58. 翔子と続報
ディアナさん、マルリーさんの交代要員は当然、第六階層の神樹の
今日の午後一時にということで、まだ時間的余裕は十分。
「お二人と交代で来てくれる人がいるそうですけど、どういう人か聞いていいです?」
「ん、ああ。『不可視の白銀』サーラ殿と……『花の賢者』フェリア様だな」
サーラさんの名前は『白銀の乙女たち』で知ってる。
ハーフリングで短剣使い。斥候ポジだけど、どっちかというと諜報的な仕事がメインだった感じ。
で、フェリア様? その名前が出て、マルリーさんがぴくっと反応した気がする。『花の賢者』って作中にはなかったような……
「どういう方々か教えてもらっても?」
「サーラは私と一緒に旅をしていた白銀の乙女ですねー。探索や索敵、隠密行動で彼女を上回るのは大変だと思いますがー、チョコさん、頑張ってくださいねー」
「が、頑張ります」
なるほど。今度は『不可視の白銀』直々に教えに来てくれるってことなのね。
人柄はまあ、マルリーさんが本と同じのお姉さんだったし、サーラさんは……ムードメーカーなのかな。ヨーコさんときゃっきゃしてたけど。
で、
「フェリア様というのは? 『花の賢者』っていうぐらいだから、すごい人なんですよね?」
「んー、すごい人なのは確かですけどー……」
「正直、相手するのが疲れるようなら、すぐに連絡を入れてくれ。迎えにくる……」
「「は?」」
「翔子さんは魔法を教わるといいですよー。精霊魔法も元素魔法も使える賢者ですからー」
マルリーさんの答えが微妙にズレているというか、ズラしているというか。なんだろ?
「そのフェリア殿は厄介な御仁なのか?」
「厄介というわけではないんですがー、まー、子供みたいな人ですねー。あー、人じゃなくて妖精なんですけどねー」
妖精族は体長二十センチほど。こっちだとティンカーベルとかそういうやつ? 少なくとも雪風だったりはしない。
「さすがにその姿だと、こっちの人に見つかるのはまずいと思うんですが……」
「どうするんでしょうねー。今日聞いてー、本当に何も考えてないようでしたらー、サーラとだけ交代してフェリア様は引き取りますからー」
と、なかなか辛辣なマルリーさんだけど、隣でディアナさんも頷いてるし。
まあ、そのフェリア様には先にうちの蔵の地下に行ってもらってもいいかも?
「では、二人にお会いしてからということにしようか。こちらも来てもらったからといって、すぐに同行をお願いできるわけでもないしな」
実際、埼玉のダンジョンの問題は私たちがすぐにどうこうできる問題でもなく。
いや、サーラさんがいれば様子見てきてもらったり……って、外じゃ魔素を使えないから厳しいんだった。なんとか外でも魔法を使える方法を考えておくべき?
「それで、昨晩聞いた話はどうなっているのだろう?」
ディアナさんが少し心配そうな顔でそう尋ねるので、チョコが通訳して美琴さんに。
埼玉のダンジョンに機動隊員——ややこしいので警備兵と説明した——が潜って、戻ってきてないことは昨夜説明してある。
美琴さんはそれを待っていたかのように居住まいを正す。あ、私が起きてきてから話すつもりで待ってたのか。
「はい、その件に関して館長から続報を受けています。埼玉のダンジョンに潜った機動隊員八名は帰還しましたが、重傷者二名、軽傷者四名。やはり中で魔物に襲われたようです」
最悪の事態は回避できたと思うべきなんだろうね、これ。
チョコがその話を通訳すると、二人も安堵の表情を浮かべる。
「魔物の正体は……姿形などはどうだったかわかるだろうか?」
「隊員たちは『猪の化け物』と言ったらしいですが、本当かどうかは……」
猪笹王? な訳もないしオークかな? あっちのオークは豚じゃなくて猪らしいし。
「猪の魔物ってオークですかね?」
「でしょうねー。何匹ぐらいいたんでしょうー? 翔子さんや智沙さんぐらいの強さがあれば平気でしょうがー、普通は群れたオークから逃げるのは難しいんですよねー」
「数は分かりませんが、熊よけスプレーで撃退したそうです」
あー、あの唐辛子成分を噴射するやつだっけ? 確かに効きそうな気がするけど倒せないよね。追い払うのが精一杯なはず。
「隊員さんたちは銃は持ってなかったの?」
「携行していたそうですが、ダンジョンの内部では不発だったそうで」
「「えっ?」」
襲いかかってきたオーク(?)に向かって発砲しようとしたものの不発。慌てて別の隊員も撃とうとしたがやはり不発。
接近されたため防ごうとした二名が盾ごと殴り飛ばされて全身打撲の重傷。別の隊員たちが警棒で殴りかかるも全く通用せず。苦し紛れの熊スプレーが効いて、なんとか撃退し、ほうほうの体で戻ってきたらしい。
で、その不発だった銃というか弾だけど、帰投して改めて確認したら、ちゃんと撃てたらしい。
「何かが作用して不発になってるんだろうけど……」
「魔素かな?」
「多分ね」
チョコが思っていたことを口にしてくれる。
「火薬の類が使えなくなると、こちらの人類の攻撃手段が随分と貧弱になるな」
「いまさら剣とか厳しいですよね。あ、智沙さんが使ってた警棒って電気流れてましたよね? あれは効いてた感じがしましたけど」
「確かにあれは効いていたな。しかし、近接であれを当てるには、チョコ君のような盾役が必須だろう。それに電撃は何度も使えるものでもないしな」
むむむ、確かにそうだよね。で、そのメイン盾ができるような人って……そうそういないよねえ。
何度も使えないっていうのはバッテリーの問題もあるってことだし……。あれ? これ割と詰んでるのでは?
不思議そうな顔をしているディアナさんとマルリーさんに軽く説明。でも、銃の説明ができないんだよね。私も実際に内部でどういうことが起こってるか詳しく知らないし……
「なるほどー。その強力な弓のようなものが使えないんですかー」
「そういえば、
ディアナさん曰く、
「ただ、トドメを指すのはやはり近接でないと厳しいな。矢を射かけられると逃げる敵も多い」
「「デスヨネー」」
オーク程度なら倒せるそうだけど、ディアナさん基準、エルフ並みの弓術があってこそだと考えると……普通に無理ってやつだよね。
「おっと、そろそろ出発しよう」
智沙さんが時間に気づき、続きは向かいながらということに。
ちなみに埼玉の件も公表されない方向らしい。私たちにとってはありがたいことだけど、なんだかなーって……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます