第30話 親友シオン

 喋りはしたもののそれだけで、理性の大半が消失しているかのように土龍は同じ言葉を繰り返した。

 けど俺は驚き過ぎて、しばし無言でマイ剣と共に滞空していた。

 師匠への怒りはさ、瞬間的には沸騰したけどああ師匠だもんな~って納得と諦観にすぐに変わったから今は割と平静だ。被害は主に俺が被るってのは今も以前もホント変わらない。俺も師匠みたいに気儘に生きられたらどんなに楽か。


 悔やまれるのは自分自身の生き方……じゃなくて、俺だってまさかこんな現実に直面するなんて思わないから、師匠との連絡方法を取り決めておかなかった点だ。


 こんな緊急時に救援を頼めないって不備にマジで泣きたい。

 きっと森で何かが起きているってのを、倒木音やら龍の地団駄やら怒号やらでロクナ村の皆がもう気付いているだろう。

 俺がもたもたしている間に土龍の出現から割と時間が経っているから、大人が誰か見に来てもおかしくない。

 もしオーラル兄弟がロクナ村に駆け込んでいるなら、村人たちを可能な限り遠くまで避難させてほしいもんだよ。

 まあ性格は悪くなさそうな隊長はともかく、兄の方は横柄そうだったから期待はできないか。自分たち優先で逃げてそう。その時はブラコン隊長だって敬愛する兄者に従うだろうし。

 アニキ的立場を利用して命令しとけばよかったかもなあ。ああホント何やってんだ気が回らず駄目駄目じゃねえか俺。

 頭を抱えたい衝動に駆られたけど、持ち上げた手で自分のこめかみを小突いた。


「それよりもすべきことをしろエイド・ワーナー」


 意識を集中してマイ剣に飛行の続きを命じようとした矢先。


「――エイド君! エイド君どこにいるの!」


 森の中からシオンの声がした。


 しかも龍のそこそこ近辺から。

 一瞬空耳かと思って地上を注視していると、ランタンを片手に、立ち木の間を走るシオンの姿が見え隠れした。

 迂闊だった。村の大人が来れるなら当然子供だって可能だ。


「なっ、どうしてここに来たっ、危ないから戻れよっ!」


 龍は見えても俺の位置はわからなかったようだけど、俺の叱責声から大体の位置を理解してか、シオンは足を止め顔を上げた。

 夜闇の中から俺の姿を捉えようと目を凝らす。聞こえる轟音を頼りに休みなく走って来たのか、持ち手の呼吸に合わせてランタンの光が上下する。

 俺は気を利かせて自分の位置を照らしたりはしないから、シオンは俺を見つけられないまま大体の位置に視線をうろうろとさせつつも口を開いた。少なくとも声の届く範囲に俺がいるとわかっているからだろう。


「危ないって、どうしてエイド君は逃げないの? 話を聞いてきっと君だろうなって思って、居ても立ってもいられなくて急いで来たんだよ」

「……話?」

「いくら強くても無茶はいけないよ」

「無茶はお前だろ。ごちゃごちゃ言わず今すぐ村に帰って皆を避難させてくれ」

「じゃあエイド君も逃げてよ! 村の避難は村長命令でとっくに始まっているんだ。おじさんもおばさんも今頃逃げてるはずだからエイド君も安心して逃げて良いんだよ!」


 声を張って窘めるシオンにいつ土龍の敵意が向かうかって内心気が気じゃなかったけど、土龍の方はオーラル兄弟に対してと同じくシオンにも興味はないのか、目を向けさえしていない。


 嫌って程真っ直ぐ一途に俺に首ったけ……んん? 違うな、俺の剣に目が釘付けだ。


 どんだけ欲してるんだ。

 剣の謎とそれを話しておいてくれなかった師匠への文句は色々あるけど今は置いとくとして、龍の近辺って言ってもシオンの所にまでは龍本体から出る瘴気は届いてなかったからほんの少しだけホッとした。

 急を要するし、こうなりゃ転移魔法で村に強制送還しようか。

 ああでも避難始めてるんだったら村じゃない方がいいのか?

 それにしても指導者の質ってのはこんな不測の事態になってわかるもんだよな。あの娘命の村長も金集めと保身以外にも案外しっかりした所があったらしい。判断の迅速さには感心だ。

 黙考する俺が何も言わないのを、避難の話を俺が信じていないからとでも思ったのか、シオンは尚も必死な声を上げた。


「軍の人が二人来て村長を叩き起こして緊急事態を教えてくれて、皆を誘導してくれてるんだよ! 本当なんだ!」

「軍の人?」


 え、まさかそれってオーラルさん家のご子息たちかい?


 二人って人数からしてきっとそうだ。

 しかも、へえ~村長は叩き起こされたのか。でもうっそ、マジであいつらが、特にオーラル兄が村人のために奔走してくれてんの? ホントの本当~っに!?

 失礼にもちょっと予想外で絶句までしていると、すっかり無視され放置され~状態だった土龍が、上空を睨むのにも飽きたのか単に首が疲れたのか苛立ちに激しく巨体を揺らした。


 その動きで周囲の木が幾本もへし折られ、根こそぎ薙ぎ倒され、勢いよく飛ばされる。


 よりにもよって飛んだ一本が、子供なんて難なく押し潰せるだろう幹の太い一本が、シオンへと向かった。


「――シオン避けろっ!」

「え?」


 ランタンから視線を外していたおかげで多少暗さに目が慣れたんだろうシオンが、ようやく自らの危機に気付いて大きく目を瞠る。

 避けろだなんて土台無茶振りを叫んだ俺は俺で剣ごと突っ込むように急降下した。

 くそっ、間に合わねえ……っ。

 もうシオンと巨木は互いに近しく、ここから破壊の魔法を飛ばす猶予さえない。


「――頼むから避けてくれッッ!」


 直後、複数の大木が立てたけたたましい衝撃音が俺の耳朶を激しく打った。

 耳朶だけじゃない。まるで頭を何か硬い物で殴られたようだった。

 土埃が立ち込めて、暗視魔法でも地上の様子はほとんど見えなくなっているけど、大小の木々が無残にも倒れているのは見なくとも明らかだ。


「……シ、シオン?」


 返事はない。ランタンの光も土埃のせいなのか根本的に消えたのか見当たらない。

 思わず下降を止めていた俺は、のろのろと再び高度を下げ始める。


「シオン、おいシオン! シオンなあ返事しろって! 冗談はやめろってシオンッ!」


 喚く口は別人が動かしているように滑らかに動くのに思考はまるで空回りで、現状打破への建設的な一切が思い浮かばない。地上に近付く危険を意識の半分じゃ理解していたけど、もう半分じゃそんなことはどうでもよかった。

 人生も魔物も諦めた結果大勢を救えなかった二度目の生で感じたような猛烈な無力感が、あの時よりも勢いも大きさも増して怒涛のように押し寄せる。


「ああ……」


 全部、俺のせいだ。


 俺が早く魔物を遠ざけなかったから。


 元よりヒントは何度もあったのに、過去二回にはなかった時期のズレだったり新規の事象だったり、もっとあらゆる予想外と不測の事態を想定して前以ての対策を講じていなかったから、だからこんな結末に……。


 今までシオンと距離を置いていたのは、別に大嫌いだったからじゃない。


 関わりを本心からご遠慮したかったのは、名こそ伏せるけど某女子二名が主だった。

 シオンを遠ざけたのは予防的な側面が大きかった。

 俺にとってシオン――エルシオンって人間は一言じゃ語れない。

 優しい笑みのエルシオン、滅多になかったけど怒り顔のエルシオン、感動して涙ぐむエルシオン、色んな表情のあいつをどうしてこんな時に走馬燈みたいに思い出すんだよ。縁起が悪いだろ、やめろよ俺の思考。

 あ、そう言えばエルシオンじゃなくてエロシオンだった思い出だってある……って今はそこはどうでもいいか。


 とにかくだ、俺はシオンに死んでほしいなんて少しも思ってない。


 それも目の前でこんな風に、なんて望んでいなかった。

 なのに……ッ。


「シオン……ッ」


 俺はただひたすら未だ視界の利かない地上の、親友のいるだろう辺りを見つめ続け、とうとう地上に降りた。剣は仕舞わず手に握る。

 土埃が舞っていて、俺は最早シオンが居た場所すら見失って彷徨うように足と視線を動かすだけだ。

 風魔法で土埃を吹き飛ばすとか探索魔法とか何でも使えばいいのに、わらでも詰まっている人形のように頭の回らない俺はそんな無意味な捜索を繰り返し、そのうち周囲が澄んできたにもかかわらず注意散漫で無防備な歩行を続けていた。


 だからだ。


「ケンヲヨコセエエエエーーーーッッ!」


 視界が利くようになって向こうも俺の位置をようやく正確に特定できたんだろう、完全に隙だらけだった俺目掛けて横方から土龍が飛び掛かって来た。


「なっ……」


 咄嗟の驚きに動けず、俺は眼球の動きだけで敵を見る。


 急激に迫りくる龍の巨体とそいつの大きな大きな禍々しいあぎと。

 沢山古傷はあっても死に掛けだからって表皮がただれているとか肉が大きく削げているとか、腐ったゾンビみたいな見掛けだとかそんなじゃないけど、見るからに凶悪な爬虫類系の面に肉薄されるのは正直勘弁願いたい。

 こりゃ何のホラーだよ。

 とは言え恐怖なんて感じない。

 まるで別人の視界を通して見るように、俺の視覚はどこか他人行儀だった。

 こんな感覚はファーストライフの最期に近い。


 全く完全なる不意を打たれて腕の一本すら動かせず、起きている現実に感情が追い付かない。


 もしかして俺の人生詰んでんの?


 宿敵に屠られるなんて、一度目人生とまるで立場が逆だ。

 これでも死亡フラグが立たないように慎重に生きてきたのに全部水の泡かよ。

 はは、笑えねえ……。


「クッソ野郎があああああーーーーッッ!」


 俺の諦めを吹き飛ばすような怒声と共に何者かが俺と土龍との間に、いや俺に体当たりを噛ましてきた。

 俺は見事に突き飛ばされて地面にもんどり打った。

 その拍子に手から離れた魔法剣だったけど、それは独りでに動いて刃を下に、あたかも控えるようにして俺の傍に浮かんだ。


「その磨いてねえきったねえヤニだらけの口でアニキに噛み付こうなんざ十万年早えええええーーーーッッ!」


 普通の人間が食らえばまず間違いなく一撃必殺の土龍の噛み付き攻撃を全身で受け止めて、尚且つ自身の全身をつっかえ棒のようにして上下の顎に抗しているのは、何とオーラル兄だった。


「………………は?」


 地面に両肘を突いて身を起こした俺は、この目で見ているものが俄かには信じられなかった。


 だって誰が予想したよ、自身の肉体そのもので龍種族の攻撃に抗し、尚且つそれが可能な相手の登場なんて。


 しかもそんな仰天人間オーラル兄はぐぐぐっとその顎を押し広げつつある。何て膂力りょりょくだ。

 だけど、魔狼とは大きく攻撃力も違うから牙が彼の肩口に深く食い込んで流血している。


「ぐおおおおおっ……ぐうううううッ!」


 オーラル兄が土龍に劣らない唸り声を発しながら痛みに顔をしかめているのを見て、俺はようやく我に返った。

 防御力すっげえ~……っていやいやそれよりも助けないと駄目だよな!


「おじさん避けろ!」

「へ? のわあっ!」


 俺は魔法で近くにあった折れた巨木の一つを飛ばして龍の口に縦に突っ込んでやった。木も大人二人が両手を回してぎりぎり繋げるかどうかの太さになると、容量が大きいおかげでいちいち魔力劣化を気になんかしない。飛距離も短いし劣化の影響はごくごく小さいからだ。よって周囲の空気圧をどうにかして浮かせるなんて面倒な手法も取らない。

 オーラル兄は正真正銘のつっかえ棒と間一髪で入れ替わるようにして土龍のあぎとから逃れた。

 太くて容易には噛み砕けないのと、口を閉じるにも開くにも支障を来すちょうどいい長さだったのか、土龍は顎に上手く力を入れられないせいでつっかえ棒が取れずに「アガガガ」ってなっている。

 そんな敵を余所にオーラル兄は俺の方に駆け寄って来ると、立ち上がっていた俺の両肩を掴んでゆさゆさと揺さぶってきた。


「あざっすアニキ! 怪我は? 大丈夫か!?」

「俺こそありがとう。おかげさまでないよ。そっちこそ怪我は平気……なわけはないか」


 俺は指環から丸薬状の回復薬を取り出して手渡した。

 レモン色をした俺が調合した肉体的万能薬だ。


「この薬を飲めば傷も全部すぐ良くなるよ」

「全部すぐに!? アニキは使ってる薬からしてすげえな。恩に着るぜ」


 オーラル兄は喜々として迷いなく薬を呑み込むと即効の程に驚き、一応体を動かして具合を確かめた。

 感謝と安堵を見せるオーラル兄は、どう見てもさっき魔狼を怖がっていた人物には見えない。こっちの敵の方が何十倍何百倍も恐ろしいと思うんだけど。


「あのさ、怖くなかったのか?」

「怖いに決まってるだろっ! だがよ、アニキがここで死んだら俺らもおしまいだって思って盾にくらいはなれるって思ったんだよな。ほら俺この通りに頑丈に出来てるだろ?」

「オーラルさん……」

「アニキそれは水臭えって。オーラルとか舎弟でいいって」

「いやそれはちょっと……。世間体もあるし心の中でそう呼ぶよ」

「ハハハ案外アニキは神経質だな」

「しん……!?」


 俺がじゃなくてあんたが非常識に過ぎるんだよ!

 俺が大人の大男を舎弟呼ばわりしてんのを事情を知らない人間たちが見たら、一体どんな関係だって目を剥かれるよ。要らない憶測だって立つだろうし、悪目立ちするのは嫌だ。

 依然龍はつっかえ棒と格闘している。この隙に手早く話をしておこうと俺は気を取り直した。


「そもそもどうしてここに? 村の方で避難誘導してたんじゃ?」

「どうしてそれを知って……ってあのクソガキと合流したのかもしかして」

「あのクソガキ?」


 オーラル兄は大きく一つ溜息をついた。


「実は、馬鹿弟と避難誘導を手伝ってたんだが避難方向とは反対の森に入ってったクソガキを見掛けてな、俺だけ追い掛けてきたんだよ。……んっとに手間掛けさせやがって、ロクナ村のガキじゃなかったら絶対放置だぜ放置!」


 俺は天を衝く失礼さを発揮して心底愕然とした。

 彼の言うクソガキはきっとシオンだ。


「……正直、二人共とっくに遠くに逃げたのかと思ってたから、村の避難を手伝ってくれてるって聞いてビックリしたのに、危険を承知で子供を追い掛けてきたなんてもっとびっくりだよ」

「ハハハ逃げたいのはやまやまだったけどよ、ロクナ村はアニキの故郷だからな! ガキの一人だってほっとけねえよ」


 独特のこだわりと正義感でそう言って得意気にニッと口角を上げる目の前の男オーラル兄は、俺にとっては全く未知数の存在だ。

 そんな彼からのからりとした声に頬を叩かれた気がした。

 善人悪人は簡単に線引きできない。

 そんな真理はとうにわかっていたつもりだった。

 でも三度目は無難にって意固地になって皆から離れて暮らして、薄れていたのかもしれない……いやそうだ。

 こんな俺だったせいで、俺を心配した友人を予期せずも巻き込んだ。


「ところでアニキ、あのクソガキはどこだ? 見当たらないが」

「……ッ」


 ランタン一つない暗さのせいか、思わず息を呑んで答えられない俺には気付かずに、オーラル兄はガリガリと頭を掻いた。因みに、彼は急いでシオンを追ってきたらしく照明の類は持っていなかった。


「全くどこに行った? まっ捜しゃいいか。そこの化け物龍がもたついてる今がチャンスだな」


 俺は拳を握り締める。

 そうだよシオンを助けないと。

 でも……助ける?


 もう手遅れじゃないのか?


 だってシオンは木の下敷きに……。


 オーラル兄に言うに言えず、だけど言わないとこの捜索の埒が明かない。

 だけど、口に出来ない。

 言葉にしたら本当にそれしか可能性がなくなるみたいで怖い。

 長々と葛藤なんてしていられないってのに。

 だって敵は今にもきっと……。

 ドン、と地面が揺れたとほぼ当時にバリバリバキバキと盛大に木が割れる音がした。木っ端微塵に砕かれるようなそんな音が。


「グオオオオオオオオオオオオーーーーッ!」


 とうとう土龍が口のつっかえを取り払ったんだ。自らの頭を地面に打ち付けた衝撃を利用して、僅かに木との接点が緩んだ所で角度を変えて噛み砕いた。

 くっ、何て奴だよ。敵ながら無茶をする。

 オーラル兄もだしシオンもだし、今晩俺の周囲にはそんな相手ばっかりでホント嫌になる。


 二人なんて俺のためにそうした。


 敵が俺たち目掛けて瘴気を吐いた。

 飛び上がって慄くオーラル兄を無視して俺はとりあえず浄化魔法で処理した。


「おじさんここから離れろ! クソガキ――友人のシオンはきっと俺が助けるから!」


 そうだ、助ける。


 見てないうちから諦めて堪るか。

 自分でもわけわかんないけど、何が何でもシオンを助けるって衝動のままに突っ走ってやるぜ。


「――待ってろよシオン!」


 お前はきっと無事だろ?

 だからすぐに俺が――


「――エイド君!」


 ハッと目を向けた、声のした方に。


「見つけたクソガキ!」


 オーラル兄が喜んだ声を出し、俺の目は奇跡を映す。


「シオン! 心配させるなよお前!」

「運良く寸での所で回避できたんだ。ランタンは壊れちゃったけど。あとちょっと気も失っていたみたい。あっそれよりも攻撃が来るよ!」


 瘴気攻撃を相殺された土龍が猛り狂ったように次なる瘴気の渦を吐き出そうとしていた。

 俺は当然として、このままじゃ二人も瘴気の受毒範囲内だ。

 この一撃だけなら俺が浄化魔法を使えばいい。

 でもその次は? そのまた次は?

 次の次の次の次……って浄化しても、最終的には?

 もう肝を潰すような思いは沢山だ。


 俺がここにいるからいけない。


 龍がここに居るからいけない。


 最初から無茶を承知で敢行すべきだった。

 暴れても被害の出ないような場所に行くべきだった。

 既に俺が浄化し切れなかった瘴気の影響と土龍の大暴れのせいで、ここから見る限りの森一帯はボロボロだ。


「シオン、お前が無事で良かった! あとはこっちで何とかする! オーラルさんも村を宜しくな!」

「エイド君……!?」

「アニキ!?」


 視線は敵に固定してシオンたちを見ないまま、瘴気を吐かれる前にと魔法を発動させた。


 俺とそいつだけを空間転移させる魔法を。


 質量が多いとその分魔力の負担も比例して増大するから避けていたんだけど、故郷を護るには仕方がない。万能薬はまだちょっとあるしな。


「待ってよエイド君っ!」


 何かを察したのか、シオンが目を見開きこっちに手を伸ばす様が残像として見えた。


 じゃあな、親友。


 無事生還したら今度はちゃんと遊んでやるからさ。

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