第74話 うんこの巻

 ユウタ、私と勝負しましょう。

 だけど、今の弱いあなたを倒したって意味が無い。

 だって、私と同等かそれより強いあなたを倒さなければ、私は姫から救世主として認めてもらえないから。

 何より私のプライドが許さない。

 そのために早く強くなりなさい。

 早く私と同じレベル90になるのです。

 兎に角、強いあなたと戦って私は勝つ。

 そして、私が救世主になる。



 ネスコはガイアを信頼しているようで、彼女に狩り場での取りまとめを一任していた。

 だから、パーティ編成も彼女の言うとおりになった。


「もぉ! 腹立つなあ! セレス、ウエンディ、今日はあそぼ!」


 へそを曲げたフィナは早速、サボる宣言をした。


 狩り場は今日もモンスターが多い。

 ガイアは自分から仕掛けて行った。


「前方にホブゴブリン、5体! 行きますよ!」

「は、はい!」


 速い。

 白いローブの裾が激しくはためく。

 僕は彼女の背を追い掛けるので精いっぱいだ。


大範囲聖攻氣ラージレンジ・ホーリーアタック!」


 ターゲットにしたモンスター全てにダメージを与える聖攻撃魔法。

 高レベルの治癒魔法使いにしか使えない。

 ガイアは手の平から無数の光の球を放出し、一瞬でホブゴブリンの群れを倒す。


「流石ですね!」


 僕は彼女を褒めた。

 ガイアは何も答えなかった。

 相手するのも時間の無駄と思っているのだろうか。

 僕に背を向け、次のモンスターを探している様だ。


荒猪ラフボア、5体! 行きますよ!」


 ガイアは獰猛な猪の群れにに向かって走り出した。

 何か……まるで何かに、追い立てられているかの様な急ぎっぷりだ。 

 

「あっ!」


 フィナが大声を上げる。


「ガイアが今、うんこ踏んだ!」


 ガイアは前のめりになり、こけた。

 そこに、荒猪ラフボアが襲い掛かる。


中範囲聖攻氣ミドルレンジ・ホーリーアタック!」


 すかさず僕が魔法で弾き飛ばす。

 だが筋肉の鎧をまとった猪だ。

 負傷したがまだ生きている。


「くっ……」


 詠唱に時間が掛かる。

 仕方ない。

 僕はガイアの盾になることにした。

 走る。

 その僕の横を緑色が駆け抜ける。

 それがガイアの前に立つ。


「ガイア、ごめんね! 驚かせて」


 フィナの背中が僕の目の前にある。


「不思議なマンボ!」


 緑色のポニーテールが揺れる。

 どこからともなくラテン音楽が聴こえて来る。

 フィナの細い足が、前後左右に軽いステップを取る。

 荒猪ラフボアも短い4本の足で同じステップを取る。


「ユウタ! 今の内だよ!」


 モンスターは一拍遅れて、フィナと同じステップしていた。

 つまり、嫌々フィナの動きに釣られていた。


「すごいな! フィナ!」

「感心してないで、早くやっつけてよ! このダンス、SPメッチャ消費するんだから」


 フィナが踊りながら首だけ僕に向け、口をとがらせる。


「中範囲聖……」

大範囲聖攻氣ラージレンジ・ホーリーアタック!」


 荒猪ラフボアはもう踊ることは無かった。

 何故なら、ガイアの魔法で葬られたからだ。

 戦闘は終わった。

 だが、何だか後味が悪い。


「フィナ、戦闘中に余計なことを言うんじゃない!」


 ガイアが怒り出す前に僕が先に怒っておいた。


「だって、猪のうんこ踏んだまま戦うとか、嫌じゃん。ねー」


 フィナはガイアに同意を求めて来た。

 ガイアはフィナの方を向いた。

 こけた時に、おでこに出来たたんこぶが痛々しい。

 ガイアは無表情で、ツカツカとフィナの方に向かって行った。


つづく

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