第15話 その頃、僕をクビにしたギルドでは、ギルドマスターの吊し上げが行われようとしていた

 私はユウタにしつこいと思われたくない。

 だけど、今、ギルドはとてもヤバい状況だ。

 助けを借りたい。

 否、それを理由に、会いたいだけ……


<ごめん。リンネ>


 今日もそんな返事で通信は終わった。



 ギルドホールの裏にある共同墓場。

 そこには、モンスターとの戦いやギルドの抗争で死んでいった者達が眠っている。

 ナオシゲの遺体はそこに埋葬された。


「明るくて、いい奴だったのに……」


 タイチがナオシゲの墓に花を添えた。


「リサ。あなたが治癒魔法の発動に遅れたから、ナオシゲは死んだのよ!」


 セイラがリサを批判する。

 確かに、瀕死のナオシゲを前にしてリサは慌てふためき、治癒魔法の発動に手間取っていた。

 その間に、ナオシゲは息絶えた。

 リサは実戦経験に乏しいのか?

 だが、リサはレベル67のベテランの域にある治癒魔法使いのはずだ。

 その彼女が、慌てていた。

 私はその矛盾が気持ち悪かった。


「まぁ、仕方ねぇよ」


 タイチがリサを弁護する。

 そのことが、セイラを苛立たせる。

 セイラのメガネレンズは太陽光を反射し白く光っている。

 怒りの瞳はタイチには見えない。

 セイラの気持ちを良く理解していないタイチは、こう続ける。


「俺たちの不死身神話も、これで終わりという訳か」


 そう。

 私達は不死身だった。

 HPが0になろうとする時、決まって私達は0になることは無かった。

 まるで神に守られているかの様に。


 だけど、私は真実を感じ取っていた。

 全てはユウタのお陰だったと。


 奢り高ぶるタイチは、自分こそ選ばれし者『救世主』であることを意識し始めた。


 『救世主』は『守護者』を引き連れ魔王を倒す。


 この世界の神話を本気で信じていた。

 だが、ナオシゲの死で、自分達は凡人だと自覚した。

 タイチは仲間の死よりも、そちらの方に落胆している様に見える。



 数日後。


 街のど真ん中にある神殿。

 その中にある巨大な会議室。

 そこに5大ギルドのギルドマスターと、鉄騎同盟、ペガサス旅団のメンバーが集められた。


「忙しい中、今日ここに集まっていただいたのは他でもない。鉄騎同盟とペガサス旅団の抗争についてだ」


 高らかに会議の開催を宣言したのは『DEATH』のギルドマスター。

 彼女の名はマリアン。

 職業は戦士、レベル95。

 19歳。

 赤い髪、真っ赤な唇、切れ長の目をした美人だった。

 胸元を露わにした黒いドレスを着ている。

 この場に最も不似合いなファッションは、自己顕示欲の表れか。


「各ギルドマスターには遠路はるばる来ていただいたことに、礼を言う」


 マリアンが会釈すると、向かいに座るギルドマスターたちも頭を下げた。

 左から、

 『ジャヴァ・パイソン』のギルドマスター。

 『富の会』のギルドマスター。

 『地球アース』のギルドマスター。

 『絶対成敗』のギルドマスター。

 ちなみに、絶対成敗は鉄騎同盟のバック。

 つまり、我々の親ギルドだ。

 私達、鉄騎同盟は、絶対成敗のギルドマスターの背後に控えていた。

 

「兄者……」


 この騒動の発端となったタイチは私の隣にいる。


「何でもねぇよ。リンネ」


 強がっているが、小刻みに震えている。

 これだけの重鎮が揃ったことに恐怖を覚えているのか。

 鉄騎同盟とペガサス旅団の抗争が、これほど大ごとになるとは思ってもみなかったのだろう。


つづく

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