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【悲報】マジキュア次回作、ゴリ押しされる【山下マキ】

 

   日曜日の朝に放送される女児向けアニメ、マジキュアシリーズの新作が発表された。

   初代マジキュアが放送されてから、記念すべき20周年を迎える年だ。

   どんな力作となるのか、シリーズのファンから注目されていた。

   発表されたタイトルはレジェンドマジキュア。

   伝説になるような作品を作りたいという意気込みを表現しているそうだ。

   世界観や設定は明らかになっていないが、マジキュア役二人のキャストが発表された。

   マジフール役・柊理沙、マジレジェンド役・山下マキ。

   あの天才子役山下マキが抜擢されたとのこと。

   声優初挑戦となる彼女はどんな演技を見せるのだろうか。

 

 2: 伝説の名無しさん

  はいゴリ押し

 

 3: 伝説の名無しさん

  駄作決定

 

 4: 伝説の名無しさん

  いい加減、役者を声優に使うの止めろ

  誰も喜ばない

 

 10: 伝説の名無しさん

  >>4

  オパヤが喜ぶ

 

 5: 伝説の名無しさん

  タイトルださすぎ

 

 21: 伝説の名無しさん

  >>5

  なんか名前倒れになりそうだよな

  略し方も分からないし

  つかレジェンドっつったら初代のことだろ

 

 32: 伝説の名無しさん

  >>21

  レジェマジ?

  言いにくくて草

  こりゃコケますわ

 

 15: 伝説の名無しさん

  フールってりさぽん公式でバカ認定されてるやんけ

 

 66: 伝説の名無しさん

  >>15

  頭の栄養が全部おっぱいにいってるから

 

 77: 伝説の名無しさん

  >>15

  マキさんの方がしっかりしてそう

 

 88: 伝説の名無しさん

  >>77

  してそうというか普通にマキさんの方がしっかりしてる。

  撮影現場に偶然通りがかったことがあったけど、ファンへの対応とかめっちゃ丁寧だった。

 

 100: 伝説の名無しさん

  >>88

  事務所とのやり取りも親を通さずに自分でやってるらしいしなぁ

  ほんとマジで転生してるんじゃなかろうか


 106: 伝説の名無しさん

  >>100

  おっさん、転生して天才子役になるってか




    ◆




 私がマジキュアシリーズ最新作の主役に抜擢。しかも、あのマキちゃんと共演する。

 マネージャーから聞かされたときは本当に驚いた。

 驚きすぎて鼻水が飛び出たのは誰にも言えない秘密だ。

 

「ふふふ、私がおねーさんとして色々教えてあげるんだ」

「いや無理でしょ」

 

 ガッツポーズをして気合を入れているとマネージャーにばっさり切り捨てられる。

 なぜこのマネージャーは私にいつも厳しいのだろうか。

 変更を要求する!

 いつも却下されてしまうのだけれど。

 

「私だって人気声優なんだから。私を応援してくれる人はたくさんいるんだからね!」

「おっぱいが人気なだけでしょ」

「声だよ声!」

 

 私、柊理沙は自分で言うのもなんだけど、声優としてそれなりに人気がある。

 最初の方こそパッとしない日々が続いていたけど、大ヒットしたアイドルものの作品に出演していたことが切っ掛けで、知名度がぐんぐん上昇したのだ。

 そんな人気声優の私ではあるが、私を〇〇声優として表現したとすると、おっぱい声優・バカ声優・温泉声優の3つがよくあがるらしい。

 誠に遺憾だ!

 まぁ温泉声優はいいだろう。これは素直に嬉しい。

 私は温泉を愛している。秘境にあるような名湯も好きだし、近くにある寂れた銭湯やスーパー銭湯も好きだ。

 でも他の2つはなんだ。私にはもっと美人声優とか、実力派声優とか、そういう表現が相応しいはず。

 

「いくらマキちゃんが天才子役だって言っても声優は初めてなんでしょ?」

「みたいだね」

「先輩として色々教えてあげないと! 一応芸歴で言えば私の方が先輩だし」

「から回る予感しかしない」

 

 私はしっかり下積みをつんできた実力派声優なのだ。えっへん。

 いくらマキちゃんの方が売れてるからって、業界に入ったのは私が先なのだ。芸能界は縦社会だ。声優だって芸能界の一部だから当然縦社会だ。マキちゃんは私を敬う義務がある!


 ちなみにマネージャーとこんな話をしているのには理由がある。

 なんとこれからマキちゃんと顔合わせなのだ!

 といっても正式な顔合わせではない。

 たまたま私とマキちゃんの収録現場が近くて、二人とも収録後の予定が空いていたから、ちょっと挨拶をしに行こうとアポをとったのだ。

 さすが我がマネージャーは敏腕だぜ!

 私の方が先輩であり、私の方が偉いのは当然として、それはそれとして、マキちゃんと一緒に仕事をすることに、ちょっとだけ、ちょーっとだけしり込みしているので、事前に相手と仲良くなれるのはすごくありがたい。

 

「いったいどんな子なんだろう」

「失礼のないようにね」

「安心して。私、コミュ力お化けって言われてるんだから!」

 

 これは一緒に声優ラジオをやっているメイちゃんからの評価だから間違いないはずだ。特段意識したことはないけど、大物や年上の人の懐に飛び込むのが上手いらしい。

 

「安心はできないけど、山下マキさんは凄いしっかりしているらしいから相性良いかもね」

「私もしっかりしてるからねー、上手くやっていけそうかも」


 しっかりもの同士波長が合うといいな。

 同族嫌悪にならないように気をつけないと!


「いや逆だから」

「えっ? なにが?」

「……」

 

 

 

    ◆

 

 

 

「わざわざ来ていただいてありがとうございます」

「本物のマキちゃんだ!」

「わぷっ」

 

 ちっちゃくて可愛い! テレビで見るよりも可愛いかも。

 ぎゅっと抱きしめていると背中を叩かれた。

 おっと、またいつもの癖が出てしまったらしい。

 私は興奮すると相手を抱きしめてしまい、相手は息ができなくなってしまうのだ。

 メイちゃんにやったときは、なぜか「このおっぱい野郎!」と物凄く激怒されてしまう。親愛を表現しているだけなのに理不尽である。

 

「ごめんね、苦しかった?」

「いえ、大丈夫です」

「本当にうちの柊が申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です。貴重な体験でした」

 

 うーむ、話には聞いていたけど、凄いしっかりしてる。

 私が小学生のころなんて、もっと暴れん坊だった気がするけどなぁ。

 当然、今となってはお淑やかで立派なレディだけど!

 

「声優のお仕事は初めてなので、ご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いします」

「分からないことはなんでも聞いてね」

「はい、よろしくお願いします、柊さん」

「あ、理沙って呼んで!」

「えっと……はい、理沙さん」

「可愛い!」

 

 はにかむマキちゃんが可愛くて、また抱きしめてしまう。

 マネージャーに頭をひっ叩かれて、我に返って解放した。

 

「そういえば理沙さんは、温泉がお好きなんですね」

 

 色々とお話をして仲を深めているとマキちゃんが言った。

 

「そうだよー、マキちゃんも好き?」

「はい、大好きです」

 

 いい子!

 子どもにとって温泉なんて、ただのお風呂でしかないだろうに。

 きっと私と共演するにあたって、私のことを調べてくれて、そこで温泉好きであることを知ったのだ。そして、こんなおばさんと話を合わせるために、温泉の話題を出してくれたんだろう。

 うぅ、とってもいい子で思わず涙が出そうになるよ。

 

「前に撮影で網走に行ったときの、温泉は凄い良かったです」

「もしかして目地屋温泉?」

「はい。どうしても入りたくて、撮影よりも一日早く現地に乗り込みました」

 

 ん……? んん!?

 目地屋温泉は網走の名湯で、あんまり知られていないけど名湯だ。

 いわゆる知る人ぞ知るってやつ?

 その目地屋温泉に目をつけるとは、マキちゃん……おそろしい子!

 

「もしかしてほんとに温泉が大好きだったり?」

「はい、大好きですよ。生き返るような心地になりますよね」


 もしかした!

 マキちゃんは話を合わせるために温泉を好きと言ったんじゃない。

 本当に好きだったんだ!

 テレビや雑誌でそういう発言はしていなかったはず。すごく意外だ。


「うそ……なんかめっちゃ嬉しいんだけど」

「私もです。温泉好きの同士として、理沙さんとお話できるのが楽しみだったんです!」

 

 あぁ^~、かわいい。

 マキちゃんは天使。間違いない。

 百点満点の、いや、百二十点の笑顔を浮かべている。

 

「マキちゃん!」

「理沙さん!」

 

 同志マキちゃんと抱擁をかわす。

 こんなにちっちゃくて柔らかいのに、温泉が好きだなんて奇跡の子だ!

 きゃーわーきゃーと温泉の同志を見つけたことに歓喜しながら、二人で愛を語り合う。

 

「凄いよマキちゃん!」

 

 話せば話すほどに通じ合った。

 私とマキちゃんの温泉への考え方は似通っていた。

 名湯や秘湯は当然、素晴らしい。

 秘境にあるような温泉に入れば、まさに極楽浄土だ。

 でも同じくらいにスーパー銭湯であったり、近所にある潰れかけの銭湯も素晴らしいと思う。

 温泉や銭湯に貴賤はない。

 私の考える温泉観と同じようなものをマキちゃんは持っていた。

 

「一緒にテルマエ湯に行こうよ!」

「ぜひお願いします」

「うん、テルマエ湯へGO!」

 

 互いの空き時間を確認し、私たちはテルマエ湯へと向かうことになった。

 今日の顔合わせは大成功だろう。

 マキちゃんという超大物に緊張していたけれど、私たちはもうマブダチだぜ!

 そして私たちは温泉好きの同志として、時間が合えば一緒に温泉に入る仲となったのである。

 ちなみに後日、このときの話をラジオでメイちゃんに話したところ、「さすがコミュ力おばけ……」と呆れられた。つらい。

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