36. 翔子と捜索終了
「チョコは何も感じなかったの? 私はなんていうか嫌悪感がすごくて……」
「私も同じだな……」
運転席の智沙さんが同意しつつハンドルを右に。インド人ではなく。
「んー、気持ち悪い感じはしたけど、なんていうかこう『綺麗にしないとっ!』ていう気持ち? あの熊と同じで下の階はアンデッドだらけなんじゃない?」
「あー……」
「あのー、アンデッドって何ですか?」
と助手席の美琴さん。
「あー、えーっと、ゾンビ映画とかって見たことない?」
「それは……かなり嫌ですね」
あの熊は腐臭とかはしなかったからゾンビじゃないのかな? リビングデッド?
ともかく、ゾンビとか腐ってて臭い系は勘弁して欲しい。戦うにも気が散ってしょうがないだろうし。
だからと言って、レイスとかゴーストとかだとどう倒せばいいの? って話になるので、スケルトンあたりだといいんだけど……
でも、殴って壊しても再生するスケルトンとかだとダメだよね。やっぱり神聖魔法を使えるようにならないとなのかな?
「いずれにしても、あの場所に行くのは危険度が高すぎるだろう。一度、向こうの状況を聞いた上で、こちらで対処可能なのかも問い合わせるべきだ」
「そうですね」
二次遭難や命の危険があるような行為は館長から絶対ダメと言われてるし、本当にアンデッドが大量にいるようなら今のところは手の打ちようがない。
「それと美琴、本社の耐震部署からマイクロビデオスコープを借りる手配をしてくれ。一番良いやつを頼む」
「わかりました」
智沙さんの「一番良いやつを頼む」のところに反応しそうになったけど、ぐっと我慢。大丈夫だ、問題ない。
「下の階は保留して、明日は
「「了解です」」
今のところできるのは、神樹の
何の障害もなく向こう側に貫通してれば満点だけど、さすがにそんな都合良いことはないと思う。
神樹の内部で次元の壁がどうなっているのか。やっぱり真っ二つになっているのか、それとも壁もなく行ったり来たりできてるのか……
「あ、今日は館長がお戻りになられてるそうなので、報告会に同席されるとのことです。私は向こうからの連絡を確認してから行きますので」
「「はーい」」
***
美琴さんが別邸へと向かい、智沙さんも自社——警備会社の方に連絡があるとのことで、私たちだけで応接室へ。
もう館長さんは来てるのかな? 二人だけで放り込まれるのもちょっと緊張するんだけど……とドアを開けたが誰もいない。
「翔子ちゃん! チョコちゃん!」
突然後ろからガバッと抱きつかれ、それが誰なのかは……言うまでもなく。
館長さん、ホントにパワフルというか米寿とは思えない力で抱きついてくるよね。
「今日はまたどうしたんですか? また、何かありました?」
「ああ、全く困ったことだらけだ。翔子ちゃんたちがいなかったら、寝込んでたぜ……」
そう館長さんがこぼしたところで、智沙さんが来て、
「御前」
「わーってるよ」
とは言ったものの、私たち二人を侍らせるように長ソファーへと座る。えーっと、いつもの上座ソファーは?
アイスコーヒを持ってきたメイドさんが眉をピクッとさせたが、何かを堪えるようにしてそれを配り終えて退出する。
私たち、御酌とかした方がいいやつ? ミルクとシロップでしかできないけど。
「お待たせしました。って館長……」
美琴さんも来た瞬間呆れ顔。
智沙さんを見るが、智沙さんも諦めているのか絶賛スルー中。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」
美琴さんもスルーなの!? これってパワハラじゃないんですか!
いや、別に全然嫌じゃないけどね。なんかこう、小学校の時に亡くなったおばあちゃんを思い出すというか……
もちろん、こんな豪快な人じゃなかったけど。
「では、今日の報告から」
智沙さんが今日のブラッドホーネット駆除、アンデッド熊退治を簡単に説明し、続いて第七階層に降りようとしたけど、もうヤバい気配がビンビンだったので帰ってきました、と。
「よしよし、それでいい。くれぐれも無茶はすんなよ」
「はい」
「にしても、そんなにヤバかったのか?」
智沙さんが頷くと、館長さんが私を見る。
「なんていうか無理でした。もともとそういう感覚とか無い方だと思ってたんですが、身の毛もよだつっていう感じで……」
「チョコちゃんもか?」
「私はどうもそう言うのに耐性があるみたいです。気持ち悪いのは確かだけど、無理っていうよりは、なんとかしなきゃっていう」
チョコのそれは多分だけど『白銀の乙女』だからなのかなあと。
でも、『慈愛の白銀』になれない現状で、アンデッド系とは戦いたく無いんだよね。
「チョコちゃんはすげーな! でも、無理しちゃダメだぞ?」
「は、はい」
館長さんに頭を撫でられるチョコ。なんかちょっとズルい気がするけど、何を自分に嫉妬してるんだっていう。
「翔子ちゃんもな!」
「は、はあ」
察されたのか頭を撫でられる。
ちょっと亡くなった両親のことを思い出しそうになって……ね。
「館長。向こうから連絡が来ていましたので」
「おう、頼む」
「はい。まずこちらは全員あてですので、私の方で開封しますね」
と美琴さんが封蝋を割る。が、取り出した中身は読まずに館長に手渡した。
きっちりしてるなあとか思うものの、私は中身が気になってしょうがない。
「ん。翔子ちゃん」
一通り読んで納得したのか、手紙をそのまま渡された。
えーっと、なになに……
「え、捜索終了って……ああ……」
「どういうことですか!?」
「最後まで見つかってなかった人たち、第七階層で亡くなってたって……」
納得だけど、納得いかないというか、すっきりしない終わり方。
美琴さんも智沙さんも同じ気持ちなのか、どうにも晴れない顔になってしまっている。
「あたしたちにできることは全部やったんだ。しけた顔すんのはやめろ」
館長さんが手をひらひらさせてそう言い放つ。
「は、はい。あとはこちらで保護した人たちの返還ですか」
「そうだな。具体的な方法はあるのか?」
「まだ目処が立たないので、しばらく待って欲しいと書いてありました」
世界を跨ぐ人の行き来、こっちからあっちへは『勇者召喚』で出来ると思ったんだけど、そもそもそれも制約が色々とありそうだよね。
というか、ゼルムさんたちはこっちの人じゃないから無理とか?
「美琴、もう一通は誰あてだ?」
「あ、はい。こちらは館長あてです。さっきの手紙を確認した後に、館長がまず読んで欲しいとメモが添えられてまして」
添えられていたメモと封筒を手渡された館長さんはそれを受け取ると、立ち上がって窓際へと歩き出す。これ、私たちいない方がいい?
「ああ、すぐ読むし隠すつもりもねーから、ちょっと待っててくれ」
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