スキル【マンガ喫茶】が役立たずと追放された召喚士 〜でも地元で開店したらいつの間にか大繁盛最強要塞(?)になっちゃった。戻ってこいと言われてもお店が儲かってるから無理!〜
コータ
第1巻 夜の酒場で
ここは冒険者の聖地といわれるクレアーテの町。
勇者パーティに在籍している僕は無事依頼が終わったことに安堵していたんだけど、もう一つ大きなミッションが加わってしまった。
長時間の荷物持ちで痛む体に鞭を打ち、酒場での会食に付き合うことになってしまったんだ。依頼の報酬も貰ってないし、まあ愛想よくしていれば問題ないだろう、なんて軽い気持ちで考えていたんだけど。
「この………役立たずめがぁっ!」
考えが甘かった。
パーティメンバーの一人、賢者ビエントに正面から怒鳴られて背筋がピーンと伸び上がってしまう。
「何だよ突然……」
苛立ちからか、対面にいるビエントは酒を飲むペースが早く既に顔は真っ赤だ。長い紫髪と黒いローブはどことなく神秘的な感じがするが、今はただの酔っ払いにしか見えない。
「リーベル! アーンタが無能だからビエントは怒ってんでしょーが。今日だって召喚したのゴブリンとかスケルトンとか、そんなんばっかじゃん。ドラゴンとか召喚しなさいよ百匹くらいさあ!」
ビエントの隣で無茶苦茶なセリフを吐いてきたのは、女盗賊のシー。ポニーテールの緑髪が美しいエルフだが、とにかく口が悪い。そして彼女も今まさに酒瓶を三本も開けたところだった。
「ごめん。何とか中級のモンスターくらいは召喚できるように努力してるんだけど、これがなかなか……」
冒険者になって四年目、僕の職業は召喚士だ。その名のとおりモンスターを召喚して戦わせることがメインであり、どちらかといえば後衛職に該当している。でも、最近では前線で攻撃をすることもあるんだよね。何でそんなことをしているのかといえば、僕が召喚できるモンスターが極端に弱いから。
「貴様は今日、ゴブリンを六体も召喚していたな。全く無意味にも程がある。私が魔法を使用する際にも邪魔だったのだぞ。解っているのか!?」
「ごめん。次からはもっとちゃんと、」
「次からはではない! もううんざりだ。何度同じことを言わせる? 貴様は召喚士としても、勇者の兄としても不充分であり無能だ!」
酷い……。そこまで言わなくてもいいじゃないか。あんまりだ。
実はパーティの中心である勇者ヒナは僕の妹である。そして彼女は今ここにはいない。
どうしてかと言うと、新しい能力を獲得するため、進化の神殿と呼ばれる施設に潜っているからだ。神殿には一人で挑まなくてはいけないし、どんなに早く終わったとしてもあと二日くらいはかかるだろう。
「リーベルよ。私が貴様を責めているのは、何も召喚士としての実力だけではないぞ」
「え? 他に何かあるの……」
もうやめてくれ。僕の精神は既にズタズタなのに。
「わかんないのー? アーンタがいるから、ヒナがいつまで経っても成長できないんじゃん。足枷ってこーとっ!」
「は?」
僕は口をぽかんと開けて、ニマニマ笑っているエルフを見つめていた。
「そうだ。貴様が勇者を甘やかしてばかりいるから、いつまで経っても成長が見られん。おかげで魔王討伐どころか、この大陸にずっと長居している羽目になっている」
「ホントーならあたし達、今頃旅費をガッチリ稼いで未知の世界に駆り出していたのにさー。アンタ本当に、どうして妹にそんな甘いわけ?」
確かに、ヒナがあまり成長していないように見えるという意見は間違ってない。アイツはそもそも甘えん坊でグータラでわがままだ。しかし、僕が甘やかしているというのは間違いだと思う。
いつだって、駄目だと思ったら注意もしたし、むしろ厳しく接してきたつもりなんだけれど。
「僕は別に妹を甘やかしているわけじゃない。それにアイツは成長しているよ。ちょっとマイペースなところは認めるけど」
……と意見を述べたのも束の間、ビエントがカッと目を見開いた。嫌な予感がするより早くテーブルを思いきり拳で叩きつけて、
「やかましい! 貴様は自分がどれほどパーティにとってマイナスな存在であるかが解っていないようだな! ならばもう容赦はせぬ!」
って怒鳴り声を上げてしまったんだ。
「貴様を何よりも役立たずたらしめている一番の理由は、そのオリジナルスキルにあるのだ」
「……う」
痛いところを突かれちゃった。忌々しい単語が出てきて、もうこちらとしては両手を上げて降参したいくらいだ。
オリジナルスキルっていうのは、その人だけが使えるたった一つだけ与えられるスキルのことで、成人である十六歳になった時、儀式を行うことで授かることができるというもの。
このスキル次第で、どんなに腕っぷしが弱くても上級パーティに加入できる人もいる。とにかく冒険者にとって重要なスキルなんだ。
「ねえねえリーベルー。アーンタの持ってるオリジナルスキル、何てったっけ?」
「……喫茶」
「え? なになにー? 聞こえなかったんですけど」
オーバーアクションで耳をこちらに向けてくるシーは、わざとらしくてやらしい。言わせないでくれよホントに。
「マンガ喫茶だよ」
「そう。貴様のオリジナルスキルはマンガ喫茶というものだ。いやはや、一体どんなスキルであるか楽しみにしていた頃が懐かしい。なあ、結局マンガとはなんだ? そのスキルはどうやって発動するのだ?」
つ、辛い……。そう、僕のオリジナルスキル【マンガ喫茶】は全く持って未知の効果であり、十八歳となった現在まで発動できた試しがない。マンガってそもそも誰も解ってないし、喫茶っていうのは喫茶店のことなのかな? とにかく謎だらけだった。
「ふん! 全く使い物にならぬ。だから貴様は役立たずなのだ!」
何か言い返したかったが、言葉が出てこない。僕にとって他のみんなが持っているオリジナルスキルは羨ましかった。しかし、そんな心中を察してくれたのか、僕の懐から一匹のモンスターが飛び出し、ビエントとシーの間を飛び始める。
「キュキュキュキュ! キュキュキュ!」
「うわ! き、貴様……何の真似だ?」
「ちょ? イタタタ! ちょっとー。アンタ、こいつなんとかしなさいよ!」
コウモリっぽいモンスターに足でゲシゲシ蹴られ、シーが鬱陶しそうにバタバタしてる。この子はぱんたといって、実は僕が一番最初にこの世界に召喚したモンスターなんだけど、どういうわけか帰ろうとしないんだよね。
「こらこら! ぱんた、やめなさい」
「キュー」
ビエントにもシーにも何発か蹴りを入れて気がおさまったのか、寝床である僕の上着に入っていく。
「うぬぬぬ。どこまでもコケにしおって。弱小モンスターしか召喚できず、スキルも使えない男のくせに」
「いくら何でも酷くないか!?」
「当然の評価でしょー。なーにいっちゃってるわけえ?」
もう嫌になってきた。そういえば戦士がいないんだけど、あの人何してるんだろ。そんなことをボーッと考えていたら、コホンと賢者が咳払いをする。
「さて、ではそろそろ宣言させてもらうとするかな」
「キャハハ! いよいよじゃーん。待ってましたぁ」
「いよいよって何が?」
まだ何かあるみたいだ。この時、なぜか今ままで一番嫌な予感が胸をよぎった。
「召喚士リーベル。今日を持って、我々のパーティより追放する」
「キター! 待ってましたぁ。キャッハッハ!」
軽やかな吟遊詩人さながらの美声が酒場に響き渡り、僕は頭の中が真っ白だった。まさかの一言に、唖然として声も出ない。
二人は自分が正しいと信じて疑わなかった。
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