第57話 極悪ギルマスは、奴隷少女たちを暴力で制圧する。

「ギルマス! お疲れ様です!」


 セレスとウエンディはピンと背筋を伸ばし、敬礼のポーズをとった。

 髭面の大男は、それを満足そうに見る。

 彼女達の顔は笑顔だが、それは強張っていた。

 彼女達の所属するギルド、B.B.B倶楽部。

 そのギルドマスターは、恐怖で彼女たちを支配しているのだろう。


「ん?」


 ギョロ目が僕とフィナの方を向いた。

 だが、すぐにその視線は別の場所に移動した。

 彼の視線の先には、戦士、侍、武闘家の死体が転がっていた。

 彼はそっちに用がある様だ。


「おい! 死んじまったとは情けねぇな!」


 B.B.B倶楽部のギルドマスター、ミチヤスは声を荒げた。

 先端が鉄製の尖った靴で、戦士、侍、武闘家の死体を蹴飛ばす。

 その様子を、セレスとウエンディが身を寄せ合い、震えながら見ている。

 僕はその様子を見て、迷った。

 他のギルドのことに口を挟むべきかどうか……。

 フィナが僕の手をぎゅっと握り締める。

 彼女もまた、ミチヤスの禍々しい雰囲気を恐れている様だ。


「セレス!」

「はいっ!」

「お前に何で、貴重な狩り場を与えたか分かってるよな?」

「はい……」

「早く一流の治癒魔法使いになって欲しいからだよ!」


 ミチヤスはセレスではなく、ウエンディの頬を張り飛ばした。


「はっ……はいぃぃ」


 セレスの声は震えていた。


「ウエンディ、お前もだ! 我がギルドには後衛職が足りない。お前には早くレベルを上げてもらわんといかんのだ! だから、ルンデルとナオタロウとトウアを付けたんだ。そのチャンスを活かすことが出来んとは!」


 今度はセレスが張り倒された。

 ミチヤスは人を痛めつけ屈服させる術を知り尽くしているかの様だ。


 死んだ3人の男の子達、彼らはそれぞれレベル20だった。

 セレスとウエンディはそれぞれレベル11だ。

 パワーレベリングとは、一般的に高レベルと低レベルの者を同じパーティにし、低レベルの者のレベルを早く上げることを目指す。

 ミチヤスがパワーレベリングと言っていた意味は分かった。

 そうだとしても、この狩り場に出てくるモンスターはレベル20から50くらいだ。

 いくらレベル上げを急ぐからといって、これは無謀過ぎる。


「お前ら、もう一度、奴隷からやり直すか!? おおっ!?」


『奴隷』


 そのキーワードが僕の耳に響いた。

 僕は反射的に体を震わせた。

 両親に捨てられた僕は、奴隷商人に拾われ、奴隷として街で売られた。

 僕を買い取った権力と金にまみれた醜い女は僕に様々な奉仕をさせた。

 飽きると、僕はまた捨てられ、奴隷商人に拾われた。

 そんな繰り返しの日々を思い出し、僕は胸の奥からムカムカしたものが込み上げて来た。

 彼女達も僕と同じ様に奴隷だったんだ。

 何かのきっかけでB.B.B倶楽部に拾われた。

 僕が鉄騎同盟に拾われたのと同じように。

 ただ一つ、僕と彼女達で大きく異なるのは、拾ってくれたギルドが最低かそうでないか、だけだ。


「立て!」


 ミチヤスが、セレスの髪をむんずと掴んだ。

 僕は叫んだ。


「やめろっ!」


つづく

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