香煙の魔女と顔無しの騎士 〜Forest in the mist〜
ぽんぽこ@書籍発売中!!
魔女の棲む森
ザァアア、ギャアア……。
雄大な木々のざわめきに
――
そこに
魔女は魔女らしく。それを
そして今日は魔女の務めを果たす大事な日。
彼女は地獄の釜のような大鍋で、悪魔の
完成した
奇妙な色をしたソレが、意志を持つかのように煙突からゆるゆると
煙が
――この国の民は、決してその森には立ち入らない理由がある。
それは貴族、平民を問わず、一人一人が家族や隣人に二つの
ひとつ。森に棲む魔女を怒らせてはならぬ。
ひとつ。森にある小屋の先には行ってはならぬ。影を感じたら、すぐに引き返せ。
誰しもがその魔女を
一方で、そんなおどろおどろしい作業の裏では、彼女のその美しい見た目に
天気の良い日には、白く美しい花を咲かせる薬草を
雨の日には、手作りのキャンドルに
またある時には、お気に入りの安楽椅子に揺られて、窓の外を眺めながら一日を過ごすこともあった。
そんな魔女は滅多に街に出ることもなく、
朝は少し遅めに起き、その時の気分で一日を消費する。
まさに
「――やぁ、香煙の魔女。まだこんな
「あら、ごきげんよう
約束も取り付けず、
お決まりともいえる皮肉の掛け合いを一通り済ませると、ノーフェイスと呼ばれた男は
魔女は男の
「いつもの
「前回から……まだ大して時間も経っていないのにねぇ。あぁ、可哀想に」
お互い感情の見えない顔で、
男は魔女から煙草を受け取ると、腰元のホルダーから自前のパイプを取り出し、さっそくその味を確かめた。
紫色をした妙に甘ったるい香りの煙が、二人のいる空間を
「やはり魔女の煙草は格別だよ。この匂いがまた心地いい。ふんわりと心を落ち着かせてくれるようだ」
「ふふふ。褒めても代金はまけませんよ」
男は分かっていると言わんばかりに、
動物の
それらは煙草の対価として、香煙を作るための材料をこの男に要求したものだ。
そうやって机の上に次々と出てくる素材を、魔女は
「今回はいつもより多いのね」
「――あぁ。次の戦争は長くなりそうだから」
パイプの先からゆらゆらと立ち
「……そう」
それ以上は魔女も騎士も語らない。
これまでも同じようなやり取りを
どこか諦めた表情の魔女は、騎士とは違う煙草の入ったキセルを取り出した。
そして男に火種を貰うと、ぷかぷかと
そうして言葉のない空間で、二つの色の煙が優雅に
しかし二曲目が始まることは、今までたったの一度も、無い。
先に吸い終えたノーフェイスは「じゃあ、また」と一言だけ告げて、いつものように小屋を後にした。
こうした
前触れもなくふらりと男が現れ、大した会話もせず帰っていく。
せいぜいが、魔女が
まだ若く、美しい
彼女は再び一人になった小さな小屋の中で、首から
――そして銀色に光る悲しげな瞳でひと言、「可哀想な人」と呟いた。
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