93. 翔子とギルドカード
夕飯のラシャードラビットのソテーは、それはもう絶品で……これもおみやげに持って帰りたい。食べ物のおみやげは消え物だからセーフ判定にならないかな?
後片付けぐらいは手伝おうかと思ったけど、シルキーさんに断られました。「仕事取るな」的な威圧があったので退散。
そのまま食後のお茶中。そろそろお風呂に入りたいところだけど、こっちは湯船に浸かるお風呂は一般的ではないらしく、このお屋敷にもお風呂はないとのこと。体の汚れは清浄の魔法をかければいいんだけど、心が休まらない方向が辛い。
庭に石壁で風呂桶作って露天風呂とかしちゃダメかな。水は精霊さんに頼めばいいし、沸かすのは元素魔法の加熱でなんとか。
「ケイさん、明日以降の予定を聞きたいんですけど」
そんな考えを読んでるのかトレースしたのか、チョコが質問する。明日泊まる場所にお風呂あるといいなあ。
「明日はリュケリオンまで飛ぶ。その次の日はウォルースト北部にあるドワーフ自治区まで飛び、その次の日に竜の都に到着だ」
「ふーむ、なかなかの強行軍よの」
「二人ともかなり速度を出せることもわかったので、明日は昼の三の鐘ぐらいにはリュケリオンにつけるでしょう」
仕事で来たんだし、あんまり寄り道するわけにもだよね。強行軍とか言ったフェリア様はバスケットの中で寝てるだけだろうし。明日は朝のうちに少しヨミと散歩しちゃダメかな?
「こちらをどうぞ」
いつの間にやらシルキーさんが一枚の地図を持って来て、それをテーブルに置いてくれる。それを覗き込む私とチョコ。
「えーっと、ここがパルテームでこっちがノティア。で、リュケリオンがここだから、距離的には同じくらいなんですね」
「ああ、街道を馬車で移動となると時間がかかるが、私たちは空を直線距離で行けるのでな」
「なるほど。じゃ、ベルグの王都とかは通り過ぎちゃうんですね」
ここからリュケリオンへ最短距離で飛ぶと、王都は左手側に見えるかもっていうぐらいかな。じっくり見たいところだけど、今回はしょうがないか。
私とチョコがちょっと残念そうなのに気づいたのか、ケイさんも申し訳なさそうに付け加える。
「あまり低く飛ぶと、住人に気付かれて騒ぎになってしまうので気をつけてくれ」
「あー、やっぱり飛んで移動すること自体が珍しい感じです?」
とチョコ。
「そうだな。この辺りではかなり珍しい。竜の都や魔王国ではそうでもないが」
「南側は人やドワーフ、エルフといったあたりが多いのでな。我ですら珍しいであろう」
フェリア様、まだ蜂蜜酒飲んでるし。
リュケリオンでも飛べる魔術士は珍しいということなので、街に入る前に降りて歩きに切り替えるとのこと。
「そういえば二人はギルドカードは持っているな?」
「あ、はい。これです」
「うむ。やはり本登録されていないな。今のうちにやっておこう」
ん? 登録って? と二人して顔を見合わせる。
ケイさんの話だと大きな街に入るには、ギルドカードでの本人確認が必須なんだとか。一応、今の仮登録?状態のカードでも問題ないらしいけど、ここで本登録できるのでやっておこうと。
で、いつの間にかシルキーさんが……何だろこれ? お店にあるカードリーダーっぽい物を持ってきた。なんかもっとごっついけど。
「ここに指を乗せてくれ。少し魔素を吸わせてもらって登録する」
「「おおー」」
指紋認証とか静脈認証とかそういう感じで魔素認証ってことなのかな。
先にチョコから。チョコのカードをスロットに刺して、ケイさんに言われた場所に指を置く。ATMのアレっぽい感じ。
「うひゃ」
思わずそう声を上げたチョコだけど、指はしっかり押しつけたまま。
痛いってわけじゃなくて、くすぐったいとかかな?
「ワフ?」
何してるの? って顔でヨミが見上げるので膝の上に乗せてあげる。テーブルの下からだと見えないもんね。
「次は翔子くんだ」
「あ、はい」
なんか微妙に怖いなと思ったら、ヨミが先にお手をするようにそれに前足を乗せようとする。
「ヨミは翔子くんの後でな」
そう微笑むケイさん。っていうか、ヨミも登録するんだ。
ヨミが「やらないの?」みたいな顔をするので覚悟を決めて指を置く。チョコがニヤニヤしてるので多分くすぐったい感じなんだろうけど……
「うひゃ」
ゾワっとした感覚が指先から背筋に駆け抜け、思わずチョコと同じ声を上げてしまう。
それも一瞬の話であとは魔素が少しずつ吸われてる感じ?
「もう指を離しても大丈夫だ」
離した指を見てみるけど、特に採血されたみたいに小さい穴が空いてるわけでもなく。最初のあの感覚はなんだったんだろ。
「ワフ」
待ってましたって感じでヨミが前足を置く。ヨミにギルドカードなんてあったっけ? とは思うものの、真面目に登録作業をしてる感じのケイさん。
「ケイ様、こちらを」
またいつの間にかシルキーさん。手渡したのは革紐かな。
ケイさんがそれを受け取って、小さい金属片をそれに結ぶ。
「これがヨミのカードだ。つけてあげるといい」
「ワフ」
受け取ったそれを館長さんからもらった首輪に絡めるようにつけてあげる。
「どう? キツくない?」
「ワフン」
似合ってるでしょって言わんばかりのドヤ顔いただきました。
そういえば『ドックタグ』って軍人さんが身に付けてる認識票だっけ。あれってやっぱり犬の鑑札に似てるからつけられたらしいけど。
「あとこちらも宜しければ」
シルキーさんから渡されたのはパッチワークで出来てる赤いスカーフ。絶対に似合うやつだこれ。
「これもかわいいからつけようね〜」
「ワフ〜ン」
ちゃんと巻きやすいように首を伸ばしてくれる。かしこかわいい。
スカーフを巻くと、館長さんがくれた首輪もさっきのタグも隠れちゃうけど、かっこよさよりはかわいさを重視したいので問題なし。
「いいね、すっごく似合ってる」
チョコも思わずヨミを撫でる。
ケイさんも笑顔だし、今まで無表情っぽかったシルキーさんも少し得意気?
「真っ赤なスカーフ」
「まあ、コスモクリーナーみたいなもの取りに行くわけだしね」
「ああ、そういえば」
チョコの言葉に思わず納得してしまう。
地球が地球が大ピンチなので魔素除去装置を取りに来ました。波動エンジンは積んでいないけど、チョコの動力は魔素力です。
……ちょっといろいろ混ざりすぎかな?
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