139. 翔子と菊理媛命
「あ、立ったままもあれだよね。はいはい、ささ、座って座って。あ、履物は脱いでね〜」
さっと手を振ると現れる……ござかな? それはさすがに土足では失礼だよね。
「はーい!」
神様相手に全く物怖じせずに返事したルルさんが、さっそくスニーカーを脱いでござに上がる。続いてミシャ様、ディアナさんと靴を脱いで上がるので、私たちも。
「はいはい、足崩していいからね。堅苦しいのはナ・シ!」
ぱんぱんとござを叩き、足を崩すように促される。断るのも失礼だよねってことで、皆が楽な姿勢になったところで話を切り出したのはミシャ様。
「
「ぶ〜っ! ダメです〜! 硬すぎです〜!」
はい、畏まった挨拶にダメ出しいただきました!
「菊媛お姉様って呼んで欲しいな〜」
チラッチラッて感じの目線がミシャ様に。
「菊媛お姉様。この度はご顕現いただきありがとうございます」
「う〜ん……」
ご不満な様子の
「はい、翔子ちゃん」
「え、ええと、菊媛お姉様。顕現いただきありがとうございます」
「もっとフレンドリーに〜!」
「会えて嬉しいです!」
「お嬢様っぽく〜!」
「お目にかかれて光栄ですわ!」
「いいね!」
グッとサムズアップしてくれる
というか、周囲の目線が痛い。だって、そう振られたら応じるしかないよね? ね?
「あはは! こんなに通じる巫女さんは久しぶりで嬉しいわ〜」
「え? 巫女さん?」
「そうよ〜。神の声の代弁者なんて言われちゃってるけど、実際は神様の話友達みたいなものだからね」
えええ……
「翔子ちゃんは卑弥呼ちゃんと同じぐらい声が通るもの。電波で言うとバリ3って感じ?」
なんですか、その携帯電波的比喩は……
「え、でも、ここにいるみんなが菊媛お姉様の声、聞こえてますよね?」
「それは翔子ちゃんがいるおかげかな〜。そうじゃないと、美紗ちゃんだけだと思うよ。声が聞こえるの」
そう言ってニッコリ。なんでミシャ様だけなんだろうって感じだけど、やっぱり向こうで賢者だから言葉にも詳しいからとか?
「あの、なぜ翔子さんがいるとなんでしょうか?」
「美琴ちゃん、いい質問! 翔子ちゃんはすごくバランスがいいの! 心のバランスがとってもいい! まさに自然体!」
それは褒められてるの? いや、褒められてるんだよね。
「確かに翔子君は自然体だな。チョコ君もそのせいか吸収が早い」
「うむ、そうだな。マルリー殿やサーラ殿も褒めていた」
「へー、教えがいありそうだね!」
いや、えっと、その話で盛り上がってる場合じゃないような気がしてきたんですが? とミシャ様を見ると「あとは任せます」って清々しい顔をしてて……はい。私が仕切れと?
「あの……、今日来た理由を説明してもいいです?」
「は〜い」
ようやく本題に入れそうな感じ。と言うことで、ミシャ様にパス!
「えっと、こちらの世界の問題を持ち込んでしまってすいません。
神妙な顔で頭を下げるミシャ様。さすがに謝罪を軽く言うわけにもいかないよね。
「そんな謝るなんて必要ないわよ〜。ちょくちょく、こっちで可哀想な亡くなり方をしちゃった子を引き受けてもらったりしてるんだもの」
「「は?」」
それは一体どういう?
「あ、えっとね、美沙ちゃんは知ってると思うけど……」
「なるほど。ソフィア嬢は確か……」
心当たりがあるのかディアナさんがふむふむと頷いている。
「それで、今、転移の後遺症でちょっとまずい状況になっていまして」
「あら? そうなの?」
都内のダンジョンの第十階層。あの混沌空間が徐々に広がってるって話が説明されると、菊媛お姉様もちょっと困った顔になる。
「あら〜、それは良くないわね。私の管轄でもあるし、なんとかしたいところだけど、直接手を出すわけにはいかないのよね〜」
「やっぱりそういうものなんです?」
「最近は特にね〜。昔は悪さした子とかに天罰とか気軽にできてたんだけど、ご時世的にね〜。『天罰は良くない。褒めて伸ばす』感じ?」
何その教育委員会みたいな話。いやでも、神様から見て人間を育てるって考えたら教育委員会は間違いでもないの?
「えっと、混ざってる世界を一時的に分離するところまではいけそうなんですけど、それを維持するのに困ってまして」
「すごい! そこまでできるなら、あとは簡単!」
「え、あ、はい。その後はどうすればいいんでしょう?」
「そこに私の神霊を勧請したお社を建ててもらうのが一番いいかな〜。そうしたら、私の力で安定するはずだから〜」
菊媛お姉様がそう言って私の方を見ると、両手の人差し指をくるくるっと回す。一体何をと思ったら……
「え?」
腰に吊っていた革袋の口が開き、その中から精霊石が宙に浮く。
「さすが翔子ちゃん。いい子たちに好かれてるわ〜。ちょっとだけ力を貸してね〜」
キラキラとした光の粒が精霊石に降り注ぐと、その粒が吸い込まれていく。
「あとは〜、これはまた作ってもらってね〜」
またちょいちょいっと指を回すと、今度は魔導拳銃がホルスターから抜かれて宙に浮く。最近全く使ってなかったから全然良いんだけど……
「「わあ……」」
魔導拳銃が一瞬で分解され、精霊石からこぼれ落ちた光の粒を纏ったかと思うと、手のひらぐらいの大きさの勾玉に作り直されていく。
「すごい!」
「うふふ、もっと褒めて褒めて〜」
ルルさんの歓声に菊媛お姉様がすごく嬉しそうなんだけど、一気に神聖な雰囲気がですね……
「はい、できた〜。精霊さんたちありがとうね〜」
精霊石が先に戻ってきて革袋に収まり、勾玉が私の手のひらに収まる。
「えっと、私が持ってていいんです?」
「うん。翔子ちゃんが持ってて〜。お社ができたら、御神体として納めるといいから〜」
な、なるほど。と、そこで智沙さんが手を挙げる。
「はい、智沙ちゃん、質問どうぞ〜」
「白山の分祀をダンジョンの中に設置するという理解で間違っていないでしょうか?」
「ピンポ〜ン! そんな大層なお社にしなくていいからね〜。神棚ってぐらいで大丈夫だから〜」
良かった。結構大掛かりなお社を第十階層に建てるってなると、活動限界の三十分以内っていうのが厳しいなあって思ってたし。
ひとまず簡単な神棚で祀って、安定してからちゃんとお社にして囲う感じがいいかな?
「あ、あと一つだけ注意して欲しいことがあるから、しっかり覚えておいてね〜」
え? なんだろ? 危険なこととかじゃなさそうだけど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます