蘭風の斬

猫とトランジスタ

プロローグ

「次のニュースです。昨日未明、突如として東京湾沖に噴出した海底火山は、二十四時間経過したいまもなお、はげしく噴煙を上げ続けています。海上保安庁は、厳戒態勢のまま現場の観測を続けておりますが、沈静の兆候はいまだに見られないということです。それでは、こちらのVTRをご覧ください——」



「さて本日はスタジオに、火山の噴火予知についての研究がご専門の、明凰めいほう大学教授、富永博明とみながひろあき先生にお越しいただいております。富永先生、今回の噴火についてひと言お願いいたします」


「はい。今回の東京湾沖での火山礁かざんしょうの活動は、戦後一九五〇年代に伊豆いず諸島南部に発生した海底火山、明神礁みょうじんしょうの事例に酷似していると言えます」


「その際には、海上保安庁の観測船が、噴火に巻き込まれて遭難したということですが、今回もそのような危険があると考えられますでしょうか?」


「この区域での火山活動は極めてまれな事例のため、現在ははっきりしたことは申し上げられませんが、海上での火山活動は継続しており、周囲の厳戒態勢は当分続くと思われますね」


「また、ここのところ日本各地に存在する活火山で、火山活動が頻発しているということですが、今回の件との関連性についてはいかがお考えでしょうか」


「そうですね。現在北海道の十勝岳とかちだけのほか、東北の吾妻山あづまやま、関東甲信越の浅間山あさまやま、そして九州の阿蘇山あそさんなどで、短時間に極めて多い回数の噴火活動が観測されております。これらとの関連性についてはいまだわかりかねますが、それぞれ十分な警戒が必要です」


「いずれは、富士山も新たな火山活動をはじめるのではないかという意見もあるようですが……」


「それにつきましても、いまはまだ推測の域を出ない、としか申し上げられません。まずは現況を十分に把握し、くれぐれも風説やデマなどに惑わされて軽率な行動を取らないように、国民のみなさまには呼びかけたいですね」


「今後も、現場の動向に注視してまいりたいと思います。先生、ありがとうございました。それでは、次のニュースにまいります……」


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