第89話 パッチにバグがあるので、新しいパッチをダウンロードしてください。

 瀕死のユウタが光に包まれた。

 その光を間近で浴びた私は、瀕死のダメージを負った。

 たまらず、飛び退いた。

 黒いローブを着た幼い妖術師が、逃すまいと魔法を掛ける。

 たいした魔法ではないが、今のHP100の私ならこの程度でも死んでしまう。


 身をよじらせ炎の玉を何とか避ける。


「くうっ……」


 自分でも恥ずかしくなるくらいの苦しい悲鳴が出る。


「待て! マリアン!」


 叫ぶユウタを無視して私は退却した。



 あれが救世主という者なのか。

 戦いの最中でも、仲間のことを救おうとし、それに呼応するように神が新たな力を授ける。

 この世界は救世主のためにあり、我々は、それを補佐するためだけにしか存在していないのかもしれない。

 いかに救世主を魔王の元に導くか、それが我々の使命であり役どころなのだろう。

 仮に私が強くなったとしても、ユウタには勝てない。

 そう思った。

 だが、奴には消えてもらわなければならない。


「ふぅ……」


 回想から抜け出した私は、立ち上がるとある人物に通信を飛ばした。



 僕はHPが0になったガイアをじっと見ていた。

 彼女は自分が救世主だと信じていた。

 だが、選ばれたのは僕で、結果的に僕は彼女を深く傷つけてしまった。

 僕でなく彼女が選ばれればよかったのに……

 そう思った。

 僕は彼女を蘇生させるため、蘇生魔法を詠唱していた。


「ユウタ!」


 フィナに背中を叩かれ、我に返る。


「ガイアはユウタのために蘇生魔法を使って死んでくれたんだよ! それをユウタが蘇生魔法を唱えて死んだら、ガイアのしたことが意味ないじゃん!」


 確かに。

 僕は我を失っていた。

 だが、彼女には生き返って欲しかった。


「ユウタさん!」


 セレスがガイアのステータスを見る様に促した。

 HPが0から1へと不規則に変化している。


「どういうことだ?」


 ネスコに問い合わせる。

 その際、ガイアのことも話した。


<新しく追加された魔法だからまだ不具合があるのかもしれない。つまり、バグ……ガイアはもしかしたら生き返るかもしれない>

「その方法は?」

<……分からん>


 僕はずっこけた。

 希望は見えたが、依然として状況は変わらない。

 ガイアは目を閉じたままだ。

 HPが1の時は生きているのだろうが、すぐ0になる。

 僕は1の時治癒魔法を掛けて見たが、回復はしなかった。

 そうこうしている内に、ネスコから通信が来た。


<ユウタ。ガイアを復活させる方法が分かったぞ>


つづく

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