第104話 人質はお兄ちゃん

 赤毛の女のステータスを確認する。

 レベル95の戦士。

 そうだ、忘れもしない。

 この女が仕掛けた罠のせいで、ユウタは鉄騎同盟をクビになり、ナオシゲは死に、兄者はバカにされた。

 DEATHのギルドマスター、名前はマリアン。

 私はマリアンの切れ長の目を睨みつけた。


「おいおい、怖い顔するなって。可愛い顔が台無しだよ。そう言えば、君とは五大ギルド会議以来だな。あの時は色々とあったがまたこうして出会えて嬉しいよ」


 マリアンは紫色に光る剣についた血脂をクロスで拭きながら、口角を上げる。

 そして、床に転がされたタイチを黒いブーツの爪先で蹴飛ばした。


「やめろ!」


 だが、彼女は私の叫びを無視し、嘲笑する様に口角を上げる。

 タイチのHPは1で麻痺状態に陥っていた。

 セイラも同じだった。

 マリアンの後ろに黒いローブをまとった妖術師が控えていた。

 マリアンがタイチらを瀕死の状態にしたうえで、妖術師が魔法を使い、麻痺状態にしたのだろう。

 わざわざ生かしておく理由は何だ?

 取引がしたいとか言っていたが、その材料がタイチとセイラなのか?


「タイチとかいうこの男、私を相手になかなか善戦した。が、いまいち、センスが無いな。何というか、攻撃が単調というか……まさに脳筋といったところか。そう言えば私と戦っている時もこの男は君の名前を叫んでいた。君の助けが無いと力を発揮出来ないんだろうな。まったく情けないシスコン兄貴だな」

「うるさい」

「ふふふ。兄の汚名を晴らすために、戦ってみるかね。私と」


 紫の刃が私の鼻先に突き付けられる。

 挑発的な態度に、思わず腰のクナイに手が伸びる。

 だが、本能的に一歩も動けなくなる。

 こいつは危険だと脳内からシグナルが送られ、それが全身に伝わっているのだ。

 他のメンバーもマリアンには近づけないでいた。


「フハハハハ! お前もこの男みたいに無様な姿を晒したくなければ、救世主が来るまでそこで大人しくしてるんだな」


 マリアンは寝転がったままのタイチの背に座り、自身の膝に両肘を乗せた。

 組んだ両手の上に小さな顎を乗せ、目を閉じた。

 そして、彼女は小さく寝息を立て始めた。


「くっ……」


 私達をなめ切っているその態度に腹が立ってくる。

 麻痺状態でも顔の筋肉だけは動かせるのか、タイチは歯噛みし悔しそうだ。

 横でセイラが泣いている。

 マリアンの考えていることは何となく分かる。

 彼女は鉄騎同盟とユウタの、かつての繋がりを利用しようとしている。

 それにしても、鉄騎同盟が地球アースに身を寄せいることをどこで知ったのだろうか?

 恐らく、地球アースの中にDEATHの内通者がいるのだろう。

 第一弾の奇襲は、鉄騎同盟が地球アースのギルドホールにいるかどうか探りを入れるためのものだったのだろう。


「ユウタ……」


 これからユウタに迫られる選択--

 彼のことを思うと、私は胸が痛くなった。

 

つづく

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