第4話 採用面接

「ふむ、治癒魔法が使えるのか」


 ギルドマスターのネスコ(猫人間)は、僕のステータスを見てそう言った。


「はい」

「レベルは20か」

「はい」

「前のギルドではどんな仕事を?」

「はい。後方で他のメンバーを支援していました」

「回復職として?」

「……まあ」


 言葉を濁した僕を、ネスコは見逃さなかった。

 通常、相手のステータスは敵、味方に関わらず、脳内に呼び出すことで見ることが出来る。

 ただし、使えるスキルや魔法などは、相手からの開示が無い限り見ることは出来ない。

 通常、見ることが出来るのは、あくまでHPやMPなどのパラメータ関連である。

 僕は、自分の手の内をネスコに晒すことを躊躇していた。


「ユウタさん。正直に答えてください。これは採用面接なのです」

「はい。分かりました」


 僕は嘘を付くのが苦手だ。


「私の使う治癒魔法は特殊で、仲間を直接回復出来る類のものではないのです」

「ほう」


 ネスコは三角形の耳をピンと立てた。


「例えば、『薬用効果向上インプローヴド・メディシン・エフェクト』という魔法は、回復アイテム『ポーション』の効果を二倍にします」


 僕の魔法で、ただのポーションの効果が二倍になったと言っても『鉄騎同盟』のメンバーは半信半疑だった。

 あくまでポーションがHPを回復させたのであって、治癒魔法使いがHPを回復させたわけではない。

 つまり、僕の魔法は分かりにくかった。

 だから、働いていないと思われたのだ。


「他には?」

「えっと……」


 僕は自分の魔法について話した。

 開示する内容については、自分なりに取捨選択した。

 出会ったばかりの相手に、手の内の全てを明かしたくない。

 特に、『永遠の回復補助エターナル・リカバリー・アシスト』についてだけは伏せておいた。

 あれだけは、本当に信頼出来ると思えた仲間たちにしか使いたくない。

 その信頼していた仲間たちに、ついさっき追放されたのだけど……


「ふ〜む、なるほど」


 ネスコは髭を触りながら何事か考えている。


「ちょっと失礼」


 肉球が僕の布の服の裾を掴んだ。


「なにするんですか?」


 スッとまくりあげられる。


「ふむ」


 ネスコの大きな茶色い瞳に僕が映り込んでいる。


「そのアザはいつから?」

「これは……15歳の誕生日に出来ました」


 左胸にある星形の朱色のアザ。

 何故出来たか……否、浮かび上がって来たのか思い当たらない。


「採用します」


 ネスコはそう言った。



 僕が、目的を探し求める理由。

 両親と再会するためだ。

 この世界で目的を持ち、活躍して名声が上がれば、両親も僕を見つけ易いだろう。

 逆に僕が両親を見つけ易くなるかもしれない。

 再会したら、僕を捨てたことを後悔させてやる。

 だから、早々にギルドに入れたのは幸運だった。



 その日の夜、ギルドホールの会議室で僕の歓迎会が開かれた。


「紹介しよう。我がギルドのメンバーだ」


 白く長い顎ひげをたくわえたドワーフのテルミン。

 職業は鍛冶屋。

 ギルドメンバーの武器や防具を修復している。

 金を稼ぐため、他のギルドの武器や防具も有償で修復しているそうだ。


 その他には、一見普通の人間に見えるが夜になると狼となる戦士職の男、トウマ。

 硬い鱗を持つ水色の盗賊のリザードマンのジギ。


「後は……」


 ネスコが誰かと通信している。


「あと、ちょっとで戻って来る」


 きっと最後のメンバーだろう。

 間もなくして扉が開いた。


(何て……美しいんだ……)


 僕は扉の横に立っているエルフを見て、そう思った。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る