第5話 その頃、僕をクビにしたギルドでは……

 リサは私より5歳年上の大人の女性だった。

 背が高くてスラッとしている。

 隣に立たれると、私の背の小ささが際立ってしまう。


「よろしくね。リンネ」


 落ち着いた声で挨拶された私。

 そういうの慣れてない。


「は、はい」


 と慌てて返事をしてしまう。


 ユウタが去った会議室。

 タイチが新入りのリサを紹介する。

 リサはギルドマスターのタイチが、ユウタをクビにして雇い入れた治癒魔法使いだ。

 何でも、有力ギルド『ペガサス旅団』から引き抜いて来たそうだ。

 私は心配だ。

 『ペガサス旅団』から目を付けられやしないかと。

 好戦的集団の彼らは、他のギルドとのいざこざが絶えないと聞く。


「あんな奴ら、俺が返り討ちにしてやるよ!」


 リサに良いところを見せたいのか、タイチが胸を張る。

 確かにタイチは優れた戦士だ。

 この世界に100人しかいないレベル90台だ。

 『鉄騎同盟』が零細ながら、クエストの依頼が途絶えないのも彼のお陰ではある。

 

「リサ、しっかり援護してくれよ」


 華奢なリサの肩に、タイチのゴツイ手が覆い被さる。

 その様子を見たセイラが顔をしかめる。

 他のメンバーがやれやれといった表情をする。

 タイチの女好きは今に始まったことじゃない。


 会議室の扉が叩き破られる。


 モンスターか!?


 違う。

 『ペガサス旅団』だ。

 その数5人。

 青いラインが入った白い制服に、白いマント。

 襟元の徽章には、ペガサスの羽が描かれている。


「リサを返してもらおうか」


 リーダー格の男が、タイチに詰め寄る。


「本人との合意の上だ」

「我がギルドマスターの許可を得ていない」


 お互い一歩も引く気配が無い。

 タイチが一歩前進する。


「ギルドを抜ける方法は、二つ。クビになるか、本人の意思で辞めるか、だ。リサは本人の意思で辞めた。だから問題は無い」


 リーダーとタイチが睨み合う。

 タイチの視線が一瞬私の方を向く。

 私は気配を消した。


「さ、リサ。行くぞ」


 リーダー格の男がタイチを無視してリサに手を伸ばす。


「ぐわぁあ!」


 闇からの一閃。

 リーダー格の男の腕は肘から血を吹き出しダラリと垂れる。

 私は一仕事終えると、次なるターゲットの元へ気配を消したまま移動した。


 呆気にとられている白い制服のメンバーを、背後に回り一人ずつ順番に撫で斬りにして行く。

 この世界では、ギルド同士の抗争は禁止されている。

 だが、誰もが見て見ぬ振り、黙認されていた。

 個人間の利害が容易に一致しない様に、ギルド間の利害もまた容易には一致しない。

 魔王を倒すという、世界の共通認識。

 その目的でさえもギルドごとに異なる。


「覚えてろ!」


 リーダー格の男とそのメンバーはお互いの肩を貸し合いながら、ヨタヨタと去って行った。


つづく

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