第一章 ~『カメラマンとスカウト』~
大学での予定を終え、自宅への帰路に就く。進む通学路を夕日が照らし、朱色に染めていた。
「今日は色んなことがあったわね。それに学んだこともあったわ。まさかモテ期がこんなに面倒だとは想像さえしていなかったわ」
不特定多数の異性からチヤホヤされても、無用なトラブルを生む。これならモテ期などなくてもいいとさえ思えてしまう。
「本当にどうして急にモテるようになったのかしら?」
雰囲気という曖昧なものだとしても、ここまで大きく周囲の反応に変化が生じたのなら何か理由があるはずだ。
「西住くんはあやかしが憑いているからって話していたわね……もしかして倉庫で見た狐耳の人が関係あるのかも」
銀髪の美青年が寂しそうな顔をしていたことを思い出す。狐耳の非現実の存在から夢だとばかり思いこんでいたが、もしあれが夢でないのならその正体に心当たりがあった。
「まさかあやかしなのかしら? でもモテモテになる呪いなんて聞いたことがないわ……」
結局、確信を持てぬままに道をとぼとぼと歩いていると、カシャっとシャッター音が鳴る。フラッシュが焚かれた方向を見ると、眼鏡をかけた若い男が、一眼レフカメラを構えていた。
「ごめんね、びっくりさせちゃったかな?」
「当たり前です。私にも肖像権があるんですよ」
「ははは、悪気はなかったんだ。ただあまりに美人だったものだからさ。つい写真を撮ってしまったんだ」
「えへへ、美人かぁ~許す!」
「この娘、ちょろいなぁ~」
「いまなんと?」
「いいや、なんでもないよ。それよりも――」
カメラマンの男は胸ポケットから名刺を取り出すと、それを美冬に手渡す。
「僕は武田。モデル事務所のカメラマンさ」
「はぁ」
「君は磨けば輝く原石だ。君の魅力ならば世の男を虜にし、トップスターになることも夢じゃない」
「それほどの才能が私に!」
「ほら見たまえ、この写真。これほど美しい人は――ひぃっ!」
デジタルカメラの再生画面に映し出された美冬の写真を見て、武田は何かに怯えるように、カメラを零れ落とす。
地面に落ちたカメラを美冬が拾い上げ、写真映りを確認すると、背後にぼやけた人影が映し出されていた。
人影は黒のシルエットに口元だけ血で塗られたような赤い唇が浮かんでいる。悪霊としか思えない醜悪な姿だった。
「これって心霊写真よね……」
「カ、カメラを返してくれ! 早く!」
「は、はい」
美冬は言われるがままにカメラを手渡すと、武田は「先ほどの話はなかったことにして欲しい」と言い残して、その場を後にする。
「やっぱり私、呪われているのかしら……」
心霊写真という目に見える形で確認した以上、曖昧にしておくこともできない。呪われていると確信した彼女は、呪いを解く方法に頭を悩ませる。
「呪いを解くためには、私が呪われたキッカケを知らないといけないわ……でも心当たりが……あったわ。きっとあの本のせいよ!」
美冬が意識を失い、眠ってしまったのは『
「はやくあの本を処分しないと!」
不気味な呪いに怯えながら、自宅を目指して駆ける。額には玉の汗が浮かぶのだった。
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