第三章 ~『霧崎と疑い』~
霧崎に対する疑問を解消するために、美冬たちは彼女の自宅へと向かう。心情を象徴するように進む道は暗く、足取りも重かった。
「ねぇ、西住くん……やっぱり止めない?」
「どうして?」
「あんなに反省していた霧崎さんが私を騙すようなことはしないと思うの……」
「私がどうかしたの?」
「霧崎さん!」
美冬たちの視線の先には夜道をスポーツウェアで駆け抜けてくる霧崎の姿があった。彼女は額に玉の汗を浮かべながら、美冬の前で足を止める。
「東坂さんたちは二人で夏彦くんの捜索?」
「それは……その……」
「どうかしたの?」
「う、うん……霧崎さんが……」
「あ、分かったわ。私のこの恰好のことね」
霧崎は自分がスポーツウェアであることを思い出し、美冬が言い出せずにいることを察する。
「確かにこの時間にスポーツウェアは変よね。でもこれには理由があるの。夏彦くんの居場所を友人たちに電話で聞き終えたから、あとは足で探すしかないでしょ。だから動きやすい恰好を選んだのよ」
「私のためにそこまで……」
「気にしないで。東坂さんは私が酷いことをしたのに許してくれたでしょ。あの時の恩と比べれば、駆けまわるくらいなんともないわ」
「霧崎さん……」
「そんな申し訳なさそうな顔しないでよ。東坂さんは何も悪くないんだから……」
「違うの。私、霧崎さんに酷いことをしたの」
「酷いこと?」
「実は……霧崎さんが夏彦を一年生だと知っていたから、匿っているかもしれないって疑っていたの!」
「私が夏彦くんを!?」
「ごめんなさい。霧崎さんはこんなにも協力してくれているのに……最低だ、私……」
申し訳なさから美冬は頭を下げる。そんな彼女を霧崎は微笑ましげに見下ろす。
「顔をあげて、東坂さん」
「で、でも……」
「それだけ弟のことが心配だったんでしょ……私、ますます東坂さんのことが好きになっちゃったわ」
「霧崎さん……ありがとう!」
「それに私が夏彦くんを一年生だと知っていたのは、事情を知らない東坂さんからすれば、確かに不思議だものね……私が知ったのは偶然よ。隼人が仲良さげに夏彦くんと談笑しているのを見かけたことがあってね。そこで彼のプロフィールを教えてもらったの」
「山崎くんと夏彦の二人が……」
女性にしか興味のない山崎が夏彦と談笑している光景を想像できない。学年違いなのだから、授業中に仲良くなった可能性も低い。
「もしかすると夏彦が有名だって話と関係があるのかも……」
「気になるなら、隼人に聞いてみるのが手っ取り早いわね」
「悩んでいる時間も惜しいものね」
「私も引き続き、足での捜索を続けるわ」
霧崎が再び走りだすのを見届けると、スマホを取り出し、山崎へと電話をかける。数回のコール音の後、彼は通話に出るのだった。
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