第27話 昔のギルドメンバーが僕に恋してるけど、今のギルドで恋人が出来たから、今さら、もう遅い

「ユウター? どうしたー?」

「ちょっと待ってて、フィナ」


 僕は彼女の手を離した。

 ネスコに頭を下げ、フロアの隅まで移動する。


<取り込み中か? すまん……>

「リンネ、僕は今……」

<兄者を説得した。ギルドに戻って来てくれ>


 タイチが……

 それはつまり、彼が僕の治癒魔法を認めてくれたということか。

 そして、兄に従って来たリンネは、遂にタイチに意見することが出来たということか。

 リンネは成長したんだ。

 だけど、もう遅い……。


「ごめん。もう他のギルドに入ったんだ」

<えっ……!?>

「それに、僕はもう君達と戦える立場じゃなくなった」

<どういうことだ?>


 ちょっと、余計なことを言い過ぎた。

 僕はそう思った。


「兎に角、これで終わりにしてくれ」


 僕はリンネをフレンドリストから削除しようと決めた。


<待ってくれ!>


 彼女の声が震えている。


「リンネ」

<何だ?>

「どうしても一緒に戦いたいというのなら、君が僕のギルド『トラ猫協同組合』に来ればいい」

<それは……>


 リンネの困惑の表情が手に取る様に分かる。

 僕は自分が意地悪だと思う。

 リンネは兄であるタイチを捨てることは出来ない。

 だから、このやり取りはこれで終わりだ。


「じゃ」


 僕は通信を切った。


「終わったか?」


 ネスコが問い掛ける。


「うん」

「ユウタ。我々は魔王を倒すため救世主であるお前を導く必要がある」

「うん」

「つまり、それは……我々がお前の標になることを意味している」

「うん」

「お前が道を誤らない様に」


 ネスコは先生が生徒に教える様に、僕に言う。

 彼の糸目は強く光っていた。


「ユウター! 落ち込むなー!」


 フィナが後ろから抱き着いてくる。

 いつか感じた二つの柔らかいものが背中を押してくる。



 転移扉を内側から開けた。

 外は真っ暗だ。

 ネスコが明かりをつけてくれた。

 彼の背中に着いて行く。

 洞窟から出た僕は、辺りを見渡した。

 赤土の荒野が一面に広がっていた。

 人の気配が無い。


「なんでこんなところに?」

「転移扉を亜人間の国の中心に作った方が確かに便利だ。移動に関しては、な。だが、考えて見ろ。人間がこの転移扉の存在に気付いたら……。この扉を利用して人間が亜人間の国に容易に行き来できてしまう。だから、敢えて国から離れた洞窟の中に作った」


 僕の疑問について、ネスコはあらかじめ想定していた様だ。

 それは、亜人間と人間の仲が悪いことを意味していた。

 僕はフィナの方を見た。


「私はユウタのこと大好きだよ。だから人間と私達が仲良くなれたらいいのに」


 言うや否や、僕の二の腕にガシッとしがみついて来た。

 故郷に戻れるのが嬉しいのか、尖った耳がピンと立っている。

 ネスコが指笛を鳴らすと、遠くの空から黒い影が。

 それが、僕らの前に着地する。

 鷲の様に大きな翼。

 獅子の様な強靭な下半身。

 グリフォンだ。


「乗れ」


 その背に乗っている男が言う。

 一見、人間だが、体の大きさとゴツゴツ感、牙が生えていることからオークだろう。


「ゴリッチュ。頼む」

「任せとけ。ネスコ」


 彼は調教師テイマーなのだろう。

 僕らはグリフォンの逞しい背に乗った。

 すると、ゴリッチュはグリフォンの手綱を握り空に舞う様、指示した。



「ユウタ……」


 私はギルドホールの片隅で、力が抜け、膝が崩れ、座り込んでいた。


「ちょっと待ってて、フィナ」


 その言葉が頭の中にずっと響いている。


つづく

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