64. チョコとフェリア
ふっと景色が消えた次の瞬間に、それは見慣れた蔵の地下、研究所の魔導人形部屋の景色に変わる。
「ふう、つきました。ここが私が保管されてた部屋で、あのクローゼットに入ってた感じですね」
「ほうほう、なるほどのう。ミシャの奴、我に内緒でこんな楽しそうな研究をしとったのか……」
とかなんとか聞こえてきたけどスルーしておこう。
魔素があることを認識したフェリア様は私の右肩を離れて、クローゼットの方へと飛んでいく。
先にダッシュして魔法陣から出たヨミが振り向いて吠えた。はいはい、連絡しないとってことだよね。
「無事着いたこと、翔子に連絡してきます」
「ん? うむ、まあどうやるのかは後で聞こう」
向こうには電話とかないんだっけ? 転送があるから手紙のやりとりはすぐなんだろうけど。
そんなことを考えつつ魔導人形部屋を出て、さらに階段を登って蔵に出る。ここだと圏内なんだよねえ。少しでも地下に入るとアウトなのに。
翔子のスマホから美琴さんに電話をかけると、ワンコールで繋がった。
『もしもし、チョコさんですよね?』
「はいはい、みんな無事つきました」
『良かったです。じゃ、私たちも向かいますので』
「はーい、ごゆっくりー」
私と翔子はともかく、美琴さんや智沙さんは自衛隊さんからの引き継ぎをしたりとか大変そうだったし、ゆっくりまったり帰ってきて欲しい。
通話を終えて地下に戻ろうとしたところでヨミが上がってきて、期待の眼差しを向けてくる。そういえば今日は朝の散歩行ってなかったっけ。
「散歩行きたい?」
「ワフン!」
「じゃ、フェリア様も一緒にね」
この地下なら放っておいても大丈夫だと思うけど、一応、目は離さない方向で。
階段を降りて魔導人形部屋に戻ると、フェリア様がクローゼットを開けて、その内部を念入りに調べている。
「フェリア様。ヨミの散歩行くのでついて来ませんか? っていうか、一緒に行きますよ」
「ワフワフ!」
「ふむ、まあ、ここは後でゆっくり見ることにするか」
意外とあっさりとクローゼットを離れてくれるフェリア様。
ふわふわと飛んできて私の右肩へととまる。そこ、定位置なんですかね?
階段を上がったところで、魔素が薄くなっているのに気付いたのか、
「外のようだが、この建物は元からあったということか?」
「ええ。うちに先祖代々伝わってる蔵ですよ。四百年以上前からあるって話ですけど、ホントかどうかは微妙ですね」
「ほうほう、興味深いの」
蔵の中をあちこち見回し、一瞬飛ぼうとして思いとどまるを繰り返してる。
「全然飛べない感じなんです?」
「そうでもないと思うのだがな。魔素切れすると酷く気分が悪くなるのでな……」
としかめっつらでそう答えてくれる。
でも、移動をいつも私とか翔子に頼るのも面倒だと思うんだよね。
「向こうの世界だと飛んでも魔素消費しないぐらいなんですよね?」
「我らフェアリーは魔素回復が早いからの」
あー、魔素回復が早すぎて消費がどれくらいかわからない感じなのね。
だったらなおさら、
「ちょっと試しに飛んでみて、どれくらい消費するか調べたらどうです?」
「ふ、ふむ、確かにの。ちょっと飛んでみるが、墜落しそうになったらフォローを頼むぞ?」
「ワフッ!」
私の代わりにヨミが返事をしてくれる。
そんなことになったら、ぱくっと咥えてくれるつもりかな?
「よし……、では、行くぞ」
そっと肩から離陸し、すいーっとホバー移動。
ゆっくりだった移動速度が徐々に速くなり、蔵の中のあちこちを飛び回り始める。
「なんか大丈夫そうですね」
「うむ、半日ぐらいは飛び続けても問題なさそうだの」
「ここなら地下へ行けば魔素の補充もできるので自由にしてもらって……、あ、いや、他の人には見つからないようにお願いします」
「わかっておる」
と再び右肩に座るフェリア様。
「座ってなくてもいいんですよ?」
「いや、楽だしの」
……
ともかく、蔵から出よっと。
表の和錠はかかっているフリだけしてる状態なので、内側から少し押し、隙間から手を入れて……
「めんどくさいことをしとるのう。後で我が魔法を付与してやろう」
「えっ? この錠前を魔導具にしちゃうってことです?」
「うむ。鍵は翔子が持っておるのだろう? それと合わせて魔導具にしてやろう」
なんか得意げなフェリア様。
とりあえず、普通にも開けられるようには頼みます。魔素が無くなると鍵も掛けれなくなるとか困るし……
扉を開けて外に出ると、懐かしの我が家の裏手。
そういや、そろそろプロパンガスの新しいの配達してもらわないといけないかも? まあ、翔子が帰ってきたら、町子さんにお願いしてもらうかな。
「ワフッ!」
「うん、お散歩行こうね」
「この近くか?」
「この蔵の裏から山に繋がってて、朝の散歩はそっちです」
裏手から繋がる山道は八月頭らしく……雑草すごい。
でも、今の時期の草刈りって虫がねー……
「ワフワフ!」
ヨミがあっちこっちを走り回っては戻ってくる。とっても元気。
「ふーむ、いい森ではないか」
なんか森ソムリエっぽい感じだけどフェアリーだから? うーん、エルフのディアナさんも連れてきたかったなー。
山道は少し登った後に降り、小さな沢に至る。
木漏れ日が浅い水面に反射してキラキラ光ってる様が神秘的。
「ワフー」
ヨミが沢へと入り、ばしゃばしゃとはしゃいでる。
ひとしきり騒いだ後に、犬ドリルしてさっぱりするところまでがワンセット。
「お? あれはキノコか?」
フェリア様が指さした先、沢の端に立てかけられた古木が並んでいる。
「あー、それは昔うちのおじいちゃんが世話してた椎茸ですね。誰も面倒見なくなっちゃったから、ぐちゃぐちゃですね」
「ふむ。だが、これなどはかなり美味だと思うぞ」
ふわっと飛んで行き、そのうちの一つに腰掛けてぽんぽんと。『猿の腰掛け』ならぬ『妖精の腰掛け』なのかな?
そいや、キノコが輪のようになるのって『フェアリーリング』って言ったよなーとか。
「ほれ、採っていくぞ」
「フェリア様、昨日の晩はフルーツ食べただけでしたけどキノコも食べるんです? というか、お昼と夕飯どうしましょ?」
「ふーむ、こちらにしかないような甘い果実があれば食ってみたいところだの。あとあれだ、蜂蜜酒が飲みたいのだが……」
そいや、昨日も果実酒めっちゃ飲んでましたよね。館長さんと二人で。
その小さい体のどこに入るのか、かなり疑問なんですけど……
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