第53話 自分から飛び込め! ドラゴンに喰われた治癒魔法使い。

 これでも僕はレベル55だ。

 レベル50の子供赤竜ミニレッドラゴンに何て負けるもんか。

 それに……


 子供赤竜ミニレッドラゴンのかぎ爪が僕を襲う。

 それを後方に飛び退いて、かわす。

 わずかだが、えぐる様な攻撃がレザーアーマーの胸を切り裂き、ダメージを受ける。

 HPが減ったのを、脳内に浮かんだステータスで知る。

 痛みと共に、僕は思い出した。


「永遠の回復補助エターナル・リカバリー・アシストはもう無いんだった……」


 HPが0に近づくと、自動回復する不死身の魔法。

 僕が勇気を出して子供赤竜ミニレッドラゴンに戦いを挑んだのも、この魔法のお陰だ。

 ずっと側にいてくれる空気みたいな魔法だった。

 だからつい、その存在が無くなったことが頭から抜け落ちていた。


「くっ……」


 僕の頭の中に死という恐怖がチラつき始めた。

 だが、ここで引くわけにはいかない。

 子供赤竜ミニレッドラゴンのHPを確認する。


 5400/6000


 既にセレス達が600程ダメージを与えていた。

 人間と同じように、モンスターのステータスも確認出来る。

 だが、スキルや魔法は実際に戦って見ないと確認出来ない。

 対戦したことが無いモンスターと戦う時は対戦したことがある者から、そのモンスターの弱点や使えるスキルを聞いておくのが普通だ。(金を払ってでも)

 だから、今回の僕の戦いは無謀だったと言える。

 それはそうと……

 硬い鱗で覆われた体は、防御力が高そうだ。

 僕は自分が使えるスキルや魔法をステータスで確認した。

 僕は直接打撃を与えるよりかは、内側からダメージを与える方が効率的だと判断した。


「精神系か、それとも病系か……」


 僕は使う魔法を決めた。

 攻撃をよけながら、詠唱する。


「うぐっ!」


 灼熱のブレスをよけきれず、ダメージを受けた。

 右足に装着したレザーブーツが黒焦げになった。

 革の焼ける臭いが鼻に付く。


「小回……」

「使うな!」


 治癒魔法を唱えようとしたセレスを、僕は手で制した。

 彼女の肩がビクリとなる。

 何で?

 そんな顔をしている。

 そりゃそうだ。

 治癒魔法使いが治癒魔法を使うな、何て意味が分からない。


「治癒魔法を使うと、君が襲われる!」


 僕の言葉足らずの説明を理解したのか、セレスは大きく頷いた。

 僕は子供赤竜ミニレッドラゴンの身体に隙間が無いか、目を凝らした。

 鱗と鱗の継ぎ目でもいい。

 傷口でもいい。

 そこから奴の体内に、『病原体パソゲン』を仕込みたいと考えていた。

 傷口は子供赤竜ミニレッドラゴンの手や足の辺りにあった。

 剣で斜めに切りつけた感じだ。

 恐らく、既に死んだ戦士職の男の子が付けたものだろう。


「痛いなあ……」


 僕は痛みを堪えながら、子供赤竜ミニレッドラゴンの傷口に近づこうとする。

 何度も自分に治癒魔法を使いたくなる。

 だけど、ここで治癒魔法を使えば、せっかく詠唱を続けている病原体パソゲンを中断しなければならない。


「近づくことが難しいなら、あちらから来てもらうか」


 僕はポシェットに手を突っ込み、荒猪ラフボアがドロップした猪の肉をかかげた。

 血の滴るその肉に、子供赤竜ミニレッドラゴンは惹かれた様だ。

 粘液質なよだれを口の端から垂らしている。

 大きな口を開いた。

 首を切り揉みさせながら、肉に喰らい付こうとする。


「きゃー!」


 セレス達の悲鳴が耳朶を打つ。

 僕は猪の肉もろとも子供赤竜ミニレッドラゴンの口の中に放り込まれた。


つづく

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