71. 翔子と魔物の巣

 皆で一旦、最初のちょっと広い空間まで戻って作戦タイム。

 サーラさんがソロで倒せないレベルの魔物がいて、多分、私たちが手伝えばなんとかなる……んだよね?


「で、サーラよ。何がおったのだ?」


「ジャイアントセンチピードが十匹ほどいてお食事中」


 そう聞こえた瞬間、チョコの肩にいたフェリア様がぴゅーんと私の肩まで飛んでくる。

 えーっと、でっかい……センチピードって確か百足だよね?


「苦手なんですか?」


「妖精族の天敵よ。まあ、虫の魔物は皆そうだがな」


 とげっそりとした表情。

 私は普通の百足なら見たことあるから多分平気だと思うけど、美琴さんと智沙さんは大丈夫なのかな。


「食事中とのことだが、いったい何を?」


「鹿じゃないかな?」


「「鹿?」」


 いや、この辺は確かに鹿いるけど!

 ジャイアントって三十センチぐらいかと思ってたけど、ひょっとしてもっとでかい?


「そのジャイアントセンチピードというのは、どれくらいの大きさなんだ?」


「えーっと、普通はこれくらいかな。あそこにいたのはもう少し大きかったかも」


 と手を広げるサーラさん。それって一メートル強あるってことですよね。その大きさなら鹿だって捕まえられるか……


「あの、いったん報告に戻りませんか?」


「いや、早めに駆除した方がいいだろう。鹿も迷い込んで捕食されてるのだろうが、百足の方が洞窟を出てという可能性もある」


「だね。今日ぐっすり寝たいなら、あれを駆除しとかないとだと思うよ」


 うん、寝てる時にそんなのが来たらと思うとぞっとする。

 あそこが巣なんだろうから、今のうちに完全に駆除しておく方が良さそうだよね。


「美琴さん、大丈夫?」


「は、はい。足手まといにはならないようにします」


 虫相手じゃ合気道も何もないもんね。


「よし。では、作戦を聞かせて欲しい」


「オッケー。まあ、難しく考えなくていいよ」


 サーラさんがしゃがみ込み、地面に指で絵を描き始める。

 百足がいる場所のサイズは、今いるこことほぼ同じ直径十メートルぐらいの円形の空間。入って左手奥に百足がわさわさと固まっていて、右手奥には通路の続きだと思われる口があるらしい。


「入ると襲いかかってくると思うから、チョコちゃん盾役よろしくね。その間に翔子ちゃんが右手奥への口を魔法で塞いで。石壁だと壊すのが大変だから土壁かな?」


「翔子よ。氷壁は出せるのか?」


「出せます」


「ならそれが良かろう」


 サーラさんも頷く。そして、智沙さんの方を向き、


「逃げ道を塞いだら、あとは殲滅するだけだけど、相手の数が多いから手数が欲しいね」


「了解した」


 智沙さんもいつも警棒持ってるんだよね。

 私も魔導拳銃はずっと持っとくべきなのかな。いや、なんか職質されそうだしなあ。


「翔子ちゃんは美琴ちゃんとフェリア様をよろしくね」


「はい」


「ワフッ!」


 ヨミが自分もいることをアピール。とはいえ、あまり無理はさせたくない。

 ルナウルフ……狼だから強いとは思うけどまだ仔狼だし。


「注意することは?」


「ジャイアントセンチピードは二つに切っても、どっちもしばらく動いてるから気をつけてね。あと、体液は毒だからできるだけ避けること。ま、加護が掛かってるから大丈夫だけど一応ね」


 加護ってそんな効果もあるのね。

 ただ、その毒のある体液を中和?した分だけ加護が弱まるそうなので、できるだけ避けれることと。私は加護切れが無いよう気をつけるよう言われた。


「じゃ、質問なければ行くよ」


 よし、気合い入れて行こう。


***


「行くよ!」


 サーラさんがそう発して駆け出す。チョコが続いて走り出し、私たちもそれを追いかける。

 遠くから見ても気持ち悪い大きさの百足がいっせいにこちらを向く。


「うっ……」


 私の後ろの美琴さんが辛そうだけど、私もちょっと拒否反応が。

 あの頭というか口についてるのは顎だっけ? ギチギチと軋む音が生理的嫌悪感を加速させる。


「せいっ!」


 サーラさんがいつの間にか手にしていた小石を投げると、それは見事に一匹の口へと命中した。

 そして、殺気立つ百足たち……


「翔子君!」


「はい」


《起動》《氷壁》


 右手奥にある通路入口を氷の壁で塞ぐ。これで退路は断てたはず。

 地面は岩っぽいし、すぐに潜れるような感じじゃないよね?


「行きます!」


 さらに前へと走るチョコ。右側をサーラさんが、左側を智沙さんがカバーするように続く。

 百足も地面を滑るように近づいてくると、接敵する直前でその鎌首を持ち上げる。なんか、体長二メートル近くある気がするんだけど。


「はっ!」


 一斉に飛びかかってきた百足を大楯で弾くチョコ。

 そして、その弾かれた百足に智沙さんの警棒が振り払われ、頭と胴体に二分された。

 サーラさんはというと、既に二匹を三等分にして次へと向かっている。


「速い……」


「そこがサーラの強みよ」


 移動してる間がほとんど見えないレベルの速さ。

 瞬間移動しては攻撃し、速やかに離脱するという一撃必殺。


「サーラの加護が切れかけておるぞ」


「は、はいっ!」


 そう指摘が飛んだ次の瞬間、サーラさんがチョコの後ろまで戻ってくる。慌てて加護をかけ直すと、また消えるように前線へと戻っていった。

 チョコと智沙さんの加護がまだ大丈夫そうなので、サーラさんが倍近く働いてるってことかな? 私、加護以外は何もしてない……


「くっ!」


 チョコが同じことを思ったのか、さらに前へと踏み込んだが、百足たちの攻勢に一歩下がる。


「チョコ君、無理はするな」


「は、はい」


 智沙さんは冷静そのもの。自分にできることをしっかり実行してる感じ。

 私は後ろで見てるからあーだこーだ言えるけど、前衛にいると無理だろうなあ。あとで記憶を同期して感覚を掴んでおかないと……


「これで終わりっと!」


 最後の一匹を三等分するサーラさん。

 十数匹いた百足——ジャイアントセンチピード——は、しばらくもぞもぞ動いていたが、やがて完全に息絶える。


「うむ。上出来じゃの」


「サーラ殿一人でもどうにかなった気がするがな」


「いやいや、加護切れるとあそこまでの動きはできないからね。久しぶりにヨーコと同レベルの加護もらえたから、ちょっと張り切っちゃったかな」


 と苦笑する智沙さんと上機嫌なサーラさん。そしてチョコはさすがに落ち込み気味。

 うんまあ、自分でもちょっと「やらかした〜」って思うしね。


「チョコ」


「あ、うん」


 手を合わせて記憶を同期。

 うんうん、焦るよね。サーラさんの仕事量を見ちゃうと。


「チョコちゃんもお疲れ。マルリーに負けない動きができてたよ」


「そうですか? なんか焦っちゃって……すいません」


「真面目だねえ。そこはマルリーっぽく『楽ができて良かったですー』とか言わないと」


 なかなか似てるモノマネに、私もチョコも思わず笑ってしまう。

 うん、ちゃんと目的を果たせるなら『できるだけ労力をかけずに』だね。

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