霧雨の降る街で

水村ヨクト

第1話 幼き愛花の

 これは記憶だ。曖昧で、霧のかかったような、不確かな記憶。


 記憶の主は愛花あいかと呼ばれた。


 ――若い女性の声。




「■■もしも■■■え? ■■」




 声にノイズが掛かっている。




「■■そんな■■■■愛■■■」




 顔が冷たい。雨だ。だが、雨とは別の水の音も聞こえる気がする。


 愛花は女性を見上げた。




「■■■■■うちの■■■は天パ■■身長は■■■■」




 携帯電話を耳に当て、乱暴に髪をかき上げる。その動作が印象的だ。




「■■分かっ■ますよね■■■」




 急に声に元気がなくなった。




「愛■■■家に■って■■■■■■引いちゃう」




 愛花は女性の声に促され、家に入った。




「■■■■■■■■■愛■」




 後ろで女性のすすり泣く声が聞こえる。




「お母さん」




 愛花自身の声。


 ここで記憶は途切れている。

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