82. 翔子と手詰まり

 朝から待機してた道の駅が右手に見え、後方へと消えていく。

 一仕事無事に終えて帰宅途中ということで車内の空気も緩い。運転してる智沙さんはいつも通りだけどね。


「翔子、水ちょうだい」


「あ、私も」


「ん、ペットボトル貸して」


 さっき通り過ぎた道の駅で水分補給したのが最後だったっけ。

 二人のペットボトルが後ろから渡されたので、水の精霊にお願いして『うちの地元の天然水』を補給してあげる。

 うん、すごく役に立つんだよね、生活には。当然だけど変な菌なんか全くないし、軟水なのでお米もふっくらするし。でも、直接飲むなら硬水の方がいいんだっけ?


「ワフ」


「はいはい、ヨミもね」


 ヨミ用の小さいコップが常備されています、このハンヴィーには。みんな甘やかしすぎだと思うんだけどしょうがない。かわいいから。


「そういえば、御前はどうだった?」


「みなさん無事なのでホッとしていた感じでした。あと、政治的なことはこちらに任せておけばいいので、気にしなくていいと」


「うむ」


 そこはもう全面的に信頼してます。というか代わりにやれとか言われても無理だし。

 ただ、「これから自衛隊の人たちどうやってアレ対応するの?」って部分はすごく気になるんだよね。

 今からどうにかするとなると銃器じゃない飛び道具、ボウガンとか用意する感じ? あとはまあ剣道とかやってるなら真剣を持つとか……


「オークに勝てるようになっても、アンデッドが出てきたら詰むんじゃない?」


「うん、それねー」


 ゾンビやスケルトンに勝ててもゴーストにはどうしようもなさそうって前も話したっけ。

 なんかこう、武器を神社に持っていて清めてもらったりしたら効くようにならないかな……


「今のままでは厳しそうだねえ。私がパッと見た感じだけど、あの人たちって人と戦うことしか想定してないんじゃない?」


 とサーラさん。うん、その問題がまずありました。


「そうだな。それに素手や近接武器での戦闘もそこまで強くはないだろう。もちろん、一般人よりはずば抜けて強いだろうが」


「それだと、また今回のようなことが起きかねませんね……」


 なんだよねえ。

 まあ、それが仕事だって言われたらやるんだけどリスクが高いのがちょっとね。

 前回はマルリーさんがいたし、今回はサーラさんがいてくれたけど、毎度毎度ってわけにもいかないだろうし。


「正直なところ『藪をつついて……』とはなりたくないところだな。すでに手遅れかもしれないが」


 私たちなら勝てるのを見せちゃったもんなー。あの人たちだって公務員なんだし、上の方から何があったか話せって言われたら話しちゃうよね。


「本当にしばらくは雲隠れした方がいいかもしれませんね」


 と美琴さん。


「うむうむ。皆で遊びに来れば良い。そろそろパルテームの件も落ち着いておるのではないか」


 フェリア様がそんなことを言うけど、サーラさんは首を横に振る。

 二人が来てから二週間ほどだっけ? それぐらいで済むような感じなら、ディアナさんとかマルリーさんに戻って来て欲しいとか言わないと思うんだけど。


「向こうで何か手伝えることがあるなら、皆で行くのも良いかもな」


「それはたくさんあると思うよー。マルリーが戻ったってことは、強い盾役がたりてないってことだろうからね。チョコちゃんが来てくれて、翔子ちゃんの神聖魔法が加わるとなれば、すごく助かるんじゃない?」


 なるほど。そりゃまあマルリーさんレベルのメイン盾なんて、向こうの世界に片手もいないだろう。そんな人を呼び戻したわけだし、それなりの問題を抱えているってことだよね……


「ということは、全然向こうも落ち着いてないんじゃないですか?」


 正論を叩きつける美琴さんだが、フェリア様はそっぽを向いて口笛を……吹けてないお約束。この人が今暇してる理由がよくわかりました。


「ワフ」


 ヨミが私の膝から美琴さんの膝へと移っていった。おやつを催促してる感じかな。美琴さんもそれをわかっててささみジャーキーを出してくれる。


「ヨミも一度里帰りしたい?」


 そう問いかけてみたが首を傾げるだけ。どっちでもいいのかな。ささみジャーキーの方に夢中だし。


「まあ、帰って御前と話をしよう。仮定の話で悩んでも仕方ない」


「そうですよ。今日は特別なお仕事をしたんですし、ボーナス奮発してもらいましょう!」


 美琴さんの言葉に私もチョコも思わず吹き出してしまう。

 そして、それを不思議がったサーラさんに『ボーナス』とは何かを説明するハメになった……


***


 いつもの応接室での報告会。日本語でのめんどくさい話になると思うので、サーラさんとフェリア様には自室に戻ってもらった。そして、


「マジかよ……」


 智沙さんから特殊戦闘群のみなさんが無力だったことを聞かされ、館長さんが天を仰ぐ。ある程度は戦えてて、それでも厳しいぐらいの想定だったのかな?


「率直な意見を申しますと、彼らでは数で押された時に対処不能となるでしょう。今回は相手が三十匹程度でしたので、なんとか持ち堪えていましたが、到着があと一時間遅れていたら」


 そこで言葉を切る智沙さん。

 ジュラルミン盾四枚を防壁がわりに篭ってた感じだけど、完全にジリ貧だったよね。負傷兵を抱えて見捨てるわけにもいかないし、そもそも逃げる方向を間違えてる。

 自分たちがこの国で最強の兵士という自負があり、実際その通りなんだと思うけど、相手が悪すぎたとしか言えない。


「また同じようなことが起きた時、館長はどうされるおつもりですか?」


「さすがにまた無策で突っ込むとは思わねーけどよ……」


 でも、責任追求された政権側が仕方なく命令を出して、特に策もないけど行かざるを得ないみたいな状況になるんですね。わかります。

 いや、それ死人が出るまで止まらないパターンで、死人が出たら出たで追求されるやつだよね。


「なんとか自衛隊の方々で魔物を倒せるようにはならないんでしょうか?」


「てかよー、なんで鉄砲がダメなんだ?」


 館長さんの問いに何か期待された眼差しが私たちに向けられる。

 えーっと、これは私とチョコで「多分こうなんじゃないかなー」を説明しないとダメ?

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