56. チョコと白銀の乙女たち

 帰りはいつも通り輸送車両の後ろ。

 ディアナさん、マルリーさん、そしてヨミは私の膝の上に。


「マルリー殿、帰還は明日でいいだろうか?」


「そうですねー。長々お邪魔するわけにもいきませんしー」


「えっ、もう帰っちゃうんです?」


 しばらくゆっくりしてからだと思ったんだけど。報告だって転送の箱使えばできるはずだし。回収した鎧とかは二回に分けないとダメそうだけど。


「報告は自分たちでしないとな。それとあまり長居しないように言われている」


「そうなんですね……」


 せっかくなんだから、うちの実家での夏休みにご招待とかちょっと思ってたんだけど。

 うーん、今のうちに聞いておくべきかな?


「あのー、他の白銀の乙女の人たちが今どうしてるか聞いていいです?」


「いいですよー」


 ちょっと聞きづらいことかなと思ったけど、全然そうでもない感じ。

 ハーフリングで『不可視の白銀』サーラさんはベルグ支部のギルドマスター、エルフで『異端の白銀』ディオラさんは魔導都市リュケリオンの高等魔術士、翼人よくじん族で『天空の白銀』ケイさんはラシャード支部のギルドマスターだそうだ。

 そして……


「ヨーコは天寿を全うして月白げっぱく神様の元へと旅立ちましたよー」


 向こうの世界、人間の寿命はこっちと同じくらいだけど、巨人、ハーフリング、エルフ、翼人よくじんの寿命はおよそ十倍ぐらいあるのは本で読んで知っていた。

 少し寂しそうに話してくれたが、かといって引きずってはいない様子。


「そうなんですね。じゃ、今はもう『白銀の乙女たち』で活動はしてないんですか?」


「はいー、ヨーコがいなくなってからはー……。いろいろあって今は『白銀の館』として活動してる感じですねー」


 ヨーコさんがいる前の殺伐とした感じと、その後の仲の良さを考えると……いなくなってから、いろいろあったんだろうなってのはなんとなく。

 で、それがまた今は『白銀の館』として活動中なのは、やっぱり彼女たちを導いた『森の賢者』ロゼ様の意向かな?


「じゃ、『白銀の館』っていうのはロゼ様が作られて、私たちが普段やりとりしてるのもロゼ様なんですよね?」


「残念ー、違いますー」


「まあ、ロゼ様が絡んでいないわけではないがな。君たちが普段やりとりしているのは、前も言ったと思うが『空の賢者』で、彼女が『白銀の館』の設立者だ」


 うっ、確かに『森の賢者』ではなく『空の賢者』だって聞いた記憶あるや。

 それにしても、


「その『空の賢者』様の名前、教えてもらえないんですか? お二人ともわざと言ってませんよね? それってこっちの世界から行った人だから?」


「あー、気付いちゃってましたかー」


 やーらーれーたーみたいな……すごくわざとっぽい言い方のマルリーさん。

 それを見てディアナさんが一つため息をつく。よくわからないけど、なんだかそれを伝えることに二人の間に温度差があるような感じ?


「ミシャという。まあ、それ以上詳しいことは本人に聞いてくれ」


 んん? なんかもっと日本人っぽい名前だと思ったんだけど違うのかな。

 それとディアナさんが無愛想というか、ちょっと不機嫌そう?


「ご本人は今どちらに?」


「どこと言われても困るな。あちこち飛び回っている」


「え?」


 ディアナさん曰く、パルテームの件で様々な国の外交特使としてあちこちの国を飛び回ってるんだとか。

 主にパルテームに隣接するベルグ王国と魔王国を行ったり来たりだそうだけど、それ以外の国にも説明に行ったりしてるらしい。


「わりと毎日手紙が届くんですけど、滞在先から対応してくれてるんですか?」


「いや、ベルグにある邸宅に毎日帰宅しているはずだ。ミシャはこちらの世界でも珍しい、転移魔法を自在に使える人物だからな」


 そう得意げに話すディアナさん。

 え、えーっと、毎日、転移魔法であっちこっちの国を行き来してるってことだよね? めっちゃ忙しい生活してそうなんだけど……


『そろそろ到着する』


 スピーカーから智沙さんの声が流れ、その話はそこでいったん保留となった。


***


「チョコ、ちょっと館長さんに呼ばれてるらしいから、ディアナさんとマルリーさんをお願い」


「オッケー」


 そう言って左手を合わせると……なるほどね。なんかまた厄介なことが起きてる予感。

 私はどうせ後で記憶の同期ができるし、先に二人とお風呂で綺麗になっておこうかな。


「すいません。翔子たちは急な用があるみたいで、私たちは先にお風呂にでも」


「はいー」


「了解だ」


 一応、ダンジョンを出る前に清浄の魔法をかけて綺麗にしてるけど、疲れが取れるわけじゃないからお風呂は必須。

 別邸のお風呂は共用でちょっとした銭湯みたいな感じ。今は午後五時前ぐらいだけど、午後三時ぐらいから入れるようになってて、すごくありがたい。


 自分の体が魔導人形なので、髪を洗ったりする必要があるのかどうか微妙な気はするけど、気分の問題なのでしっかりと。

 そして、大きな湯船に浸かると自然と声が出る。


「あ〜、極楽〜」


「こっちの世界はいつでもお風呂に入れるのがいいですねー」


 湯船の隣にはマルリーさん。胸部装甲が大きいのは巨人族だからですよね……

 なお、ディアナさんはカラスの行水で、一通り体を洗うとすぐに出てしまう。


「……さっき、そのミシャさんの名前の話の時、ディアナさんが不機嫌そうじゃなかったですか?」


 違和感があったことを、答えを期待しないで聞いてみる。

 が、マルリーさんは少し笑って応えてくれた。


「ミシャさんはこちらから来た人ですからねー。こっちに帰っちゃうんじゃないかと不安になったんだと思いますよー」


「あー……」


 そっか。今ならあの神樹の樹洞うろを通れば、こっちの世界に帰ってこれるのか。


「チョコさんがー、ディアナさんに『ヨミちゃんは私たちの世界の狼ですよね?』って言われるとー、なんだか返せって言われてるような気になりませんかー?」


「うっ、そうですね。うん、それはちょっと嫌ですね……」


 ヨミが帰りたがってるならともかく。いや、違うな。本人がいないところでそういう話をするべきじゃなかったのかな。

 それともう一つ疑問に思ったことを。


「そのミシャさんに白銀の乙女の人たちが助力してる理由を聞いても?」


「ヨーコの遺骨をこの世界に返したいっていう願いを叶えてくれたのがミシャさんだからですねー。そのためにいろいろと無理をさせてしまったのでー」


 ああ、最初に美琴さんに聞いた遺品の返還の話は、ヨーコさんの遺骨を返す話から始まってるんだ……

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