第11巻 オープンしました!
王都でマンガの普及活動を行なって数日後の朝、いよいよマンガ喫茶の開店日がやってきた。
実はあれから王都や港町で人を雇い、紙を配って宣伝したりもしたんだよ。僕自身もアザレアで必死にビラ配りをして、とにかく店を認知してもらうように努力したつもり。冒険者をやっていた時の貯金が減っていくけど仕方ない。
それと求人募集でやってきた店員さんもいる。キリッとした真面目そうな少年で、カバーという名前だ。
「店長! いよいよっすね」
ピシっと直立不動の姿勢になってるカバー君に、僕は苦笑いしてしまう。
「ああ、僕はリーベルでいいよ。お客さん沢山入るといいなぁ」
「きっと大丈夫! リーベルは一生懸命準備したんだから、絶対繁盛するよ」
シオリがグッと両手を胸の前で握りしめて僕を励ましてくれた。そうそう、実は制服ってほどじゃないんだけど共通でエプロンを着てもらうようにした。なんか喫茶店っぽくしたほうがいいかもって考え、とりあえず僕ら男子は青っぽいエプロンで、シオリには薄ピンクのエプロンを着てもらっている。
「シオリにも手伝ってもらったからね、ここは絶対に成功しないと! そのエプロン似合ってるよ」
「え? えへへへ」
あれ? なんかニコニコしたまま固まっちゃった。大丈夫かなぁ、なんか心配になってきちゃったぞ。
とはいえ、もう開店の時間が目前だ。とりあえずシオリはカウンター前で待機してもらって、僕とカバーは店の入り口に向かった。
するとびっくり、思ったより長い列でお客さんが並んでる。
「リーベルさん。やばいっすよ! いきなり行列です」
「う、うん。思っていたより凄いな」
ガラガラか、もしくは一人二人くらいしかいないんじゃないかっていう予想は大外れで、みんな今か今かと開店を待っている様子だった。そういえば先日王都で宣伝した時、マンガを読んだ中に何人か著名人がいたらしく、色々と宣伝してくれたらしい。本当にラッキーだ。
「ああ、冒険王の続きが読みてえよお」
「あの悪役令嬢の話が読みたくてきたのよね」
「シオリちゃんが見れる……はあはあ」
一人やばいのがいないか!? 僕の気のせいならいいけど。しかし気にしている余裕もない、いよいよ開店の時間になった。僕はカバーと一緒に扉を開き、いつになく覇気を込めて宣言する。
「いらっしゃいませー! マンガ喫茶オープンしましたぁっ!」
これからの人生で、二度と出すことはないかもしれないくらい声量で、僕は強く強く叫んだ。でも、それを聞いたかどうかも解らないくらいの勢いで、お客さんが雪崩れ込んできた。
「おわあああ?!」
「り、リーベルさぁん! なんかヤバイっす」
「落ち着けカバー! とにかくカウンターのお手伝いを頼む!」
「は、はいー」
これは想像の斜め上の激しさだ。僕としてはもっとおっとりした営業スタイルを想像していたんだけど、スタートダッシュがここまで猛烈なものとは知らなかった。喫茶店ってみんなこうなのかな?
ガラガラになっちゃうかもと心配していた店内は、もう人で埋め尽くされちゃってる。一応席を最初に指定する形なんだけど、ほぼほぼ満席になっちゃったから入れないお客さんも出てきちゃったくらいなんだ。
「まさかこんなにお客さんが入っちゃうなんて、ビックリだなぁ」
「リーベルが頑張ったからだね」
と、カウンターにいるシオリは微笑む。なんだか照れくさい。でも、ちょっとだけ余裕のある空気感が吹っ飛んじゃうくらい、何人もお客さんがやってくる。
「すんません、お菓子ありますか?」
「オレンジジュース一つ」
「カレーライス下さい」
うおう。そうそう、喫茶店だからいろいろ飲み食いできるわけで、メニューにあるものを片っ端から頼まれてしまうわけだ。
「よし、ではここは僕が料理を、」
「あ! 大丈夫っ。私がやったほうがいいと思うの」
「そうかな? じゃあカバー。カウンターお願い!」
「了解っす!」
なんか必死に止められたような感じだったけど気のせいかな。でもシオリは料理や飲み物作りのプロだから、確かに彼女に任せたほうが良さそうだ。
いやー、それにしてもかなり混んできた。僕はお客さんにマンガ喫茶のシステムの説明や質問の受け答え、カウンター補助やシオリのサポートなどをやっていた。
あっという間に三時間が経った頃だろうか。
「トマトソースのパスタ下さい」
「ピザないの?」
「苺のパフェが食べたいです」
「もう一回カレーライス下さい」
うへえええ! 注文が殺到しちゃってるよ。時間単位でお金が発生する仕組みなので、僕らとしては嬉しいことだが、流石に厨房にいるシオリが間に合わなくなってきてる。
「リーベルさん。このままじゃ間に合わなくなってきますよ」
「ごめんなさい! 急いでいるんだけど」
カバーもシオリも焦りが出てきてるのが解る。僕としてもこの状況はなんとかしなくてはと頭を悩ませる。
「よし! 僕もシオリと料理を」
「あ……それはしなくて大丈夫!」
「なんか僕避けられてない!? とはいえ、もう少し店員がいなくちゃどうにもならないな……店員、店員。ん?」
ふと上を向くと、頭を掻きつつ悩む僕の周りをぱんたが飛び回っていた。
「キュー。キュ」
「いいよなぁぱんたは呑気で。こういう時は魔物が羨ましくなるね。……ん!?」
魔物という言葉が口から出て、僕は一つの方法を思いついた。すぐに人がいない空いているスペースに駆け出し、両手の平を床に向けながら詠唱を始める。杖を持ってきてなかったから、ちょっとばかり時間が掛かってしまうが仕方ない。
「リーベルさん、何してるんすか!?」
カウンターから聞こえてくる声に応えるより先に、僕は魔法を発動させた。青い魔法陣がぼんやりと浮かび上がり、そこに一つの影が浮かび上がる。やがてそれは実体化を果たし、こちらを見上げた。
「ギ、ギギギ!」
緑色の小さな体に棍棒を持っている。冒険者なら知らない者はいないとまで言われるゴブリンだ。呼び出された魔物達はみんな召喚士の言葉を理解することができる。
「よし! その棍棒は今はいらない。まずはこれを着てくれ」
「ギ?」
不思議そうに首を傾げつつも、彼は我々のユニフォームであるエプロンに腕を通した。女子用のピンク色だが我慢してくれ。
「シオリー。できた料理は彼に渡してくれ」
「はー……い!? ね、ねえリーベル。もしかしてゴブリン!?」
「うん。でも大丈夫! 僕が召喚した魔物は人を襲わないんだ。とにかくお客さんにも説明するから。じゃあ君、これをあのお客さんまで持っていくんだ!」
「ギ? ギ!?」
ぱっと見で混乱していることが解るゴブリンにカレーライスが入った皿を渡す。すると戸惑いつつもなんとか運びに行き、やっぱり予想どおりお客さんにビックリされてしまう。
「あ、その子も店員なんで大丈夫です!」
大丈夫なわけあるか! みたいなツッコミが来そうだが気にしない。まだまだ人手は足りない。僕はとにかく魔物を沢山召喚することにした。
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