エルフの水 その海いずこもつなぐ
王立魔法学院書記官
前編: アオイの渡し
水平線の夕焼けが、ふたりをたそがれ色に
暗い砂浜に、
彼女の名はアオイ。
森に住まう古代エルフと、古代の王との間に生まれた、
アオイは、うしろの影にふり返る。
「なに?」
と、彼女は彼を
赤く
彼は、意外な答えに
「
アオイの胸の
いつぶりか思い出せないほど、久しぶりに、人の気持ちを受け入れる。
彼女は今、告白される。
◇
その浜辺に、ひとりの老人がたどり
いつも通り彼女は
「ようこそ
あなたは
しかし、老人は首を横にふる。
「乗れません。こんなはずでは……。私は、この世で思ったことを何一つできなかった」
「あなたは……『
それには答えず老人は、海岸の
たまにそういう者がいるとはいえ、アオイは
見ると、老人は
あれでは、あの地とこの世のはざまにあるこの
その夜。
「『
風をへだて、穴の中はほんのり
奥で眠る、老人のかすかな
だが
「私は反対だ。
アオイはうつむき、つやのある
年々、仲間の数が減ることを
「私も、残り200年もいないだろう。船は作り置くが、同族に手伝いを求めてはどうか?
なにも
「そうではないの。手伝いが欲しいわけじゃない。
私……私には弟がいるから」
そう聞いて、シンバは
「アカネのことか? 彼はあなたとは
自由気ままだ」
アオイは、船大工が弟を
そもそもシンバは
アオイがつながる海は今も広がり、いつでも月を追うことができる。
さみしいはずがない。
彼女はただ、あの老人に少しだけ
人恋しい思いなど、はるか昔のことだ。
そう彼女は考えていた。このときは。
◇
さいはての海に、
アオイは
「ようこそ。今からこの船で、
あなたは
老婆は遠い目を、おだやかな海へ向ける。
「なに思うって、そうね……。
わたし、ひとにふれたことがほとんどなくって。
親は早くに死んだし、生きるために働くばかりで
老婆の細い肩が
アオイは目を落とし、つぶやいた。
「あなたは……『
はっと老婆が泣き顔をあげる。
とその時、初老の男が前に出た。
「ならば私が
できる
そう言うと、男は老婆へゆっくりと指をのばす。
二人は、おそるおそる指先を
二人は
老婆の
「そう。このぬくもり。あぁ……お母さん」
二人を見るアオイの髪が、日に
彼女は不思議に思う。
かつて、乗船を拒否した男は若返り、
ときには、彼女より
ふとつとめを思い出し、彼女は語った。
「
ゆっくり
そう
◇
さらに
さいはての海に、女がたどり
アオイは
「この船で、
あなたは
女が口をはさむ。
「どうもこうもないよ。
このまま終われない!」
アオイが、静かなまなざしでささやく。
「あなたは、『す……」
アオイが言葉につまると、壮年に若返ったかつての老人、エリバーが彼女を見つめた。
アオイは声を
「あなたは……『
しかし、エリバーにはわからない。彼は、女にたずねる。
「どうされたのですか?」
「……
「それは……いったい
問い
しかし女は、まっすぐふたりを見返すと、言った。
「わたしの母よ」
その横顔を、壮年エリバーは深いまなざしで、いつまでも見つめていた。
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