チートを得た少年がチートを失う話
仲仁へび(旧:離久)
第1話
神様がそういった。
『あなたを転生させてあげましょう』
一度死んでしまったけれど神様にチートをもらったから、ラッキーだった。
次の俺の人生は、きっと良いものになる。
転生を果たした俺は、実際その通りだった。
子供の頃から、多くの人に注目されて、様々な人に一目おかれてきた。
(きっと俺が願うなら神にだってなれるだろう)
転生するにあたって神様から与えられたこの即死のチート能力があれば、何だってできる。
どんな奴だって俺の敵じゃない。それは、王様や勇者ですらだ。
俺は、小さな頃から魔力の特訓をしてきたから、強大な魔力を有してるし、剣の練習も欠かさず行ってきたから、国一番の剣士になった。
この世界の魔法は、どれだけ使用したかがカギになる。
使えば使うほど熟練度が上がって、威力も上昇するのだ。
だから、赤ちゃんの頃から確かな意思があった俺は、大魔導士にまで上り詰めるまでになった。
剣技も同じく。
同じ技を何度使用したかによって、熟練度が上がって、威力も上昇していく。
もはや、この世界で俺に逆らえる人間はいないだろう。
俺は、幼馴染や友人を見つめる。
王座に座った俺を、彼女達はじっと見つめていた。
そのまなざしには、崇拝の感情がやどっていた。
彼女達は、俺が助けて、手を貸してきた者達だ。
お金が無くて奴隷にされそうだった所を、モンスターに襲われて死にそうだったところを救ってきた。
彼女達はそんな力強い俺に惹かれて、それからずっとついてきている。
これからもこのチートで、彼女達の思いに応えなければ。
そう思っていた俺は、突然の違和感を感じた。
今まで体の中にあった強大なチートの力が、徐々に消えていくところだったのだ。
一体何事か。
うろたえる俺は、見た。
王座の間に入ってくるくせ者の姿を。
こんな時に限って。
だが
焦る必要はない。
頼もしい仲間達がいるのだから。
彼女達は、口々に「俺のために」と叫びながらくせ者へ立ち向かっていく。
しかし。
くせ者は強かった。
立ちふさがった彼女達を次々と倒して俺の所へやってくる。
俺は、王座の間から逃げ出した。
背後から、倒れた誰かがすがる声が聞こえてきたが。耳をふさいで聞かなかった事にした。
おいつめられた俺は、「なぜおまえが、その力を持っている!」と言った。
俺を見据えるくせ者は、俺が持っていた「即死チート」の力を持っていた。
内包している魔力の質が俺とまったく同じだった。
薄く笑う、そいつは言った。
「利用された事も気が付かなかっただなんて馬鹿だな」と。
残酷な言葉が続く。
「チートにも熟練度ってのがあってな」
嘘だ。
「どうでも良い転生者に熟練度を上げさせて、それから本命の転生者に渡すってもくろみなのさ」
神様は、そんなこと言ってなかった。
チートにもそんな仕組みがあったなんて。
聞いてない。
「つつましく生きていれば、もしくはチートなんかに頼らず努力していれば。これからも普通に生きていけただろうにな」
やめてくれ、力を奪わないでくれ。
即死チートがなくなってしまったら、敵が多い俺はどうなるんだ。
魔法も剣の腕も、ただ練習してきただけなんだよ。
見栄えしかよくないんだよ。
だって、即死があるじゃん。
チートが使えるじゃん。
努力して頑張ったって、何の役に立たないじゃん。
だから、俺自身の力だけで、命のやりとりをする技量なんて、ないんだよ。
「文句は過去の自分に言うんだな」
体の中の力が消えていく。
「あああっ」
俺は、力を完全に奪われて膝をついた。
そこに、これまでにふみじにってきた連中が押し寄せる。
死が押し寄せてきた。
俺には当然、なすすべなどなかった。
チートを得た少年がチートを失う話 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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