第46話 転移扉が壊されて、辺境に人間が襲来し亜人間の平和が奪われる日

「フィナ。ありがとう」

「うん」


 僕は何とか気持ちを立て直した。

 どんな理不尽な目に合ったとしても、この世界で生きて行くしかないからだ。

 ならば、酷い目に合う度に、それを越えていくだけだ。

 君のお陰で、僕は強くなれたよ。


「ユウタ。手に入れた素材を見せてくれ」

「うん」


 僕とフィナは、ポシェットからそれらを取り出し、地面に置いた。


「おお! 銀スライムの欠片か! 何ともレアなものを手に入れたな」


 ネスコがそれらを手に取り値踏みする。


「よいアイテムが作れそうだ」


 グリフォンの背に乗り、狩り場を後にし辺境へ向かう。



 僕とフィナは手に入れた素材を、ネスコに渡すことにした。

 ネスコはそれを鍛冶屋のユメルとテルミンに渡す。

 良い武器を作ってもらい、それを守護者を降ろすために使用する。

 だが、そこには一つ問題があった。


「知っての通り、結婚しなければ持ち物を共有出来ない。だから、ユウタと私は持ち物を交換出来ない」

「そうだね」

「だが、間接的に持ち物と金をやり取りする方法はある」


 例えば、僕が道具屋に一旦、素材やアイテムを売る。

 それを、後でネスコが買い取る。

 だが、それだとネスコがお金を持っていないと交換が出来ない。


「そこで、盗賊職の登場だ」


 盗賊の少女ジュリを紹介された。

 彼女は背中に羽を持つ、有翼人ホークだった。

 背が小さく、すばしっこそうだ。

 赤いショートカットに、ソバカスだらけの顔が子供らしくて可愛らしい。


「あたしに一旦、盗ませてくれればいいよ」


 彼女は盗賊職だけが持つスキル『盗む』を発動し、僕の持つ素材を盗んだ。

 と同時に、フィナのも盗む。


「あっ! 盗るな!」


 じゃれる様に、フィナがジュリを追い回す。

 ジュリは受け取った素材を盗賊だけが持つスキル『渡す』を発動し、ネスコに渡した。


「つまり、盗賊を間に置くと、モノのやり取りが出来る。連れて行っても大した戦力にはならないが、こういう時、役に立つ」

「なんだとぉ!?」


 今度はジュリとネスコがじゃれる。

 亜人間同士は仲がいいみたいだ。


「じゃ、明日、行ってくる」


 外はもう真っ暗だ。

 夜はモンスターも強力になるから、休んだ方がいい。


「フィナ、晩ご飯作ってあげる!」

「僕が作るよ」


 黒焦げのピラニアを食べるとか、もうゴメンだ。


 そういえば……


「ネスコ。狩り場のことなんだけど」

「何だ?」

「僕の他に人間がいたみたいなんだ」

「人間が……」

「遠目だったから……小さくしか見えなかったけど。あれは人間だと思う。僕たちと同じように狩り場でモンスターを狩っているように見えた」

「それは本当なのか?」


 ネスコの表情が固くなる。


「ユウタ。さっきの話を変更する。私は今からユメルのところに行く!」

「え!? 急に」

「お前の話が本当なら、ユメルのところにある転移扉が人間にバレた可能性が高い」


 辺境と人間の街を行き来するための、亜人間の作った転移扉。

 ユメルの武器工房の地下にある。

 カムフラージュを見破られ突破されてしまった。

 それは辺境が危険にさらされることを意味していた。


つづく

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