第17話 全ては『姫』が決める。5大ギルドのギルドマスターも『姫』には逆らえない。

「まず、鉄騎同盟は、リサを手放すこと。それがペナルティだ」

「なっ……」


 マリアンの言葉を受け、タイチが拳を握り締める。

 ギルドマスターとして、他のギルドの人間に、メンバーを好き勝手されるのは屈辱だろう。

 その様を見たペガサス旅団のギルドマスターが、タイチを指差し高笑いする。


「そして……」


 マリアンが一拍置いて、こう告げる。


「絶対成敗は、ポンの商売を我々に譲ること。それがペナルティだ」

「そっ、それはっ、あんまりですわっ!」


 マリアンの言葉を受け、モモはピンクのリボンで結わえた黒いツインテールを振り乱す。

 彼女の黒いメイド服、その裾に並ぶフリルやリボンが揺れる。

 マリアンに負けず劣らずの、場違いなファッションだ。

 そして、甲高い声で叫ぶ。


「抗争の規模と、ペナルティが不釣り合いですっ!」


 ポンの商売は絶対成敗とその傘下のギルドにとってメインの収入源だった。 


「具体的にはポンの製造方法と販売権を我々が頂く。それで手打ちにしようと言ってるんだ。でなければ、全てのギルドを敵に回すことになる」


 マリアンが凄む。

 他のギルドマスターも頷く。


 しばし、沈黙。


 モモもバカではない。

 この場は自分一人ではどうにもならないことを悟ったのか、こう言った。


「……分かったわ」


 話し合いは終わった。


「では、姫に『決』をとってもらおう」


 この世界の人間を統べる者、それは『姫』。

 5大ギルド会議で決定したことを、姫に承認してもらうのがこの世界の大原則だ。


「姫、この様に決定しました。承認を」


 マリアンが姫に通信する。

 5大ギルドのギルドマスターは姫と通信出来る権利を持つ。


<承認する>


 初めて聴く姫の声は、鈴の様な音色だった。

 さぞかし麗しい人なのだろう。


 マリアンが手を差し伸べると、モモはそれを握り返した。

 私は、ギルドマスター同士がしたり顔で頷き合うのを見て、違和感を持った。


 私は何かを悟りつつある。

 これは仕組まれた罠で、絶対成敗と鉄騎同盟はその罠にハメめられた。

 だが、点と点がまだ、イマイチ線で繋がらない。


 ペガサス旅団と鉄騎同盟は和解した。

 ……かの様に見えた。


 こうして、5大ギルド会議は終わった。



 それにしても、私はリサが怪しいと思っている。

 それは忍びであり暗殺者である私の、生まれ持っての勘。

 そして、秘密を探るのは私の仕事。


「リサ、行くのか?」

「決まりですから」


 タイチはリサに惚れていた。

 だから、名残惜しそうだ。

 きっとタイチは、治癒魔法使いとしてのリサではなく、女としての、つまり彼女としてのリサが欲しかったのだ。

 身内の私から見てそれは十分理解出来た。

 セイラの気も知らないで……

 

「じゃ」


 リサはあっさりしたものだ。

 私達の方を振り向きもせず去って行く。


「兄者、ちょっと散歩してくる」

「ああ」


 タイチは放心状態だ。

 私は気配を消し、リサの後をつける。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る