第26話 サーターアンダギー

誰かの為の絵。

そして.....俺の為の絵。

その事で.....この世界は成り立っている事を知った。

それらを込めて.....祈りを捧げる様に描こう。


その様に思いながら絵の具で俺は真剣に絵を描いていく。

何だか知らないが.....全く疲れない。

氷の上に筆を滑らせる感じでキャンバスに描いていく。

こんなに疲れないのも久々だな、って思う。


筆を上手く動かしながら気持ちを込めて下書きをしてから描いていく。

それから俺は顔を上げて坂田さん。

つまり先程のお爺さんに向く。

笑みを浮かべながら俺は見つめ、出来ました、と話した。


愛花は柔和な顔をしている。

特に驚きもしない感じで、だ。

何故かといえば俺が描いているものが途中で気が付いた様だったから。


見せず今まで秘密にしていた絵の完成形を坂田さんに見せる。

そして細目だった目を大きく開く様に坂田さんは驚いた。

それから涙を浮かべる。


「.....道春君。まさかこれは私か?」


「.....はい。坂田さんを描いてみました」


「.....戻って来たね。君は」


「.....まだ道半ばです。本当に」


風景と共に。

坂田さんを丁寧に描いてみた絵を見せた。

半ば力を出し切れてないが。


それでも.....ここまで描けて満足だった。

坂田さんの気に入ったものに仕上がっているかは分からない。

だけど.....力が出し切れた。


全身のチャクラを使い切った感じだな。

本当に気分爽快だ。

まるで.....要らないものを全部外に出せたぐらいに。


「.....この絵はいくらで買ったら良いかな。是非ともに買いたい」


「.....要らないですよ。.....俺が描きたかっただけですから。だから描いたんです。値段なんて付けられません。無理を言ってすいませんでした」


「.....じゃあせめてもの。.....うちの食材を持って行ってくれ。私が満足しないから」


「.....じゃあお言葉に甘えます」


愛花もつられて涙を流していた。

ハンカチで涙を次々に.....まるで水道の様に出る涙を拭っている。

俺はその姿を見ながら俺は頬を掻く。


そしてはにかんだ。

喜んでもらえて本当に嬉しい感じだ。

明るい気分で.....太陽に照らされる様な感じだ。

するといきなり坂田さんが移動し始める。

それから腰に手を当てた。


「私のお菓子を食べていってほしい。サーターアンダギーなんだが。私は沖縄出身でね」


「え?でも.....」


「.....絵のお礼だよ。そして.....君への活力を沸かせる為だ」


「.....じゃあお言葉に甘えようか。愛花」


「ですね。道春さん」


愛花は俺に本当に優しい風を吹かせる様な笑顔を見せる。

坂田さんはその事にニコニコして頷きながら腕まくりをし始める。

それから.....サーターアンダギーを作り始めた。

俺はその様子を見ながら愛花をもう一度見つめる。

愛花は俺の腕を見ていた。


「.....やっぱり良い腕になりましたね。顔も吹っ切れて良い顔になりました」


「.....そうかな。俺ってそんな顔していた?壁が有る様な」


「はい。そうですね。その通りです」


「.....そうか。吹っ切れたのはお前のお陰も有るしな。有難う」


「.....栗葉さんにも優しくして下さいね。その調子で」


ニヤニヤしながら愛花は俺の脇腹を小突く。

オイオイ。栗葉を出すのは反則だろ。

その様に言いながら俺は苦笑いを浮かべる。

それから.....愛花に柔和になる俺。

本当に幸せな感じだ。


「.....全くな」


「クスクス」


「.....でも本当に有難う。愛花」


「はい。道春さん」


「.....それじゃあサーターアンダギーが出来るのを待とうか」


ですね、と俺と柔和な愛花は椅子に腰掛けた。

それから.....坂田さんを静かに待つ。

坂田さんがやって来たのはそれから15分ぐらい経った後だった。


美味しそうなサーターアンダギーを坂田さんは皿に大量に盛っている。

それがどれだけかと言えば簡単に言ってしまうと山盛り。

唐揚げの様な感じで盛っていた。

大家族が唐揚げを大量に食べる様なそれぐらい。


「.....さ、坂田さん。作り過ぎじゃ」


「良いんだ。食べれなかったら持って行って。全部持って行って」


「.....でも.....」


「.....私は活力を付けるとは言った。だけどそれ以外にもある」


と坂田さんは少しだけ.....悲しげな顔をした。

それから顔を上げる。

そして意を決する様な。

何かを決意した様に俺達に向いてきた。

そして話す。


「マイコプラズマ肺炎って知っているかな」


「.....え?初耳です.....」


「そうか。.....実はね。肺炎なんだけど.....病弱な息子がそれに罹って亡くなってしまってね。寂しい思いをしていたんだ」


「それは.....」


そうなのか.....。

俺は少しだけ複雑な顔をする。

すると坂田さんはこの様に話した。


実はその時に。

落ち込んでいた時に現れたのが君だったんだ。

道春君と君の絵だ。

それは孫の様にとても輝いて見えてね。


そして私はそれらの理由もあって水墨画を描き始めたんだ。

ここまで話す予定は無かったけどね、と少しだけ寂しい感じで頬を掻く。

俺はその姿に胸を打たれた。

愛花が、坂田さん.....、と涙を浮かべる。

だが坂田さんは直ぐに切り返す様に俺を見てくる。


「.....でも私はもう大丈夫。君の絵が.....私を励ましたから。だから次は君だ。君が.....自分の絵に自信を持つべきだ」


「.....貴方は強いですね。坂田さん」


「.....ですね。道春さん」


「サーターアンダギーは息子が好きだったものだ。.....さて。しんみりした話をしても仕方が無い。食べようじゃないか」


手を大きく広げて抱き締める様な恰好をする坂田さん。

ニコニコになって俺達を見ながら、だ。

その顔は本当に明るい感じだった。

こんなにも切り返して明るく照らす事が出来るんだなこの人は。

息子さんの姿が見えた気がした。


「.....ほろほろして美味しいです」


「確かにです。道春さん」


「.....そうかい。良かった」


笑顔を見せる坂田さん。

坂田さんの家ではそんな感じで2~3個ぐらい食べてから魚の干物とかの大量のお土産を貰ってしまった。


良いのだろうか、こんなに貰ってしまって.....と思うぐらいに、だ。

俺達は顔を見合わせながら.....少しだけ困惑。

でも坂田さんは終始、持って行って、ばかりだったから有難く頂く事にした。

こんなに人を救えるんだなって思った気持ちを貰ったのに何だか申し訳ない気持ちだなって思ってしまう。

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