52. 翔子と模擬戦

 自衛隊の調査も無事終わり、隠し扉はその役目を十分果たしてくれて、彼らはあっさりとダンジョンから撤退していった。

 正直、よくわからない陥没跡を四六時中警備し続けるのも大変だよね。それももう二ヶ月になろうかって話だし。


「「お疲れ様でした」」


 撤収確認を終えて戻ってきた智沙さんと美琴さん、正直かなりお疲れな感じ。

 撤収後、当面は六条警備が二十四時間体制で警備することになってるからか、いろいろとあったんだと思う。引き継ぎ的な何かがあったのかな?


「ああ、正直、明日に第七階層は無謀だった。主に精神的疲労でな……」


「撤収した後に発生したことに対する責任について、随分と細かくて面倒でした……」


 と愚痴る二人。

 向こうも仕事だししょうがないよね。というか、別に二人がやる必要もない気がするんだけど。


「ディアナ殿とマルリー殿はもう?」


「はい。今日ももう寝ちゃってます」


 マイペースな二人は夕飯を食べた後、さっくりとお風呂に入って寝てしまうので、ここ数日は智沙さんたちと顔を合わせてないという……住んでいる世界が違うってやつかな?

 なので、私とチョコで「今日はこんな感じでしたー」っていうのを、午後九時ぐらいから二人に話す日々。


「三日間、みっちり鍛えられた感想は?」


「ホント大変でした。でも、一応、今日は褒められるぐらいにはなったので……」


「右に同じです……」


「ふむ。私も時間があればな」


 と悔しそうな智沙さん。フェンシングというスポーツはどうでもいいけど、剣技は極めたいとかそういう感じなのかな? フェンシングの前は剣道やってたんだっけ?


「ディアナさんは今日もヨミちゃんと庭内を散策ですか?」


「うん、午前中はね。午後からはディアナさんも一緒だったかな」


 一日目、二日目と庭内の散歩というか、草木の手入れをしていたディアナさんだけど、三日目は訓練に加わっての二対二戦にシフト。

 メインはチョコ対マルリーさんなんだけど、私とディアナさんが攻防サポートするという模擬戦。

 向こうの連携もなかなかなんだけど、こっちは私とチョコ、つまり私と私なので連携ミスが全くないという強みがある。

 正直、それがあったから褒められた感じかな。二人でやっと一人前的な。


「なるほど。明日が楽しみだな」


 明日はダンジョン内で戦闘訓練の予定。

 明後日の本番に差し支えない程度で終わってくれるといいんだけど……


***


「翔子さんー、お願いしますー」


 ダンジョン一階、入ってすぐ右手奥、ゼルムさんたちが籠もってた部屋で本番前の……リハーサル?

 頷いてヨミを見ると「まだ? まだ?」って感じの顔をしてるので大丈夫だと思う。

 一つ深呼吸して心を落ち着かせてから祈祷を唱える。


月白げっぱく神の聖域を」


 その言葉にヨミが淡く光り、その光が私を中心に半球状の聖域として展開された。


「ふむ、素晴らしい」


「お見事ですー」


 あー、良かった。一応、実家の蔵の下でも試しはしてたけど、なんか「神様へのお願いを試すのってどうなの?」って思ったから、最低限しか試さなかったんだよね。

 続いて加護を掛けると今度は淡い光が全員を包む。……これって聖域と似てるというか、範囲の違いぐらいしか無いような。いや、同じなのかな。


「チョコさん、智沙さん、どうですかー? 加護が掛かってるっていう感じは理解できましたかー?」


「はい。なんだか不思議な感じですね」


「そうだな。確かに護られているという感じか……」


 自分自身でも感じるこの感じ。言葉にするのがすごく難しい。

 智沙さんの「護られてる」が一番近いかなあ……


「まもって守護以下略」


「うん、アレも月だったね」


 チョコのボケに思わず突っ込んでしまったが、マルリーさんは華麗にスルー!


「この加護ですがー、攻撃したり防御したりで敵と触れると消耗していくのでー、注意してくださいねー」


「なるほど」


 魔物の持つ悪い魔素とぶつかって、浄化に使った分だけ魔素が減る感じなのかな。バフを適切に掛け直すのも仕事のうちっと……

 あれ? じゃあ、それがないと消えない?


「加護を外したい場合はー、加護を掛けた翔子さんがそれを意識して触れれば大丈夫ですよー」


「こちらの世界の話だが、街中で加護をかけた状態でいると、メンバーの神官がいなくなったと誤解されるから注意するようにな」


 マルリーさんが疑問を先回りし、ディアナさんがそれを捕捉する。

 加護が外れてない=掛けた人が行方不明!? って誤解されるのね。


「というわけでー、さっそく模擬戦をしましょうかー。翔子さん、チョコさん、智沙さんのチームと私とディアナさんのチームに分かれましょうねー」


「魔法は直接攻撃するものは無しで頼む。間接的にサポートするものなら構わない」


 魔法でのサポートってことは、土壁出したりとかだよね。

 ちょっといろいろと調べてきたことを試してみるかな……


 ………

 ……

 …


「はいー、終わりにしましょー」


「「お、お疲れ様でした……」」


 土壁を足元に出したりとか、空中に出して落としてみたりとか……全部、回避されました。

 蔵書部屋にあった『魔法による集団戦闘の理論と実践』っていう本で勉強してたんだけど、マルリーさん相手だと「そんなの知ってますー」って感じなのかな。


「翔子さんの土壁は悪くなかったですよー。短絡的な魔物なら間違いなく引っかかりますからねー」


「マルリーさんには全然当たってなかったんですけど。っていうか、頭の真上に出しても、なぜか外れてる気が……」


「ああ、それは私が風の精霊で弾いているからな」


 ディアナさんがさらっと。この二人には飛び道具はよっぽどじゃないと当たらないのね。

 ということは、明日はその辺りのフォローは任せられる、ということかな?


「アンデッドが飛び道具を撃ってくることはあるんですか?」


「弓を持っているスケルトンがたまにいるな。おそらくは生前それを使っていた人か、ゴブリンか……そういうことだ」


「ふむ。では、魔法を打つ可能性も?」


「ありますねー。ですが、それは私が大盾ラージシールドで対処しますのでー」


 魔法を盾で防ぐんだ……

 うん、マルリーさんならできるよね。っていうか『白銀の乙女たち』でも防いでたし。


「前衛に盾役として、マルリー殿とチョコ君、ディアナ殿が遊撃として動き、私が翔子君を守るという感じだろうか?」


「それなんですがー、チョコさんには『天空の白銀』として動いてもらう方がいいかなと思いましたー」


「えーっと、槍で遊撃ですか?」


「ですですー。盾二枚だと殲滅速度が落ちますしー、翔子さんとの連携も良さそうなのでー、リーチを活かして敵の殲滅を早めた方が安全かとー」


 まあ、そっか。ゲームでも盾二枚は過剰防衛だよね。

 マルリーさんなら一人で捌けるだろうし、捌いた相手をチョコが槍でぷすぷす刺していけば早そう。

 チョコと顔を見合わせて頷く。私が光の盾でフォローしてもいいし。


「「了解です」」


「というわけでー、チョコさん、さっそく変身しましょー」


「「えっ!?」」

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