第37話 この世界はオンライン・ロールプレイングゲームで、私達は迷い込んで来たプレイヤーの子孫であり、ただの電子データなのか?

「この世界はゲームじゃ」

「ゲーム?」

「厳密にはVRMMORPG《想現実大規模多人数同時参加型オンライン・ロールプレイングゲーム》。その名も『魔界プロジェクト』」


 私の目の前にいる老人。

 その人の言っていることが、私にはさっぱり分からなかった。


「リンネ」


 隣に座るガイアに呼び掛けられる。


「何だ?」

「分からない単語については私が後で教えます。今は、大祖先様の話を聴いてください」

「分かった」


 老人は私とガイアを交互に見て、続けた。


「わしが13歳の時、学校から帰った後、いつもの様にゲームにログインした」


 老人が身振り手振りでゲームにログインするところを再現する。

 ヘッドギアと言う名の兜をかぶり、ゲームに没入するためのカプセルの中に、すっぽりと身体を収める。


「友達とパーティを組み、いつもの狩り場でモンスターを狩り、レベル上げをしていた」


 聞き慣れた単語が出て来た。

 老人のゲーム内での話は、この世界での生活そのものだ。


「さて、狩りもひと段落してゲームからログアウトしようとした」


 老人は天を仰いだ。

 その顔は天井ではなく、その先を見ているかの様だった。


「ログアウト出来なかった。ゲームというこの世界に閉じ込められたのじゃ」


 13歳の頃の老人も恐らく、天を仰いでいたのだろう。

 それから100年という時間が流れ今に至る。

 分からない事がほとんどだが、私は要約してみた。


「つまり、ここは人間にとって異世界であり、本当の故郷は地球ちきゅうということか」


 だから、地球ちきゅうに戻るために魔王を倒す。

 老人が大きく頷いた。

 それは理解出来た。

 それにしてもこの違和感は一体なんだ?


「魔王を倒すと地球ちきゅうに戻れるという根拠は?」

「ゲームのクリア条件が魔王を倒すことだからじゃ」


 やはり違和感が拭えない。


「魔王を倒したとして、その……」


 老人をどちらの名前で呼んだらいいか迷った。


「この世界の名前でいい。そちらの方がお前らは発音しやすいじゃろ? レゴラスと呼んでくれ」

「レゴラス。この世界で100年経ってるわけだろ? 地球ちきゅうに戻ったとして、お前は老い先短い老人なのでは? それに、身寄りもいないのでは?」

「当然の疑問じゃな」


 レゴラスは笑った。

 彼曰く、

 ゲーム内の1日は、地球ちきゅうでの1時間。

 ゲーム内の1年は、地球ちきゅうでの約15日間。

 ゲーム内の100年は、地球ちきゅうでの約1500日間。


 レゴラスはゲームに閉じ込められていた100年間、地球ちきゅうでは約4年の時間が過ぎていたということになる。

 つまり、彼はヘッドギアを着けカプセルに収まったまま約4年間過ごしていたということになる。

 その間、食事や睡眠どうしていたのか?


 この世界で13歳だった彼は113歳になった。

 地球ちきゅうで13歳だった彼は17歳になった。


 それにしても1日が1時間とは。

 この世界で生を受けた私にとって、その感覚は理解出来なかった。


「まだ何か疑問がありそうだな」

「ああ」

「ここにいるわしは意識で、肉体は地球ちきゅうにある」

「それは分かる。その状態で、この世界で死ぬとお前はどうなるんだ?」

「死んだことがないから分からない。これでいいかの?」


 レゴラスがからかう様に笑う。

 確かに。

 私も死んだことがないので、死んだらどうなるか分からない。


「死んだ友達や他のプレイヤーにでも訊けたら訊いたみたいがな。死んだら、地球ちきゅうに戻れたのか? それともなのか?」


 レゴラスの顔が悲しそうになった。


「わしがこの世界にまだいるということは、死の先はということなのだろう」


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る