104. 翔子と無限収納?

「うわ、軽い」


 チョコがそのコスモクリーナー、じゃなくて、古代魔導具を持ってくれたんだけど、空気清浄機みたいな重さでもなく、かなり軽いのか楽々と上げ下げしてる。

 ちなみに借り入れの手続きみたいなものは、さっきシルバリオ様が端末でやってくれてたらしい。名目上は白銀の館への無期限の貸し出し。

 責任者は私とチョコということで、返せと言われたらすぐに返す前提。返すのは美琴さんの部屋にある転送の箱からで大丈夫かな? サイズ的には入ると思うけど。


「さて、戻りましょうか」


「「はい」」


 そして、お仕事を終えてガッションガッション帰っていくゴーレム。このダンジョン、天空の城にあったりしないよね? とりあえず滅びの言葉は避けよう……


 帰り道についでとばかりに棚にある魔導具の説明をしてくれるルナリア様。基本的には古代文明も『人の役に立つもの』を作ってたっぽいけど、そのうちのいくつかは軍事に転用されて以下略らしい。まあ、食品が長持ちするような箱ひとつとっても、それが補給戦の延長を意味するし……


 それはそれとして、異世界にお約束なアレがないっぽいのが気になる。


「容量無制限の袋とか鞄とかないんでしょうか?」


 チョコが私の代わりに質問してくれたんだけど、それを聞いたルナリア様とフェリア様、ケイさんまでもがクスクスと笑い出す。なんか変なこと言ったっけ? いや変なことだろうけど、と顔を見合わせる私たち。


「その質問はミシャのやつも言うておったな」


「あなたたちの世界にも存在しない物らしいのにね」


「ちなみにヨーコも同じことを言っていた。お約束がないとな」


 ううう、二番煎じならぬ、三番煎じでしたか……

 スキルもステータスもない異世界だし、さっきから説明してもらってる古代魔導具も「あー、これはあれと同じだー」とか「これはこういう技術でできるかも?」ってのが多かった。魔素を使って軸を回すようなものもあって、これはひょっとして内燃機関かもとか。


「普通に考えたら、ありえない魔導具ですよね」


「魔導具はないけれど、近しい魔法はあるわよ」


「「え?」」


 原理的には亜空間とかにそれを収納しておいて、出すときに……あの手の無限収納ってどうやって『これを出す』ってやってるんだろ……


「む、それは我も聞いたことがないが、またミシャが何かしたのか?」


「あら、フェリアは聞いてなかったの? ずいぶん前のことなのだけど……」


 頬に手をあてて小首を傾げるルナリア様。すごくお嬢様っぽくて可愛らしいけど、確実に煽ってますよね、それ……

 ぐぬぐぬしているフェリア様を見て満足したのか、ニッコリと笑ってルナリア様が続ける。


「そうね。時間もあるしちょっと寄り道しましょうか」


「ワフッ!」


 寄り道ってこのダンジョンの中で? あとヨミは散歩じゃないから、はしゃいだりしないでね?


***


 検索端末のところまで戻ったあと、右手側にずーっと進んだところに大きな銀色の扉。何だろ? そういう魔法があるって話だから、この先は魔導書の書庫とかなのかな? しかもでっかいやつ。


「この先よ」


 シルバリオ様がその扉の前に立つと、その大きな扉が両側にスライドして開く。何となくワンダバな気がしてくるけどグッと我慢。脳内再生にとどめる。

 しばらく広い廊下を進むと、やがて現れたのはこちらもかなり大きな部屋。さっきの倉庫の半分ぐらいだけど、それでもかなり広い。で、そのフロアのあちこちにいろんな物が置かれてて、地面には巨大な魔法陣が描かれてる?


「この柵の内側には入らないよう、お願いいたします」


 入ってすぐの場所はベランダのように柵で囲まれてて、上半身だけが出てる状態。

 シルバリオ様にそう告げられた私はヨミを抱え上げる。何も見えないのも可哀想だし、でも、見えてはしゃいで出ちゃわないように。


「ワフ〜」


 はい、かわいい。と、フェリア様が柵からは出ないものの、頭の上ぐらいまで浮上してあたりを眺める。


「何なのだ、ここは? 大して価値もなさそうな物も転がっておるが……」


「転がってるわけじゃないわ。ちゃんと整理されて置かれているのよ」


「ミシャ様のお話では、持ち運ぶのに大変なものは一度こちらに転送されるそうです。そして、後日、帰宅後に改めて取り出すのだとか」


 ???


「つまり、あやつは運ぶのがめんどくさいものを全部ここに転送しておるのだな?」


「「ああっ! えええっ!?」」


 収納すると見せかけて転送してるってことだよね? で、転送されたものはちゃんと分類&整理して置かれてる? あの検索装置を作ってたわけだし、何がどこに収まってるかはちゃんと把握……っていうか目録作るところまで魔法で?


「こちらに近い場所には小さめのものが、奥には大きいものが置かれているようだな」


 ケイさんの言う通り、奥の方には何だか大きな石膏像みたいなものまで見える。あれ、三メートルぐらいありそう。


「まれにどこで見つけたのか古代魔導具も送ってくるわ。その時はここに来て倉庫の方に整理し直してるみたいね」


「まめなやつよのう……」


 呆れてるフェリア様だけど、フェリア様はもう少しまめになった方がいいと思います。


「でも、これだと容量無限ってわけじゃないんですよね? この部屋のサイズに収まるのが最大なんでしょうか?」


「そんなことを言ってたわね。『無制限なんて謳い文句で実際には制限があるのが普通』だったかしら」


 肩をすくめてそんなことを言うルナリア様。

 ええ、めちゃくちゃ心当たりあります。ギガ無制限とかいいつつ、小さい字で「※本プランには〜」みたいなのがついてるやつとか!


「あっちじゃない? クラウド保存だっけ?」


「あー、一年ぐらい無料の容量無制限だけど、いつの間にか制限+課金になってるやつね」


 あれも酷いよね。無制限だと思ってたらいつの間にか変わってるやつ。カード払いになってるとなかなか気づかないとか詐欺っぽいし。そんなことを話してると視線が……フェリア様?


「どうしました?」


「翔子やミシャのおる世界では、このような仕組みがあるのか?」


「いやいや無いですよ。まあ、ミシャ様が私たちのいる世界の仕組みをうまく魔法に適用してるとかそういう感じです」


「あの子の発想や着眼点はそういうところから来てるのね」


 なんか感心してるルナリア様とちょっと悔しそうなフェリア様。なんだかんだ、普段はふざけていつつも『賢者』としてのプライドがある感じなのかな。


「ぐぬぬ、この魔法があれば大量の甘味を隠し持って……」


 違いました。

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