立ちます」
転移玉が特別なアイテムだということは良く分かった。
そして、それを使わなければいけないほど切羽詰まった状況だということも良く分かった。
「わーい! 楽しみ! 時空を超えるのってどんな感じなんだろう?」
フィナが能天気に転移玉を撫でる。
「では、皆さん、それぞれ転移玉に手をかざしてください」
僕、フィナ、ガイアの順でつるりとした表面に手をかざす。
ガイアが目を閉じ唱える。
「神よ、我らが望むその場所へと導き給え」
つづく
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