第84話 チート級の治癒魔法使いは、極悪女戦士を返り討ちにする!

 傷が癒え、HPが多少回復して来た私は心に余裕が出て来た。

 特殊な空間魔法を施したカバンから、一冊の本を取り出す。

 我がギルドに伝わるこの世界の攻略本。

 それによると、以下の通りに定義されている。


『救世主』は『守護者』を引き連れ魔王を倒す。


 我々がいくらレベルを上げ、強くなっても魔王は倒せない。

 これは姫からも聞かされていた。

 何でも魔王は救世主にしか使えない魔法や武器でないとダメージを与えることが出来ないらしい。

 救世主は神がランダムに選ぶのだそうだ。

 ジャヴァ・パイソンのギルドマスター、アスミ曰く、


「救世主は運営がプログラミングした乱数発生プログラムで、ランダムに決められる」


 らしい。

 言っていることが良く分からなかったが、そうして選ばれた者は左胸に聖痕が浮き上がり、不思議な力に目覚めるという。

 私が救世主でないことは良く理解していた。

 そして、救世主は遂に現れた。

 数日前、姫に呼ばれそのことを告げられた時は動揺した。

 魔王が倒されれば、モンスターも居なくなる。

 それは私にとって不利益なことだ。

 強くなる前に救世主を倒さなければ。

 だが、姫は救世主の居場所を教えてはくれなかった。


「救世主は辺境の狩り場で、ガイアと修業している」


 そう教えてくれたのは、地球アースに属するメンバーだった。

 こちらがスパイとして送り込んだ者が、メンバーとして成りすましているだけだが。

 手元に置いておきたい有能な者を、あえて送り込んだ。

 彼は有能なだけに、地球アースで要職につき、ガイアの信頼を勝ち取り側近にまでなっている。

 スパイを送り込んで諜報活動を展開する。

 情報が全てのこの世界で、卑怯だといわれても間者を送り込むのは常識だ。

 全てのギルドがやっていることだった。

 DEATHの中にも、どこかのギルドから送り込まれたスパイがきっといるはずだ。

 

「ふぅ」


 水を一口飲み、息をつく。

 私はスパイを探し出さない様にしている。

 時間の無駄だ。

 その代わり、メンバー全員にこう告げている。


「ギルドを抜けたものは殺す」


 これで、スパイはずっとDEATHに属していないといけなくなる。

 元のギルドに戻ることが出来なければスパイをしても意味が無いだろう。

 私はカバンから『武器治癒剤ウエポンヒーリング』と『防具治癒剤アーマーヒーリング』を取り出した。

 刃こぼれして使い物にならなくなった神龍の剣に武器治癒剤ウエポンヒーリングを振りかける。

 七色の光に包まれた神龍の剣がみるみるうちに、新品同様の輝きを取り戻す。

 次に、ボロボロに砕けた黒王の鎧に防具治癒剤アーマーヒーリングを振りかける。

 神龍の剣と同様、黒王の鎧は元の防御力を取り戻した。

 この世界の武器や防具には耐久性が設定されていて、使えば使う程、ボロボロになる。

 耐久性が0になれば、それは使い物にならなくなり消滅する。

 だから、武器や防具は鍛冶屋に依頼して修理してもらうか、高価な治癒剤を用いて耐久性を回復させる必要がある。

 私の装備は、高難易度のクエストを攻略しないと手に入れられないものばかりだ。

 攻撃力、防御力、耐久性、全てにおいて優れている。

 それがユウタとの勝負でボロボロにされた。

 レベル95の戦士職の私が、レベル90の治癒魔法使いに潰走させられるとは。

 奴の放った白い光の閃光、そして障壁。

 これが救世主という者なのか。


つづく

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