130. 翔子と混沌
さて、目指せ第十階層ということで、久々に聖域と加護をしっかりかけて進軍中。
今回はディアナさんがいないから、光の精霊もいないので真っ暗。サーラさんは真っ暗でも大丈夫らしいけど、私たちは当然ダメなので、各自がLEDランタンを装備中。
「うーん、天井に照明っぽい物があるんだけど、ちゃんと動いてないっぽいねえ」
「第十階層があれですし、そもそも半分になっちゃってますしね」
先頭のサーラさん、しっかりと警戒はしてるんだろうけど、気安い感じなので大丈夫なのかな。私とチョコとその間にヨミ。最後尾の智沙さんも警戒はしてるけど……
「しばらく放置してしまっていたが、特に問題はなさそうだな」
と。結局、第七、第八とアンデッドが出ることもなく通過。そして、第九階層も何もいなかったんだけど……
「……ねえ、なんか前よりもカオスな空間が若干近くない?」
「そう見えるよね。でも、潮の満ち引きみたいなものかもしれないし?」
「定点観測する理由は分かったが、確かにこれは困ったことになったな……」
このカオスな空間がどんどん広がってるんだとしたら、マジで洒落にならない。『あなたの隣にはいよる混沌』っていう言葉を飲み込めるぐらいヤバい。
「最初に見た時はマルリーもいたんだよね?」
「はい。その時は奥に見える下り階段のあたりがおかしかったぐらいでしたけど……。今はもうその階段自体わかんないですね」
とチョコ。そうね、それくらいだったよね。えーっと、二ヶ月ぐらいかな?
ちょっと放置しすぎてたかもしれない。いやでも、近づくなって言われてたし……
「とりあえず、今できることをしよう」
「「あ、はい」」
私たちにはどうしようもなさそうだけど、カスタマーサポートさん、空の賢者ミシャ様がきっとなんとかしてくれるはず!
智沙さんが三脚を立てて安定が取れているのを確認。その上にチョコが魔導具を置いてネジを回して固定。
「翔子、チェックよろしく」
「はいはい」
魔素ヨシ! 記録媒体ヨシ! 三脚への固定ヨシ!
「大丈夫。起動して」
「了解。起動します」
心の中でポチッとな。っと、カメラの上の方にライトがあったらしく、その先が照らされる。
「「うぉ、まぶしっ!」」
「ん、大丈夫?」
心配してくれるサーラさんだけど……ごめんなさい。つい、条件反射で言っただけです。
「ふむ、映っているが、少し近いか。もう一メートルほど後ろに下げよう」
華麗にスルーしてくれた智沙さん、すいません。真面目にちゃんとやります。
「これくらいでどうだろう?」
「えーっと、いいと思います。ちょうど図と同じぐらいですね」
カスタマーサポートさんからもらった図は、画面を三かける三の九等分して、その真ん中にカオス空間を捉えるイメージ。
今ちょうどそんな感じになってるので、これで放置かな?
「じゃ、戻る?」
「ええ、神樹のところまで戻ってお昼にしましょう」
お昼ご飯はチョコが運んでくれてて、神樹のところに置いてある。お昼はもう過ぎてるけど、さすがにここで食べるっていう気にはならないしね。
***
「「ただいまですー」」
「お帰りなさい!」
飛び込んでくる美琴さんをキャッチ。後ろからゆっくりとルナリア様とマルリーさん。
「どうだったのかしら?」
「その件については落ち着いたところで話しましょう」
智沙さんが神妙な顔でそう伝えると、美琴さんも察したのか、
「何かありましたか?」
と。今すぐに問題があるわけじゃないけど、カスタマーサポートさんが『要観察』を伝えてきた意味はわかった。そのことも伝えないとだしね。
「とりあえず別邸へ。智沙さんの部屋でいいですよね?」
「ああ。美琴、御前にも報告が必要なので、夕食後にでも時間をと」
「了解です。でも、その前に皆さんシャワーを浴びてきてくださいね」
ニッコリ美琴さん。私は別に汗もかいてないけど、ヨミを洗ってあげないとね。
………
……
…
「お待たせして申し訳ない」
というわけで智沙さんの部屋に。風呂上がりのコーヒー牛乳が美味しいんだけど、ルナリア様はそれも気に入ったようで……お嬢様にコーヒー牛乳……
「それでー、どうなっていたんでしょー」
マルリーさんに聞かれると何だか深刻な話でも無くなる気がする不思議。智沙さんはそんなこともないのか、淡々と今日あったことを話していく。
「確かにそれは問題ね……」
カオスな空間が微妙に成長してる話を聞いてルナリア様も眉を顰める。
「多分だけど、私たちの世界の第十階層でも同じことが起きてるってことだよね?」
「カスタマーサポートさん、ミシャ様が魔導具で計測して欲しいって依頼が来たのも、多分そのせいなんじゃないかと」
向こうでも「?」ってなって、こっちでも計測しなきゃってことになったと思うんだよね。まあ、向こうだと減ってて、こっちが増えててみたいなことかもしれないけど。
「幸いなことに、今のところは増大のペースが遅い。ただ、これが急激にという可能性もあり得る」
「そうね。早いうちになんとかしておかないとというのはわかったわ。ミシャにも伝えておいてちょうだい。必要な古代魔導具があるなら、もちろん使っていいという話を」
なるほど。あのダンジョン倉庫にあった古代魔導具のどれかが有効って話もあるかもなんだっけ。
「わかりました。一応、館長さんとも話をしてから手紙は出しておきます」
しっかり設置したことと、ぱっと見わかるぐらいにはカオス空間が成長してたっぽいことは伝えるとして、ルナリア様からそういう話が出たことも伝えないとね。
「……ルナリア様がそう言ってたって、私が書いて良いんでしょうか?」
「ああ、そういえばそうね。私が別に手紙を書きましょう。ペンとインクを用意してもらえるかしら」
そこでさっとお高そうな万年筆が出てくるあたり、美琴さんすごいなあと。智沙さんも自分の机からレターセットを用意してくれるし。
「……」
「どうしました?」
「これは何なの?」
あ、そうか。万年筆なんて知らないですよね。と思ったら、
「あれ? ルナリア様、それ知らないの?」
「ミシャさんがたまに使ってますよねー。どうやって作ったのかは教えてくれませんがー」
あー、こっちから行った人だと羽ペンとか普段使うのは大変だよね。そりゃ、もっと使いやすい筆記用具は普通に作ろうとするか。やっぱり万年筆が一番作りやすいのかな?
「そう、私に内緒でねえ。うふふ……」
あ、これ怒ってるやつだ……
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