40. 翔子と帰還

「試作したら送ってみるぞ!」


 私はゼルムさんたちドワーフと談笑中。あの後、つい出来心で可動フィギュアをポチッとやってドワーフの皆さんに見せてしまったせい。

 いろんなポーズを取らせて「こういう風な感じなんですけど作れたりします?」って見せた時の表情、その後の熱いトーク、なかなか濃ゆくて楽しかった。

 そして隣では、


「チョコさん、いつかこっちに来てくださいね! 私たち、街を案内しますから!」


「う、うん、機会があったらね」


 イケメンの妹たちに囲まれるチョコ。あれれ〜? おかしいぞ〜?

 まあ、チョコが『白銀の乙女』なのを隠せとも言われてないし、最初に助けた時にバレちゃってるしね。

 その兄たちはと言うと、


「こちらに来た時には案内させてもらいます!」


「ん、ああ、その時があればな」


 智沙さんとなんとかお近づきになりたい風だけど、全く相手にされてない模様。どこの世界でもイケメンチャラ男ってこんな感じなんだろうか?


「ワフ?」


「なんでもないよ。ヨミはホント優しい子だね〜」


「ワフ〜」


 しゃがみ込んでほっぺをむにむにしてあげると、嬉しそうに答えてくれるヨミ。

 いいんだ。私、この仕事が終わったら、ヨミと帰って散歩するんだ……


「そちらの準備はいいだろうか?」


 風の精霊魔法のおかげでディアナさんの声だけが聞こえきたので、慌てて皆に準備を伝える。

 とはいえ、こっちのお土産をなんでもオッケーするわけにはいかないと言われたので、可動フィギュアとかは無しになってしまった。

 渡していいのは、向こうにもある素材を使ったもののみという制限もあり、結局、一人一本お酒を持って帰ることになった。

 イケメン兄弟の妹たちって未成年な気がするんだけど、向こうの世界で問題ないならいいのかな。


「準備オッケーです」


「では、開通したら順に頼む」


 そう聞こえてしばらく待っていると、樹洞うろが次第に広がって行き、人が潜れるほどの大きさになる。


「ほら、妹らから行け!」


 とゼルムさんが声をかけ、イケメンの妹三人が小さい順に入っていく。

 少し間を空けてから兄たちが行き、そのあとはドワーフさんたちが入っていく。これもまあ若い順なんだろう。


「さて、最後がワシだな。いろいろと世話になった。またな!」


「「ええ、また!」」


 ゼルムさんの両手を私とチョコでがっちりと握手。

 二度と会えない可能性の方が高そうだけど、私たちも「また」と言って別れた。


***


「ほーら、ヨミ。こっちこーい!」


「ワフン!」


 ダッシュして駆けて行ったヨミが、館長さんの膝の上にお座りすると、館長さんがでれでれになって撫で回す。

 連れて帰って来た日から、ヨミはこのお屋敷の全ての人に愛される存在になっていた。まあ、かわいいし、かしこいし、しょうがないよね。

 私たちいつものようにソファーに座ると、館長さんはそっとヨミを抱え上げて渡してくれる。


「皆、お疲れだったな! 今日で一段落ってことにしとくぜ。まあ、他の陥没現場とダンジョンについてはお上がどうするか様子見だ」


 最優先だったのが私がチョコと出会った研究施設。次に都内の陥没から繋がるダンジョンにいた人たち。この二つの問題は解決して、それ以外については状況に応じてという話は聞いた。


「埼玉のダンジョンはどうなるんでしょう?」


「今は県警が張ってるが、自衛隊が行くらしいぜ。都内のアレの確認が終わったらって話だがな」


 なるほど。あそこの第一階層の隠し扉にちゃんと騙されてくれればいいんだけど。多分、そんな念入りに調査したりはしないだろうし大丈夫だよね?


「自衛隊がゴブリンに襲われて怪我した件って、もうスルーしちゃうのかな?」


「うーん、野生のタヌキだったとかいう話にでもなるんじゃないの?」


 私とチョコがそんなことを話してると、館長さんがおかしそうに笑う。


「翔子ちゃんとチョコちゃんの言う通りだ。野生動物だったって線になるらしいぜ」


「では、魔物が出るという話は一般市民には伏せる方向ですか?」


「そうだな。ちょっと話がぶっ飛んでるし、今の政権で大ぴらにするこたーなさそうだが、噂としては流れるんじゃねーか」


 と頬杖をついて微妙な表情。

 埼玉の一件はビデオも残ってるらしいけど、表には出さないということになったらしい。


「じゃ、私たち実家に戻っても?」


「おう、動きがあるまではゆっくり休養してくれ。っとその前に翔子ちゃんたちにご褒美がねーとな。何か欲しいもんとかあるか?」


 へ? 欲しいものとか急に聞かれても、オタク的に欲しいアニメの円盤とか最新ゲームソフトとか山ほどあるけど、そういうことじゃないよね? えーっと、そうなると……あっ!


「あ、えーっと、できればでいいんですが、正社員になれたら嬉しいです」


 なんかいろいろと足を突っ込んじゃって抜けれそうにないし、館長さんも美琴さんも智沙さんも優しいし。できれば、このまま白銀の館でお世話になりたいかな。


「はあっ? 今は正社員じゃねーのか!?」


 と美琴さんを睨む。が、美琴さんは涼しい顔で、


「正社員になって欲しかったんですが、社則で中途採用は業務委託で三ヶ月の協業実績がないとダメになってるんですよ」


 と。そういう社則があったから最初に済まなそうに話してたのね。


「なんだよ、先に言っとけよ。じゃ、六条会長権限で今から翔子ちゃんは正社員な。あと智沙も白銀の館に転籍にしとけ」


「了解です。じゃ、すぐに書類を作りますから、サインをお願いしますね」


 あれ? いや、まあ、館長さんの一言があれば通るんだろうけど、それでいいんだ。

 それと智沙さんも転籍なのは嬉しいかな。向こうのことも含めて、いろいろと話せる相手は多い方が気が楽だし。


「ありがとうございます」


「おいおい、正社員の件はノーカンだぜ。他になんかねーのか?」


「えっ! えーっと……」


***


「ふむ。これで設置は完了だな」


 私が館長さんにご褒美としてもらったのは、蔵の地下入口を隠すための扉。

 館長さん的には「そりゃ、必要経費じゃねーのか?」って話だけど、結構しっかりとした防犯装置があり、かつ、電源やLANも中へと通せるような特注の扉を大急ぎで作ってもらいました。


 東京からの帰りは、ヨミもいるし、その扉を運んでもらうのもあって車で。智沙さん、美琴さんが交代で運転しつつ、ドライブ気分で帰宅。

 町子さんに私が正社員になったことを伝えてもらったりと、ますます白銀の館の人たちには頭が上がらない感じになったけど、これからも楽しく仕事ができそうで良かった。


「翔子さん、開けてみてください」


「じゃ、開けます」


 地面に蓋のように置かれている扉の右端を触ると、折り畳まれていた支柱がまっすぐ伸びて扉を押し上げるという凝った作り。本当に秘密基地への隠し扉みたい。


「ワフッ!」


 ヨミが楽しそうにそれを見上げ、動作が止まったところで地下へと駆け出して行った。

 あの子も向こうの犬……じゃなくて狼なので、魔素があるここの方が過ごしやすいよね。


「バッチリだね」


「じゃ、下でお茶でもしましょうか」


「ああ」


「はい」


 ここからまた『白銀の乙女』として、お仕事頑張らないとね!

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