63. 翔子と夏休み

「じゃ、私たちは先に戻っておくね」


「うん。お昼は適当に」


 急に夏休みが来たので。

 チョコ、フェリア様、ヨミは転移魔法陣でうちの蔵の地下に一足先に帰ることに。


「フェリア様。チョコちゃんに迷惑かけないようにしてくださいよ?」


「わかっておる!」


 フェリア様に釘を刺してくれるサーラさん。

 でもまあ、地下にしか魔素はないし、そもそも人がいない村なので大丈夫だと思う。


「ヨミ、また後でね?」


「ワフ〜」


 半日ほどのお別れになってしまうヨミをしっかりと撫でてヨミ分を補充しておく。


 夏休みになったのは私だけでなく、美琴さんと智沙さんもなので、帰りは智沙さんのハンヴィーで送ってもらい、そのまま遊びに行きましょうということに。まだどこ行くか決めてないけどね。

 サーラさんも転送陣で移動でもいいんだけど、せっかくなので車で一緒に行きましょうということになった。まあ、転送陣に二人乗るの微妙だしね。


「じゃ、行ってきます」


「また後での」


「ワフッ!」


 肩にフェリア様を乗せ、ヨミを従えたチョコが転送陣に入ると、淡い光に包まれて消える。

 そして一分もたたずに美琴さんのスマホが鳴った。


「もしもし、チョコさんですよね?」


『はいはい。みんな無事着きました』


 持たせていた私のスマホから美琴さんに掛けてもらって、無事到着したのを確認。わかってはいてもほっとする。


「では、私たちも出発しようか」


 ちょうど午前九時をまわったぐらい。今から出発すれば、ゆっくりしても夕方には家に着くかな。

 ずっと走りっぱも味気ないし、寄り道しながら帰りたいかなー


***


「んー、おいしい! こっちに同行して正解だったね!」


 サーラさん、抹茶アイスに満面の笑みの巻。

 後でフェリア様がごねそうだから、おみやげスイーツ適当に買っておきましょうかね。

 うーん、都会のサービスエリアって田舎のデパートよりも品揃えがいい気がする……


 都内の下道を走ってる分には速度もそこそこだけど、高速に乗ったら一気にスピードアップ。とはいえ、サーラさんも特に怖がったりはせず。

 私と二人、後部座席に乗ってるんだけど、窓から見える景色に興味津々で、都心部を離れて山が見えてきたところで「おー、ちゃんと山があるー」とか感動してたり。


「翔子さん、少し早いですがお昼にしておきませんか?」


「あ、お昼にしちゃう? サーラさんに抹茶アイス奢っちゃったけど」


「アイスぐらいならいいのでは? ここのサービスエリアはお蕎麦おいしいですよ」


 うっ、おそば食べたい……

 そこにちょうど智沙さんもお手洗いから戻ってくる。


「智沙さん、お昼ここでにします?」


「うむ。ここでうまい蕎麦を食べてから行こう。今の時間ならまだ混んでいないしな」


 智沙さんも賛成だそうです。確かに完全にお昼になると混んじゃうし、ちょうどいいのかな。

 

「サーラさん、ちょっと早いですけど、お昼にするそうです」


「ほいほい、了解」


 そういえば向こうの世界ではお昼ご飯食べないらしい。

 マルリーさんもそのことは知ってたけど、実際にお昼ご飯となるとあまり食べなかった。というか、朝にかなりガッツリ食べる習慣がついてる感じ。


「お昼のご飯、慣れてなさそうですけど大丈夫です?」


「朝ご飯控えめにしたから大丈夫」


 ん? あれで控えめだったの? 割とガッツリ食べてた気がするけど……

 ま、まあ、本人が大丈夫っていうなら大丈夫かな。何を頼むかはお任せになるだろうし、軽めのものを頼むことにしましょ。


 私は山菜蕎麦におにぎり二個でいいかな。サーラさんも山菜蕎麦にして、足りないようならおにぎり一個分けるぐらいでいいか。

 美琴さんは山菜蕎麦だけ。智沙さんは天ぷら蕎麦におにぎり二個となかなかボリュームある感じ。


「あの窓際にしましょう」


 食券をカウンターに渡して場所取りを。まだ全然空いてるけどね。

 さすがに山間部に入るといい眺めというか見慣れた緑が目に優しい。

 窓際の方をサーラさん、美琴さんに座ってもらって、私と智沙さんは出来上がりを取りに行けるように。


「街を離れると自然豊かなんだねえ」


「ですね。というか、あのダンジョンがあった街が特別なんです」


「へー」


 東京の都会度は異常だよね。

 最初に東京に出てきた時は私も「ナニコレ?」ってなったんだよね。テレビとかで知ってたつもりだったけど実物は全然違うっていうか。

 地元流の「あの山の方向に進めば」みたいな移動方法ができなくて、しこたま迷ったし……


「む、できたようだ取りに行こうか」


「はい。二人はここで待っててくださいね」


「お願いします」


 運んで来てから、お箸だとサーラさんが無理だと悟ってフォークを取りに。


「あ、ごめんね。その『はし』っていうのはヨーコもたまに使ってたけど、どうしても慣れなくてねー」


 それぞれに配り終えたところで、さっそくいただきます。

 むむ、なかなかコシがあって、風味も素晴らしく、山菜もシャキシャキ……


「おいしい」


「ですよねー」


 智沙さんとサーラさんは黙々と。箸が止まらない感じ? サーラさんはフォークだけど。


「良かったらおにぎりもどうぞ」


 皿を差し出しつつ、私もおにぎりを一つ頬張る。海苔ではなくとろろ昆布で巻いたおにぎりもおいしい……

 そういえばサーラさん、今まで全く厨二病っぽいセリフを言ってない。『白銀の乙女たち』ではヨーコさんに唆されて発症してた気がするんだけど。


「サーラさん」


「ん?」


「かっこいいセリフはもうやめたんです? 『封印された右目が疼く』的な」


「ぶっ! げほっ!」


 途端にむせるサーラさん。

 何事かと視線が集まる中、サーラさんの目力めぢからが「その話はやめて!」と訴えている……


「黒歴史になりました?」


 こそっと聞いてみるとコクコクと頷く。そっか完治しちゃったんだ。ちょっと残念……


「大丈夫ですか? お茶どうぞ」


 一足先に食べ終えた美琴さんが、サーラさんだけでなく、皆にお茶を淹れてくれる。


「お箸使えるのって、やっぱり向こうの世界では珍しいんですね」


 とりあえず話題を変える方向で言ってみたんだけど、サーラさんはお茶を一気に飲み干してから答えてくれた。


「だね。ヨーコもお米を見つけるまでは、全然そんなこと言わなかったんだけどねー」


 とちょっと懐かしそうな顔。

 ディアナさんやマルリーさんに聞いたところ、お米自体は主食として認識されてるらしい。

 ただ、炊き立てご飯を食べるわけではなくリゾットとかパエリアとかそっち方向なので、まあスプーンで食べるよね。


「あ、今日の夕飯どうします? 帰りに買って行かないと冷蔵庫に何もないんですよね」


「それなんだが、ちょっと提案があるのだがいいか?」


「えっ? あ、はい……」


 智沙さんからの提案って言うと、どうしても『特訓!』みたいなイメージがですね……

 ただ、美琴さんもいるんだけど、どういうつもりなんだろ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る