83. 翔子と仮説

「えーっと、あくまで私の推測でしかないので鵜呑みにはしないでくださいね?」


 見回してみんなが頷いたので、私がこうじゃないかなーって思ってるのを説明。なんだけど、いざ他人に説明するってなると難しいよ!


「簡単に言うと、銃火器の類がダメなのは火薬が全く化学反応しなくなるからかと」


 火薬や爆薬のような瞬間的な燃焼が制限されてるのではっていうのが私とチョコの推測。


 向こうの世界は魔素に満ちてるそうだけど、普通に火はつくし、ダンジョンに潜るときに松明で照らしたりする。マルリーさんやサーラさんに聞いた。

 そういった普通に火が燃える場合の燃焼速度を『遅い』とした場合、混合火薬——黒色火薬とか——の燃焼速度は『速い』だし、化合火薬——ニトログリセリンとか——は『すっごく速い』ってなる。

 魔素はその『速い』以上の燃焼を抑え込んでいるか、そもそも起きないようにしてる感じ?


「ですが、それだと爆発するような魔法もダメなのでは?」


「いや、魔法だけがそれを許されてるってこったろ?」


「ですです」


 とチョコが頷き、正解?した館長さんが嬉しそうに笑う。


「なるほど。魔法でなければ爆発が起きないというのは、ある意味安全な世界だな」


「ええ、向こうの世界は科学技術は全部魔法に食われてて、内燃機関なんかも当然無いそうですし、それで全然問題ないんですよね」


 美琴さんが小声で「エ、エンジンがない世界?」とか言っててクスッと来る。

 蔵書部屋の本やゼルムさんの話を聞いた感じだと、外燃機関——蒸気機関とか——もないらしい。さすがに水車とかはあるっぽいけど。


 と、話が逸れちゃった。


「そういうわけで火薬を使う武器は全てダメかなって。あ、私たちの推測ですよ?」


 あくまで『個人の推測です』ということで間違ってたらごめんなさい。

 これ一回カスタマーサポートさんに質問しようと思ったんだけど、向こうだと確認のしようがないし、今忙しそうだからなーって保留中なんだよね。


「アサルトライフルはもちろん、手榴弾、おそらくは火炎放射器なんかもダメかなって」


 と補足を入れてくれるチョコ。

 そして、前にディアナさんを交えて話したことを。


「前にディアナさんに複合弓コンパウンドボウならオークにも有効という話を聞いたので、もし自衛隊の人たちが次またってなったら」


「ああ、弓矢か! なるほどな!」


 それでも致命傷を負わせるに至るかどうかは微妙という話も忘れずに。

 とりあえず追い払えるようにはなりそうだけど、追い詰めちゃうと逆上ってパターンもあるし、難しいところ。矢を持ち運べる数の問題だってあるし。


 そんなことを話していたら、美琴さんのスマホに連絡があったらしく、それを覗き込む。


「館長。そろそろ時間ですと連絡が」


「ん、わーった。さて、ちょっと行ってくるわ。みんなで晩飯食いたかったんだけどなー」


 あー、今日のことの説明かな。

 自衛隊の人たちもさすがにもう撤収してるだろうし、作戦後の反省会、確か『デブリーフィング』とか言ったっけ。それも終わって上の方に報告が届いた頃だよね。


「ワフ!」


 館長さんがめんどくさそうに立ち上がったところで、ヨミが「頑張って!」と言わんばかりに吠える。

 それに気を良くした館長さんは、ひとしきりヨミを撫で回して英気を養った後、力強い足取りで応接室を後にした。


***


「というわけなんですが、どう思います?」


「うーん、難しいねえ」


「いや、何が『というわけ』なのだ。ちゃんと説明せよ」


 別邸に戻ってきて、夕飯までの時間にちょっと打ち合わせ。

 サーラさん、なかなかノリがいいので合わせてくれたけど、フェリア様はダメでした。


「もう一つ椅子を持ってきた」


「ああ、すいません」


 智沙さんが先にというのでなんだろうと思ったら、そういうことでしたか。言ってくれれば運んだのに。チョコが。


「お待たせしました」


 続いて美琴さんが人数分(フェリア様は除く)のアイスティーを持ってきてくれて、テーブルの上に置く。

 智沙さん、美琴さん、私、チョコ、サーラさんでテーブルを囲み。フェリア様はテーブルの上に座ってるけどまあヨシ! さっそく、ドライマンゴーを頬張ってるし……


「まあ、帰りの車の中で話してたことなんですけどね」


 今日、救出した隊員さんたちでも魔物に勝てる方法ってないのかなーって話になって、無さそうで困ったなーと。

 ディアナさんから複合弓コンパウンドボウの話は聞いたので、とりあえずそれ——実際にはクロスボウだけど——を持たせるぐらいしか思いつかないという話を。


「智沙ちゃんは細剣レイピア使える感じだけど、あの人たちはそういうのダメなの?」


「ダメなわけではないと思うが、今からではとても時間が足りないだろう。私は幼少の頃から剣技そのものに興味があって、二十年かけてやっと今の技量だからな」


 自嘲気味にそう話すけど、めっちゃすごいと思いますよ? なんだかんだでマルリーさん、サーラさんといい勝負するレベルになってるんだし。


「そういえば一つ気になったことがあるんですがいいですか?」


 美琴さんが話したのは、魔素を浴びることによる勇者化。美琴さんはともかく、智沙さんは間違いなく魔素を取り込んで身体強化を使えるようになってるし、勇者化してると言えなくもない。

 それと同じことがあの特殊作戦群の隊員さんたちに起こってないのか? そして、それが起これば勝てるようになるのでは? と。


「そういえばそうだな。まあ、滞在時間も二、三時間といった程度では変わらんのかもしれん」


「なるほど。私たちってもう随分と魔素に慣れちゃってますよね」


 魔素への染まり具合で言えば、私>>智沙さん>美琴さんって感じかな。私って実家だと一日の半分以上は魔素のある地下で過ごしてるし。


「そういえば、過去に勇者召喚で呼ばれた者は皆若者だったという話があるのう。若い方がというのはあるやもしれん」


「うーん、わざと若い子を呼んでるという話だったりはしないんです? 世間知らずでチョロそうとかそういう意味で」


「それはなんとも言えん。勇者召喚は古代魔導具によるものと言われておるしの。だいたい、若ければ扱いやすいわけでもなかろう。擦れた者もおるはずよ、其方そなたのように」


 と意地の悪い笑みを浮かべるフェリア様……

 美琴さんも智沙さんもそこで笑いを堪えないで欲しいんですけど??

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