名探偵「脳(ブレイン)」と異世界の犯人探し

半社会人

1.予期せぬ転生と、名探偵「脳(ブレイン)」との出会い


 僕は見知らぬ地面を枕に目を覚ましていた。

 上を見上げれば、雲一つない澄み切った青い天蓋がそこにあった。

 時折吹く風は爽やかで、肌を心地よく通り過ぎていく。

 

 「ここは……?」

 考えようとして、自分に記憶がないことに気が付いた。

 何か、すごく痛い思いをした気はするのだが……

 

 (目が覚めたのかね) 

 「う、うわあ!!」

 びっくりした僕は両手を後ろについて、半身だけ体を起こした。

 そして、隣に置かれている、異様な物体に気が付いた。

 「脳みそ」だった。


 動物の神経の中枢である、頭部に備わっている「それ」だ。

 ほとんど人間の精神と同一視されている「それ」だ。


 その「脳みそ」が、元気よい雑草の成長を邪魔して、物々しく鎮座していた。


 いや、正確に言うと、僕の目の前で当然のように存在しているその「脳みそ」は、医学的、解剖学的な器官としての生々しい「脳みそ」そのままの姿ではなく、どちらかというと幼児が思い浮かべるイラストとしての姿でそこにあった。

 草の上に裸のまま放置されているのではなく、SFでよく見る培養液に満ちた簡易なカプセルの中で漂うでもなく現前している。

 

 いったい、これはなんなんだ……?

 そう思っていぶかしげに「脳みそ」を見つめていたところ……


 (『脳みそ』だよ、無論)


 「わあっ!?」


 いきなり(僕の)脳内に響いてきた声に反応して、思わず驚愕の声が出た。

 しかしその不思議な声が僕の様子に構わず続けて

 

 (『脳みそ』がしゃべったら不思議かね?)

 「……まさか、お前が?」


 僕がおそるおそる目前の「脳みそ」を睨みながら言うと

 (そのとおり。もっとも、私はこのとおり口も喉もないから、正確にはしゃべるというよりも、君の頭に直接語り掛けているわけだが)

 「それって、テレパシーじゃ……」

 (そういう類の能力には違いないだろうね。)

 

 僕の驚きに比して恐ろしいほど冷静にその「脳みそ」は話す。

 僕はうろたえて

 「いや、そんな、そもそもお前は何者で……っていうか、僕は何者で……なにか、ひどい痛い思いをした気はするけど」

 (……混乱しているな。実を言うと私も自身がこんな姿で「転生」を果たしたことにひどく驚いている。しかし、まあ、まったく予想をしていなかったわけではない)

 「転生……?お前、何を言って……?」

 (まあ、それについてはおいおい説明しよう。それより、まずは私をどこか落ち着けるところまで運んでくれないか。私は見てのとおり手足がないので、自分で動くということがままならんのだ。)

 「それはいいけど……って、いうか、お前はそもそも

 

 僕の当然の疑問に、「脳みそ」はひどく慣れた口ぶりで

 (ふむ。私が何者か、か。残念ながら元の名前はとうに忘れており、また、この姿になるのは初めてのことなので、自らもどう名乗るべきか思案するところではあるが……)


 そういって「脳みそ」はしばらく悩んだ後。

 

(では、とりあえず、名探偵、ブレインとでも呼んでくれたまえ)


 淡々と(と思えるテレパシーの様子で)、そう言ったのだった。



 


 

 

 

  

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