第82話 命をもらって命をつなぐ

 目を覚ますと、ボロボロの板で出来た天井が目に飛び込んで来た。


「あっ! ユウタがやっと起きた!」


 僕を見下ろす、フィナと目が合う。

 彼女の目は赤く、泣き腫らしたかの様だった。


「ユウタさん!」


 セレスとウエンディも駈け込んで来た。

 ここはフィナの家だ。

 だが、一体どういうことだ?

 僕は確かガイア達と森で戦い、レベルアップに励んでいたはずだが……。


「ユウタ、覚えてないの?」

「……うん、何があったんだ?」


 そういえば、ガイアがいない。


「ユウタさん、あなたは死んでいたんです」

「え!?」

「ガイアさんが蘇生魔法で蘇らせてくれました」


 セレスの言葉が引き金になり、僕の記憶が少しずつ蘇って行く。


「確か、僕はDEATHのギルドマスター、マリアンに襲われて……そんなことより、ガイアさんは!?」

「彼女は……」


 セレスは言葉に詰まった。



 仮の住処で、ガイアは目を閉じたまま伏せていた。

 彼女のステータスを確認すると、HPは0のままだ。

 彼女は自身の命と引き換えに蘇生魔法を僕に使い、死んでいた。


「この世界には蘇生魔法などまだ存在しなかったはずだが……」


 僕は彼女の手に自分の手を重ねた。

 そんなことをしても生き返るはずはないのだが、そうしたかった。

 彼女は救世主になりたかった。

 だから僕を倒して、本当の救世主として世界に認めてもらおうとしていた。

 目を閉じて、僕は自分のステータスを確認する。

 レベルは90になっていた。

 ガイアのお陰だ。

 レベル90になった僕に彼女は戦いを挑んで来た。

 その時、DEATHのギルドマスター、マリアンが現れた。


「ネスコさんに通信で訊いたら、今度の世界更新アップデートで蘇生魔法が追加されたそうです」

「そ、そんなことってあるのか……」


 僕は驚き、ガイアの雪の様に白い顔を見た。

 その顔は美しく、死なせるのはもったいないと思った。


 その追加された治癒魔法は、制限付きのものだった。

 ネスコはこの魔法が追加されたことについて、こう言っていたらしい。


「この世界を攻略するためには、もってこいの魔法だ。だが、神がそんなに都合良く命を扱える魔法を人間に与えるとは思えない。だが、誰かが死ぬことで誰かが生き返るという制限付きなら、蘇生魔法を人間に与えたことも合点がいく。神はこの魔法を人間がどう使うか試しておられるのだろう」


 治癒魔法使いならレベル90から使えるらしい。

 ならば、僕も使えるのだ。

 

「ガイアさんは、何で僕に蘇生魔法を……」


 僕はマリアンと戦った。

 皆を守るために。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る