第11話 見ましたね?
午前中、唐突に一人になる時間ができる。
雪乃が昼ごはん用の卵を切らしたそうで買いに行ってくると言ってきた。
今日が休みとあって、昨日は雪乃とほぼ徹夜でゲームをした。
勝敗は勝ったり負けたりでペナルティもうやむやになった、はずである…
ゲームでテンションが上がったせいか、久々の徹夜で気持ちが昂ったせいかはわからないが俺は結構楽しんでいた。
雪乃が上機嫌でいてくれたことで二人でイチャイチャもした。
しかしだ、浅い眠りから少し目覚めた明け方に俺は寝ぼけ眼で見てしまったのだ。
雪乃が机に向かい雪乃がノートに何かを書き出しているのを…
もちろん寝たふりをして薄目でそれを見ていたが、ノートに向かう雪乃の顔は笑っていなかった。
早朝でテンションが低いとかそういう感じではない。
取り憑かれたような彼女はブツブツと何かを呟いていたが、それは聞こえなかった。
その後彼女が布団に戻ってきたので、俺も寝たふりを続けていると二度寝をしてしまい、少し遅めに目覚めて今に至るのだ。
「じゃあせんぱい、すぐ戻りますね♪」
「一人でいいのか?」
「あれー、私がいないと寂しいですか?ふふ、せんぱいは甘えん坊さんですね♪」
いや、寂しいというより裏がありそうで怖いんだ…
帰った途端に火をつけられたりしないか、とかそんなことを疑ってしまうのは流石に雪乃に失礼か…
雪乃が出て行って、部屋で一人取り残された俺は雪乃のノートが無性に気になってしまった…
あれは確か…雪乃のかばんにあったはず。
いや、勝手に人の荷物を物色するなんてよくないよな…
でも…もし雪乃が間違った方向に行ってたら俺が止めないと…
迷っている間に刻一刻と時間が過ぎて行く…
雪乃がいないなんて好機はそうそうない…
俺は心の中で雪乃に謝りながら鞄を開けた。
そして教科書や授業ノートの中から一冊の白いノートを見つけた。
タイトルはやはり復讐リスト…
結構使い古されている印象があるが、一体この中に誰の名前が何のために書かれているのか。
1ページ目を捲ると、そこにはぎっしりと文字が敷き詰められていた…
せんぱい大好き♥という文字がページいっぱいに書かれていて、最後の方に「二組の有藤さんはせんぱいに色目を使う。殺す」と書かれていた…
有藤さんは確か中学の同級生だ。
雪乃のやつ、こんなものを中学の時から書いていたのか…
そして次のページを捲るとまた同じようにせんぱい大好き♥と書かれまくったあと、最後に同級生の名前に殺すという文言が添えられていた。
それからどのページをめくっても同じような内容が続いていた…
そして一番新しいページを見ると、その最後には「せんぱいの連絡先を聞いてきた女全員私の敵。すぐ殺す」と書いていた…
それを見て俺は体の芯から冷え切っていた…
その時だった。
「せんぱい、なにしてるんですかー?」
俺は震えながらそのノートを食い入るように見ていた。
だから背後から雪乃が声をかけてくるまでその存在に気がつかなかった。
とっさにノートをかばんにもどした。これを見ていたことがバレたら殺される…いや俺は死なないからノートに書かれた女の子が死ぬ…
「ゆ、雪乃!?早かったな…」
「ええ、だって一秒でもせんぱいと離れていると死んじゃいそうなんですもん♪」
「お、俺もだよ雪乃…それよりお昼はオムライスでも作るのか?」
「あ、さすがせんぱいビンゴです!せんぱいの大好きなふわとろオムライスにしますね♪」
「や、やったー…楽しみだなー。あははは…」
よかった、バレてない…
「それで、さっきせんぱいはなにしてたんですか?」
「え、いやちょっと片付けを…」
「へー、私の荷物も片付けてくれてたんですか?」
「ゆ、雪乃の荷物なんて触ってないよ…」
「そうですか」
「そ、そうそう…」
汗がやばい…
でも悟られたら終わりだ…
しかし雪乃は誤魔化せたようだ。
「早速作りましょうか♪晩ご飯はすき焼きにしましょうね♥」
雪乃はキスをしてきてからエプロンをつけて料理を始めた。
適当にゲームでもしててくださいと言われたのでお言葉に甘えるように一人でマ○オをやっていると、雪乃の包丁の音が大きくなって行く気がした…
「ねぇせんぱい、私に嘘ついてませんよね?」
「は?嘘なんてつくわけないだろ…」
「へぇ、でもせんぱいって隠し事があると口元がピクッとするんですよねー」
「そ、そんな癖あるの俺って…」
やっぱり疑われてる。
でも認めるわけにはいかない…
「と、とにかく雪乃に嘘をつくなんてありえないよ…」
「そうですよね♪私ったら何言ってるんだろ、ふふ」
「は、はは…」
セーフ…
生き残ったよ…
「あ、でもね…もし嘘ついてたら…その原因になった女の子はどんな手段を使ってでも粛清しますね。あとせんぱいも」
「だ、大丈夫だよそんなことにはならないよ…」
もう雪乃があのノートに追記することがないように頑張らないと…
「さ、できましたよ♪」
ケチャップでハートマークが描かれその中に「大好き」と書かれていた。
意外とこういうことをされると男って嬉しいんだよな…
「いただきます、うんおいしい!」
「よかったー、せんぱいが喜んでくれたら私空でも飛べそうです♪」
「俺も雪乃がいつも頑張ってくれるから嬉しいよ!」
「やん♪私幸せ♥」
そこから一般的には幸せであろう彼女とのまったりな時間が流れた。
ヒステリックが起きない雪乃は本当に可愛いただの女の子だ。
ずっとこんな時間が続くのならば悪くないと思っていた。
そして夜のすき焼きを食べ終えてゆっくりしていると雪乃に誰かから電話が来た。
「もしもしマッキー、どうしたの?うん、いいよ♪それじゃまた明日ね!」
「須藤さんからか?雪乃に電話なんて珍しいな」
「うん、明日みんなでダーツしに行こうって。せんぱいも誘いたいから連絡しといてだってー、律儀だねマッキーは」
高校生だから遊びの誘いくらい普通なのだが、俺からすれば幸せな時間を切り裂く悪魔の贈り物であった。
早くその話題を終わらさないといけないが…
「ダーツかぁ、俺力加減上手くやれるかな…」
「私はせんぱいが女の子たちと上手くやりそうで心配だなぁ」
「な、なんでそうなるんだよ…」
「だってー、心配なんでしょ?ノートに書かれた女の子たちのことが」
「ノ、ノート!?な、なんのことか…」
「私がわざわざ一人で出掛けたか、わかりますか?」
「え、それは…」
「試したんですよ?せんぱいが一人の時にどうしてるか確認したかったのですが、やっぱりボロがでましたね?ノート見てましたよね?」
「い、いや…それは…」
バレている…
いや、もしかしたらかまをかけているだけかもしれない、というか雪乃はそういうことをよくする…
だから安易に認めてはいけない…粘れ…
「し、知らないよ…俺は雪乃を疑ったりしないよ!」
「信じられないなー、信じたいんですけどねー」
「し、信じてもらえるように頑張るから…明日も雪乃に心配かけないから、本当だって…」
「本当に?」
「ほ、本当だ!誓う!」
「うーん、わかりました♪せんぱいの真剣なお顔がカッコいいから見惚れちゃいました♪」
「ほっ…」
よかった…死ぬかと思った。死なないけど…
「明日から学校ですし、今日は寝ましょうせんぱい♥」
「うん、そうしよう…」
機嫌を損なわないうちにと二人で布団の中に入った。
俺の肩に寄り添って甘える雪乃は、布団に入るといつもすぐにウトウトしだす。
今もすでに目がトロンとしている。
もうすこしで今日という日が終わる。
そして寝ぼけ眼で俺を見る雪乃は、半分寝言のように囁いた。
「ダーツって、事故に見せかけて失明させるのにうってつけの遊びですよね…ふふふ」
そう言い残して雪乃は寝た。
愛らしい寝顔を俺の方へ向けている。
スースーと聞こえる寝息はとてもくすぐったい。
明日もこの寝顔をここで見れますように。
いや、まずは何も起こらない平穏な朝を迎えられますように。
そうしてやがて眠りにつきまた朝がくる。
再び学校で波乱が待つとも知らず…
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