貴方の心に不法侵入

合間 妹子

出会い

第一話 最悪の出会い

― 西暦2010年 夏


― 別荘地サンダミエン




「で、君は一体どういう形でこれを弁償してくれるって言うんだ?」


 美しく手入れをされた広い庭で、目の前に仁王立ちになって私を脅してくる男性が居ます。


 体格はガッチリしているのに、その背の高さから同時にすらりとした印象も受けます。私より頭一つ背の高い彼は黒髪で、無精髭を生やしていて、着ている黒いシャツのボタンを数個外しています。


 正にイタリアマフィアのドラ息子という容貌です。足りないのは金鎖のネックレスでしょうか。ごつくて派手な指輪はしているかどうかは見る余裕はありません。とりあえず腕まくりをして見えている肘から先には入れ墨はないようです。


 日焼けした端正な彼の顔はいら立ちを隠そうともしていません。目前の憐れな獲物の動きを少しも見逃さない様子です。


 私はマフィアなんてニュースや映画でしか見たことはありませんでした。現実世界では絶対お目にかかりたくない人種だというのに、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。私は今までの人生で数分前に戻れたらと、これほどまでに思ったことはありませんでした。


「うぁわーあん!」


 私が腕に抱いている一歳のガビーは先程から泣き止みません。それに後ろには三歳のサミーを始め、三人の子供が私のジーンズにしがみついています。彼らは泣いてはいないものの、がくがく震えているのが分かります。それとも震えているのは私自身かもしれません。


「で、ですから……私の今の状況では即金でお支払いはちょっと……とにかく、すぐに弁償することは出来ません。ですから分割にするか、もう少し待っていただければありがたいと、思うのです」


 私は絶望感に押し潰されそうになりながらも、毅然とそう答えます。


「もう少しとは具体的にどのくらいか言ってみろ。俺が情けをかけて猶予を設けたらその間にとんずらして踏み倒すつもりじゃないだろうな」


「ふんぎゃー!」


 ガビーは益々泣き声を上げます。


「ひっくひっく……」


 私の後ろに隠れている子供たちもすすり泣きを始めたようでした。


「も、もちろん逃げも隠れもいたしません! 一括では無理なだけですから」


「君は全くもって気が強いんだな、シニョリーナ」


 彼はニヤリと笑うと一歩一歩私に近付いてきます。余程後ずさりしたかった私ですが、子供たちがしがみついているのか、私自身が硬直してしまっているのか、少しも動けません。


 彼の腕が上がったので私はもしかして暴力を振るわれるのかとガビーをさらにしっかりと抱き締め、反射的に目をつむりました。




***今話の一言***

シニョリーナ

お嬢さん、ミス、未婚の女性につける敬称


初っ端からヒロインいきなり大ピーンチ!

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