パイプ使いは紫煙を纏う~俺だけが使える毒草からスキル無限採取術~
@sakumon12070
第一章
第1話
この世界には、いくつもの冒険者ギルドがある。その内の一つ、ディアナギルドで最底辺の冒険者、リーフは受付嬢といつものように言い合っていた。
「だから、本当に俺もスキルを手に入れたんだよ! これで、まともな仕事も出来るようになるはずだろ。冒険者は適材適所。確かに今までの俺は弱かったかもしれない。でも、このスキルでこなせる依頼はあるはずだ!」
リーフはすらりと高い背に短い黒髪、色白の肌と見た目こそ悪くなかったが、冒険者に外見は関係無い。相対する受付嬢のレリーは爪の手入れをしながら茶髪のロールを揺らして、まともに取り合う気はなさげだった。
「別にリーフさんが何のスキルを持とうがどうでもいいんですけどー……『剣聖』とか『賢者』でなく、言わば『毒耐性』でしょう? 新ポーション開発の毒味役にすらなれないじゃないですかー。それってちょっと、微妙ですよね。わざわざ一人で遠征してスキルを手にしてまでそれって……本当に、分相応って感じですよねー」
リーフは不快そうな顔つきをするが、レリーはどこ吹く風。二人の関係はいつもこうだった。リーフは冒険者として一人前になったはずなのに、まともな仕事を一切もらえずにいたのだ。
依頼をこなせなければ、冒険者として成長できるわけもない。だというのに、弱い事を建前にレリーはいつもリーフを突っぱねてきたのだ。
そして、ついにはレリーは溜息交じりにこう漏らした。
「あーあー、アタシの担当が『金獅子』様だったらなあ……。よりによって、『金獅子』様に嫌われてる奴が担当なんて……ツイてなーい」
そう、リーフの現状の原因はそこにある。『金獅子』はたった五人のパーティでディアナギルドを支えるほどの実力者達で、そのリーダーはリーフを何かにつけて虐めていたのだ。全ては自分が強者であることを周囲に示すために、だ。
この受付嬢はその『金獅子』の信者であり、だからこそ余計リーフにキツくあたっている節もある。だが、当のリーフからしたらたまったものではない。
「それだけじゃない。そのスキルの応用で……いくらでもスキルを身につけられるようになったんだ。ちゃんと使いこなすまでには時間はかかるけど、必ずギルドの力になれるはずだぞ」
「だから、もうそーゆー話じゃないんですって。つか、そんなのあり得ないっしょ。気付いてないなら言っちゃいますけど、帝都最強の『金獅子』様が差別宣言出してる時点で、リーフさんに仕事なんかないです。ここでアタシが逆らって今後『金獅子』様の担当に就けなくなったらどうしてくれるんですかー?」
それは私欲だろう、とリーフは唇を噛みしめる。本来、ギルドの受付嬢と冒険者は協力し合い、成果を出すものだ。それを最初から放棄しているレリーではもう話にならない、とリーフはある決意を固める。
ディアナギルドに所属している事と、『銅級』の地位であることを示す身分証明書……そのバッジを、取り外してレリーに差し出したのだ。
「だったら、もうこのギルドに用はない。俺はもう好きにさせてもらう」
その信念の籠もった声に、レリーは僅かに興味を示した程度で……一応仕事だからなあ、と言葉を返した。
「別に、何もさせてあげないわけじゃないですよ? ドブ攫いとか肉盾の仕事くらいなら今までみたいに紹介しますし、銅級の最底辺には相応しい扱いでしょ?」
「ここに居ても、俺に未来はない。それが今日ハッキリと分かった。だから出て行かせてもらう」
「フリーの冒険者とか、無職以下ですよ。実績と評判が無ければ個人指名の依頼なんか来ませんし。そもそも、『無能のリーフ』に仕事なんて……おっと、失礼失礼」
そう、『金獅子』の発言力は強く、彼らがばらまいたリーフの悪評はもはや帝都の誰もが知るところなのだ。
「そうかもな。だけど……こんな力を手に入れても使ってくれない……使おうともしないお前と組んでるよりは、百倍マシだな」
「そうですか。だったらさっさと出てってください。手続きはこっちでやっておきますんで……はい、おつかれでしたー」
リーフのギルド脱退は、ディアナギルド内でちょっとしたニュースになった。リーフに与えられていた嫌がらせの数々を見てきた冒険者達は、嘲り半分同情半分の気持ちで見送っていた。
◇
その日、穏やかな暮らしを続けていた帝都に、激震が走った。帝都中の人間を押しつぶすような、人智をあざ笑うような圧力、魔力反応が出現したのだ。それを街中に知らせるために大音量の警報が鳴り響く。
『この帝都に、脅威度Xランクの魔物が猛スピードで向かってきております。繰り返します。脅威度Xランクです。既に周辺諸国の一部が『消滅』しております。住民の皆様方は即座に避難の準備を! 冒険者各位はそれぞれのギルドで態勢を整えてください!』
警報は間違いなく、帝都でも大重鎮のギルドであるゼウスギルドから発せられてた。帝都に魔物が近づく事自体はそう珍しい話ではない。だが、ゼウスギルドが発見して『自分達だけでは対処できない』と声明を出すのは長い歴史でも初めてのことだった。
そして、リーフが去って行ったディアナギルドでも緊急会議が行われていた。
「今こそ『金獅子』の力を帝都に示すべきです! ウチからは彼らを出しましょう!」
「馬鹿者、脅威度Xともなれば、一パーティでどうにかなる問題ではない。だからこそゼウスギルドも帝都全体に協力を要請したのだ。もし『金獅子』を失うことになれば……」
「国ごと無くなっちまう事を考えれば出し惜しみしている場合じゃないでしょう!? それに、この未曾有の危機は逆にチャンスでもありますよ。大きく貢献すれば帝都でのギルドヒエルラキーも逆転するはずです!」
議論は既に『どう脅威に立ち向かうか』ではなく、『どうすれば報酬が大きくなるか』に移りつつあった。それがディアナギルドの性質。冒険者同士の依頼の取り合いなどが起こっている現状では普通の対応かもしれない。
しかし、それ以上に『金獅子』という一つのパーティを神輿で担いでいるために、他の冒険者への意識が薄れつつあった。それが今ここで露見した。
しばらく愚にもつかない話し合いをしている間……その時、あの降りかかるだけで体が潰されそうな魔力の圧が消えた事をその場にいた誰もが感じた。どういうことだ、と口に出す前に再び警報器から声がした。先ほどの放送からまだ三十分も経っていないというのに、何が起こったのかと全員が耳を澄ました。
『えー、緊急、緊急です! 先ほどのXランクの魔物ですが……たった今、討伐されました。それも、一人の冒険者の力によって……って、マスター、これ本当ですか? いえ、確かに魔力反応は消えてます! その英雄の名は……ええと、リーフ、さんです! ありがとう、ありがとう、冒険者リーフ! 彼の名は、英雄として語り継がれるでしょう。詳細は後日また追って知らせます……今は、この脅威が収束した事を喜びましょう!』
その名は、ディアナギルドでは特に有名な名前だった。いつまで経っても銅級の最底辺にいる、『金獅子』からイジメめいた事を受けている事は幹部も知っていた。
「確かに……帝都周辺から一切の魔物反応が消えた。もちろん、あの馬鹿でかい魔物の反応もな。ふう、一時はどうなるかと思ったが……リーフといえば、ウチ所属の冒険者ではないか。まさか単独でXランクの魔物を討伐するとは思わなかったが……これで、手柄は独り占めというわけか」
ディアナギルドマスターがそんな事を口にした時、会議室の片隅に居たレリーの肩がビクリと跳ねた。いつも化粧を怠らない彼女の顔には脂汗が流れ、顔色は蒼白に染まっていた。
(そ、そんなすごいスキルを持ち帰ったのに……アタシ、追い出しちゃった……。いや、でも、あのリーフなのよ? 『無能のリーフ』がそんな事するなんて……)
「資料を見る限り、彼はスキルを入手するべく遠征していたようだな。そこで強大な力を手にしたのだろう。これからは頼れるかもしれんな……確か、担当はレリーだったな。やったじゃないか、君も大出世頭の担当だぞ!」
「いえ、あの……はい……。そ、そうですね……でも、そのリーフなんですが……先日、ディアナギルドから、追い出して、じゃない。そう、勝手に出て行ってしまったんです!」
その一言で、場の空気はピシリと凍った。みるみるうちに険しくなっていく幹部の顔を見て、レリーの胃はまたキリキリと痛み出す。
「馬鹿者! 今すぐに連れ戻してこい! 他のギルドに取られでもしてみろ、貴様の首一つじゃ済まさんぞ!」
「は、はい!」
(もう、一体どういうことなのよ! 確かにスキルは『毒耐性』だって……あ、でもその後色々言ってたかも。あー、もう少しまともに聞いとくんだった!)
――この場の誰もが……いや、帝都中が予測していなかったこの結末にたどり着くためには、リーフの物語を読み解く必要がある。それは今から数ヶ月前、リーフがスキルの源、『樹の魂』に出会った場面から遡ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます