第62話
その後、俺とトゥイは拍手を送ってくれた人達から、今の聖ノ国の現状を聞き出した。酒と話題さえあればいくらでも情報を吐き出してくれるものだから、楽なものだ。
おおまかな戦況や各部隊の配置は変わっていないようだが、聞き逃せない情報が一つあった。
「反乱軍の武器が揃いつつある……? しかも、見たこともない機械だって?」
「ああ。一週間前くらいの小競り合いじゃ、デカい鉄球を飛ばして爆破させるもんだから、国王軍は大慌てで逃げ出したって話さ。それを見て、いけると判断したんだろうな。どこからか似たような武器を輸入して……前までは数で言えば国王軍の方が多かったが、戦力として見るなら互角以上だろうなあ」
「……そんな超技術、魔導王国くらいしか……マリンなら知ってるか?」
「ん、なんだい?」
俺は漏れた独り言に反応されて、「何でもねえよ」と返した。
「しかし、この国の金は国王軍が握ってるはずだろ? 反乱軍がどうしてそんなに武器を買い集められるんだよ?」
「ああ、それがなあ……さっきあんたが転ばせた樹海貴族が融通してるらしい。もし今回の勝ち馬に乗れたら王家入りも無い話じゃない。そこを狙ったんじゃないかって噂だよ」
樹海貴族……ぱっと見じゃただの小太りの中年にしか見えなかったが、もう少し探ってみる必要がありそうだ。
俺は男の空いたジョッキを見てお代わりを注文すると、彼はまたニコニコして頷いてくれた。この辺りは冒険者の流儀が通じそうだな。
冒険者の鉄則、仲良くなりたきゃ酒と自慢話を用意してこい、ってな。
「樹海貴族って、もう十分偉いんじゃねえか? 国のヒーローに認められた人間なんだろ? ヒーローってのは国が認定するもんだ。だったら、国王軍に付くべきなんじゃないか?」
「んー、そこら辺は難しい話になるんだけどなあ……樹海貴族はその国じゃ何をしても許されるけど、国を動かすことはできないんだ。ここ、聖ノ国は元々政治は派手じゃなくてな。神様は清貧な人間ほど好むってのが主義だったんだ。それが樹海貴族様にゃ気に入らなかったんじゃないか?」
そう言われて、目の前に広がる酒瓶とパンをじっと見ると、男は大きな笑い声を上げた。
「神の血とパンだけは許されるんだよ。これはこれでいいものだ。俺らなんかは真っ昼間から酒飲んでちょっとした仕事をして、美味いパンをかじれりゃ十分なのさ」
「まあ……贅沢だとは思うけど、冒険者はもっと酷いからな。樹海の連中に比べりゃ確かに清貧だぜ」
「おお、それだそれ。これだけ話したんだ。あんたの話も聞かせてくれよ。下界の連中は何して過ごしてるんだい?」
「ああ……じゃあ、遥か東に伝わるコメ酒ってのを自分で作ろうとしてコケ酒を一気飲みしてぶっ倒れた話でもするかい?」
それは底辺冒険者時代の笑い話だったが、ここではもっとウケた。だが、そっちに話をずらしながら……俺達がどうしてわざわざここまで来たかを話さないように誘導できた。
その隙に、俺は『目星』を使って酒場全体の会話を聞き取る。このスキルも『災害』によってブーストされるようで……俺が欲している情報は自然と耳に入ってきた。
『でも、樹海貴族に恥をかかせたなんて……あの冒険者、大丈夫なのか?』
『普段から剣振ってる連中に樹海貴族が勝てるわけないだろ。あいつらもまた、規則の外側の人間さ。今の国王も他の国にチクってる暇はないだろうしな』
『だけどよう、ウルス様に目付けられたら身ぐるみ剥がされて殺されちまうぞ。あの熊様は容赦ねえからなあ……』
『それって、あいつらがよっぽどの悪さをした場合だろ? そんな悪そうな奴には見えねえよ』
なるほど……言わば、樹海貴族ってのはヒーローという飼い主を持つ貴族ってわけか。その辺は奴らが下界と呼ぶ樹海の中でも一緒だな。金を稼いだり成果を挙げて貴族になるのが普通で、貴族になってから金を稼ぐって辺りが違いか?
『それより、東西の戦はどうなると思う?』
『そりゃあ国王軍は負けないだろう。総力では一・五倍の差があるんだぞ?』
『でも反乱軍の持つ兵器は馬鹿にはできないぜ……ここ、南島を挟んで爆発をポンポン撃ち込むなんて大したもんだぜ』
『こっちは中立の島だってのに、騒動は勘弁してほしいよ……何はともあれ、平和に終わることが一番だねえ』
この酒場で得られる情報はこのくらいか……。まあ、色々と分かったし確認したい事もある。一度下に戻るか……。
「トゥイ。どうした? 妙に静かだけど……」
「……あっ、申し訳ありません。少し、周囲を警戒していました。何だか、この国の植物……やっぱり、不思議なんです。まるで、ドライアドの国の神木を思い出させるような……」
「へえ……帰りがけにすこしいただいていくか。雑草を持っていくくらいは神様も見逃してくれるだろ」
俺はそう言いながら、ポーチに十種類ほどの草を集めて『天の螺旋』を使って地上に降りることにした。
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